バイク乗りだった私は現役の頃に二度にわたる盗難被害、一度の損壊被害に遭いました。バイクの盗難や壊される被害に遭ったライダーの無念さや憤りは痛いほど理解できます。
被害に遭ったことに対して運が悪かったとか、自分にも責任があるとか小賢しいことは言いません。全て加害者が悪いのです。
しかし、防ぐことができる犯行であれば手段を講じて愛車を守りたいじゃないですか。
今回は私の体験談を通じて、辛い思いをしなくてよい為の心構えや実際の装備についてお話していきます。
犯罪者の心理からバイクの盗難防止を考える
盗難防止の鉄則は「時間を掛けさせる」
空き巣をはじめ窃盗加害者は「時間が掛かること」を最も嫌がります。
あえてお年寄りのいる家に侵入する強盗が最近増加しています。侵入前にお年寄りの在宅時間を調べて金品の在り処を直に質すことで自分たちが探す時間と手間を省く「時短術」だと言われます。
また警備会社のシールが貼ってある家では、侵入前に事務所からの出動から到着までの時間を逆算し、その間での犯行の可否を考えると言われます。
逆に言えば、犯行に時間が掛かると他の誰かに見つかる危険が高まり、また警察へ通報される危険も生じます。
つまり、手間を掛けさせることがほぼ全ての犯行を防止する手立てと言えるのです。
このことから、バイク盗難への有効な対策は「駐輪の際にカバーを被せる」と「多重のロック」で犯行に時間を掛けさせることなのです。
バイク駐輪の際にカバーを被せる
まず、タイヤまでバイク全体をすっぽりと覆うことができるバイクカバーを被せましょう。多少高価ですが、生地が簡単には破れないしっかりと厚めで丈夫な難燃性のものが長持ちするのでお勧めです。
バイクは外から見えないガレージの中に置くのがベストでしょう。しかし、一人暮らしで賃貸アパートなどに住んでいる場合などでは、屋外に駐輪することになります。その際にカバーを被せることで「防犯装備が解らず不安をあおる」「カバーを外すだけでも時間も掛かるし、音を立ててしまう」「管理しているアピールができる」ことが期待できます。
カバーはただ掛けているだけでは風や手でめくられてしまい、意味がありません。そこで、簡単にめくられたりしないようにワイヤーなどで車輪とカバーを結び付けておくとより良いでしょう。
私はカバーの中に手を突っ込まれて、ラジエーターだけを持ち去られた苦い経験があります。カバーは前後輪をワイヤーで留めたり、裾を絞って内部に手を差し込めない造りのものがいいですね。
前後輪をロックする
バイクはぜひ前後輪をロックしておきたいですね。できるなら両輪とも身動きしない支柱やガードなどと結び付ける「地球ロック」をしておくとさらに効果的でしょう。
地球ロックをせずにいると、大型バイクでも台車やスケボーがあれば2〜3人で移動させられます。また、クレーン付きのトラックを駆使する窃盗団も存在するという話も聞きます。地球ロックは窃盗団に対策していることをアピールできる手段と言えます。
しかし、カバーと併せて前後輪ともに地球ロック…ではライダーの負担が重くなり、いちいち着け外しするのも面倒ですよね。面倒は手抜きの原因となります。
実際には前後輪のどちらかを地球ロック、もう片方は振動を感知すると鳴り出すアラーム機能が付いているディスクロックやU字ロックを使用すると効果があるでしょう。
大音量のアラームが鳴ると思わせるだけで威嚇になり、窃盗団も手が出しにくいはずです。
複数の対策を組み合わせる
地球ロックとアラーム付きディスクロック、車体カバーと地球ロックなど最低でも2種類、できればそれ以上の対策を組み合わせて保管するのが防犯の常識です。
学校や勤務先、ツーリングの途中でも盗難の危険があります。地球ロックのできるワイヤーやチェーンは必ず携行して、短時間の駐車であってもロックを忘れないようにして下さい。
防犯ブザーや電子ホイッスルを携行して、犯行を見掛けたら離れた場所から音を鳴らす、という手段も有効です。女性ライダーであれば自身の防犯上でも役立つでしょう。
スクーターのように座席の下に収納できるタイプではないバイクでは、ヘルメットは車体のメットホルダーに繋がず、持ち歩くことをお勧めします。ヘルメットのひもや金具を切って持ち去ったり、使えなくしてしまったりすることがあります。
ライダーが困るイタズラをする加害者も残念ながら世の中にはいるのです。
アパートの管理会社や大家さんに話を通して協力してもらう
アパートの管理会社や大家さんにあいさつやお話をする際に、バイクの管理方法を相談して協力を得たり、知恵を拝借したりする手もあります。
例えば、街灯など夜間に明るくなる場所にバイクを係留しておくことを了承してもらう、バイクから少し離れた所にセンサーライトの設置を許可してもらうなどです。またアラームが鳴るロックや装置の使用を了承してもらうとより良いでしょう。
アラームやセンサーライトに関わる、ご近所からのクレームも上手に処理してもらえるようになると良いですね。
メーカーの盗難抑止システムは過信しすぎない
最近の国内バイクメーカーでも高性能のロックや盗難抑止システムを次々と開発して搭載している様ですが、正直どれも決定打とは言えません。
どんなに頑丈な鍵やロックでも必ず外れるようにできています。アラームも説明書やマニュアルにない止め方があります。イモビライザーのような電子防犯部品にも解除方法があります。
信じられないことに、加害者側にはそういった専門の知識をもつ仲間や協力者がいることもあるのです。バイク屋の技術者がそんな集団の関係者として、小遣い欲しさに知識や技術を悪用することだってあります。
窃盗団は狙ったバイクがあれば、どのような形であっても持ち去ろうとします。窃盗は言わば加害者の優越感を満たすゲームであり、ネットで売れれば生活の糧になるからです。
盗まれたバイクはどうなる?
一昔前であれば、バイクの盗難は暴走族か某ロック歌手のヒット曲に触発された無垢な若者の仕業が相場でした。
しかし、今では外国人窃盗団が主役です。窃盗団が盗んだバイクを仲間の中古バイク屋に売るケース、解体して部品としてインターネットオークションで取引するケース、また国外へ密輸出するケースもあります。こうなると盗まれたバイクが無事に戻ってくる確率は高くありません。
完全無欠の対策はない
あなたのバイクを狙った窃盗団は、あなたの周囲をいつも観察しており、隙を見計らっているといっても過言ではありません。
面倒だから、短時間だからとロックを掛けずに放置するなど対策をおろそかにしていると、すぐに仲間と連絡を取り合って盗みに来ます。
カッコいいバイクだなぁと眺めに来る素振りをして、駐輪場の地形の確認や防犯ロックの有無などを観察している可能性だってあります。
残念ですが、これが現実です。
一番の心掛けは「短時間でも対策に気を抜かない」ことです。複数の盗難対策を手間取ることなく施せるようにライダー自身も施錠や開錠を練習しておくべきでしょう。
そして、盗難や損壊に対応できるバイク盗難保険に入っておきましょう。万が一の時に金銭的な負担を減らしてくれる可能性があります。
増える外国人がらみの盗難
来日した外国人少年が最初に教えられた日本語
私は以前、外国人に日本語を教える活動を行うNPO団体で、ボランティアの一環として地域の団地に住む外国出身の少年や少女に日本語を教えていました。
ある日、教え子のブラジル人少年Aが来日してまだ間もない少年Bを連れてきて話し掛けてきました。
「センセー、この子(少年B)さ、最初に覚えた日本語は何だと思う?」
「ん-、何だろう?あいさつかい?」
Aは照れくさそうなBに催促して話させようとします。Bはその言葉をボソッと口にしました。
「チョッケツ(直結)」
Bが口にしたのは、窃盗の手口そのものの隠語でした。
驚きで一瞬固まった私でしたが、気を取り直して「どこで覚えたの?」と質問してみました。
Aがポルトガル語で通訳し、Bが返答したのを私に伝えてきました。
「(先に来日している)お兄さんが日本で生きていくうえで一番大事な言葉だって教えてくれた」と。
意味が解っているのかいないのか、腹を抱えて笑うAにつられてBも微笑んでいました。
私もその場では笑ってみせましたが、同時に社会の闇を垣間見た気がしました。
当時、外国人窃盗団が原付スクーターから大型バイク、高級外車などを狙って犯行を繰り返しているという報道があった頃でした。過去に私も実際にバイクの盗難に遭っていました。
この子の兄…そんな身近に窃盗団は実在していたのです。
幸いなことに、二人とも直結でバイクを盗むことは犯罪だと解っている様子であり、その時点では窃盗団に直接関わっていなさそうだったので、それ以上の言及はしませんでした。
大多数の外国人はまじめで良い人たち
大多数の外国人労働者やその家族は母国を離れて、苦労しながらも日本の法律やマナーを理解し、社会に溶け込んで日本人と共に生活しようと努めておられます。実際に触れあうと明るくて朗らかで、すぐに打ち解け合える素敵な人たちです。
私はそういった人々と多く関わってきた経験から、彼らを頭ごなしに否定するつもりは全くありません。
しかし、ごく一部に発生する外国人中心の窃盗団やギャング団は日本の文化や平穏な生活に理解を示すことなく、わがままな道理や考え方で悪事を働きます。
育った文化や環境が違えば…
外国人中心の窃盗団やギャング団は、組織の結束や仲間との繋がりを何よりも大切にします。最も大事なのは仲間との絆であり、仲間が喜ぶことが最大の幸せなのです。
母国の社会や文化で育ち、日本の社会や文化に溶け込もうとしない外国人には日本人のメンタリティーは一切通用しません。罪悪感や倫理観、加害者意識をもつ認知の構造が全く違うからです。
また、日本人でも幼い頃から親や周囲の大人から物事の善し悪しをしつけられて育った人ばかりではなくなってきました。みんなが迷惑する行為であっても、自分たちが面白ければ良いとばかりに動画に撮ってSNSで公開してしまうような若者たちもこの一例でしょう。
中には外国人窃盗団に売却する目的で、窃盗の実行犯を日本人少年らが請け負う闇バイトがある、という話も聞かれます。
社会性の未熟な若者にとって行為の善悪など特にどうでもよく、さらに突き抜けた行為を仕出かしてマウントを取り、仲間に一目置かれようと躍起になることもあります。
盗難対策を行うもうひとつの意味を考えてみた
自分のバイクが被害に遭うと考えると、もちろん穏やかな気分ではいられませんよね。
しかし、私にとって盗難対策は「バイクを盗まれない」だけでないと考えています。
それは「自分とバイクが被害者にならないだけでなく、その相手もさらなる加害者にしない」ということです。
財産であり、分身であり、最愛のパートナーである自分のバイク。
自身が窃盗の被害者にならず、加害者に窃盗を諦めさせるためにも、まず自らの手で行える盗難対策に取り組むべきだと思うのです。
盗まれた自分のバイクが次の犯罪に利用されるかも知れないし、重ねる罪や交通事故で彼らの人生をさらに歪ませるかも知れません。
もしその事故で被害者が生じたら、その人たちの人生をも狂わせかねません。
歪んだ後はどう叩いて直しても、もう元の形には戻りません。それは人の経歴もバイクのフレームも同じです。部品なら交換できても、歪んだ人生の交換などできません。
カバーをきっちり掛ける、ロックを一つ追加する、街灯の下で地球ロックする、その許可を権利者に取っておく…確かに面倒だけど、そういったひと工夫で間違いなく自らが被害者になる犯罪は減らせ、自分の大切なバイクで加害者も罪を重ねずに済みます。
ということで、今日からできる盗難対策を始めてみませんか?
新車だけでなく、原付のスクーターでも旧型車でも盗難には関係ありません。窃盗団からの物色や実害の恐怖にだって日々怯えずに済みますよ。
賢明な読者の皆様にとって、バイクを愛する時間が、愛車と共に楽しむ時間が少しでも長く続きますように。