タイトルに【書評】と書いてしまったが、そんな大それたことを言うつもりもないし、僕が評価をするのなんておこがましいが、読了した感想を綴っていきたいと思う。
まず、この本を読むに至った経緯だが、バイクにリターンしてからというもの毎日バイクのことばかり考えて日帰りではあるがツーリングにも行きまくっていた。アクセルを回して感じる風と駆け抜けていく景色の爽快感にすっかりハマってしまったのだ。僕は「峠」を攻めるような、いわゆる走り屋ではないが、ワインディングで自分の思うスピード、理想のラインで曲がれた時、やはり気持ち良いと感じる。「速い」ということに魅力を感じることもあるし、「速く走りたい」と思うこともある。
しかしながら技術不足なのは自分でしっかりと理解しているし、公道でスピードを出すことがいかに危険なのかということも分かっているので決して無茶はしないし、イエローカットして危険走行なんてもってのほかだとも思っている。
ただ、いつからかサーキットへの憧れを感じるようになり、自然とMotoGPを観るようになっていた。時速350kmで駆け抜けていく超人的なライダーたちのバトルを観ていると興奮する。
そんなとき、SNSでこの本のポストを見つけた。当然、Moto GPでメシを喰うつもりもないし、この年齢から喰えるはずもないことは分かっているが、少しでもMotoGPの世界を知ることができる、あの興奮渦巻く華やかな世界へ少しは近づくことができるのではないか?という思いで自然とポチっていた。
そんな衝動に駆られて購入したこの本だが、僕の想像を遥かに上回る、いや想像したことも無い世界がそこに存在した。
Moto GPのパドックでメシを喰う9人のレース職人
世界最高峰の二輪レースであるMotoGPのパドックで活躍していた9人の日本人を著者である、西村章氏がインタビューして出来上がったのがこの本だ。
MotoGPといえば、日本人にはあまり馴染みがないというか、野球やサッカーなど他のスポーツに比べるとマイナーな感じは否めない。一部の熱狂的なバイクファンたちの間では、とてつもないイベントなのだろうが普通に暮らしているとニュースでも流れてこないし身近に感じることはない。
僕にしてもそうだ。バイクにリターンするまで、MotoGPがどこでどのように行われていて誰が有名で、なんて全く知らなかったし、興味すらなかった。Moto GPを観始めた頃に、日本メーカーがHONDAとYAMAHAしか参戦していないことに驚いたぐらいだ。僕としては当然のように、KawasakiやSUZUKIも参戦していて、日本の4メーカーが圧倒しているものだと勝手に思っていたのだ。ところがだ、いざ観てみると、もうレースの世界では日本のバイクメーカーは少数で、ほぼドカティなのだ。他にもKTMやアプリリアなどが参戦しているが、2023年はドカティの一人勝ち状態だ。
それでも、少し前までは日本のHONDAもYAMAHAも強い時代があった。そんな時代にパドックで活躍していた人(現在も活躍している人)が、この本で紹介されている。かつての有名ライダーたちの名前もポンポンと出てくる。
そのレース職人たちがどのようにしてMotoGPの世界へ関わり、どのようにして信頼を築き上げてメシを喰えるまでに至ったのか、どのような苦労があったのかなど、レースの華やかな表の世界とはまた違う視点でMotoGPを知ることができる。
もちろん日本の、世界のレース業界では有名な人たちばかりなのだろうが、僕には全員が初めて聞く名前の人だ。おそらくバイクと関わりがない人には知る由もない。しかしそこに、確実にその人たちは存在したのだ。
パドックの仕事
パドックの仕事とはなんだろうか。僕はこの本のサブタイトルである「グランプリパドックの生活史」を見た時に、真っ先に浮かんだのはメカニックの仕事だ。というかメカニック以外にチーム監督はいるとして、他にどんな仕事があるのかさえ知らなかった。
パドックの仕事と言っても、実に多種多様で、レースに関わりが無い人たちからすると想像もつかないような仕事まであることが、この本を読めばわかる。そして世界中で行われる年間約20ものレースを転戦しながら、そんな風に生活を送っているんだと想像することができる。
日本で行われる日本 GPはもちろん1回のみ。残りの19戦は海外となる。そんな中、英語はもちろんイタリア語やスペイン語、ドイツ語などを身につけ、外国人だらけの中で活躍しているのだから同じ日本人としては誇らしさしかない。外国語に関しては身につけるしか、そこで生きていくことができないから自然と身についたんだと思う。
それでも食生活や文化の異なる外国人と生活を共にし、仕事をしながら各国を渡り歩くというのは並大抵の人にできることではない。中にはそっちの方が合っている人もいたようだが、多くの日本人はまず文化や生活習慣の違いで挫折するらしい。同じ仕事をするにしても日本人と外国人ではやり方や進め方が違うだろうし、スピード感や言葉の言い回しにしても全く違ってくる。それらを現場で経験して自分の中に落とし込んでいく作業には、膨大な時間と努力が必要であったことは想像に容易い。
MotoGPで仕事するための本ではない
本書の冒頭でも触れられているが、この本は「MotoGPの世界で仕事をするきっかけを掴むノウハウ」を記した実用書ではない。
MotoGPのパドックで働く日本人が、どのようにしてメシを喰ってきたのか、どのようにして生きてきたのかなどを垣間見ることができる。二輪ロードレースの繊細でありながら豪快でクールな、そして魅力的な部分がいっぱい詰まった内容になっている。
しかしながら、もしMotoGPの世界に関わりたい!という方にも、参考になることは沢山綴られている。それを僕がここで語ることはしないが、この本を読めばきっと理解できると思う。
もし自分がこの本に10代や20代の頃に出会っていたのであれば、希望を胸にMotoGPの世界を目指したかもしれない。今でもチャンスがあるなら関わってみたいが、僕にできることは無いし、そんなチャンスは僕のような人間には巡ってくることもないだろう。
いわゆる日本の一般的な社会人とは全く違う考え方で生きてきたある意味冒険のような人生が本書では語られている。
最後に
感想を綴る、と言いながらほとんど感想を述べてこなかったが、読み終えてみて「面白かった」というのが正直な感想だ。ありきたりの陳腐な言葉ではあるが、面白かったのだ。
え、そんなことまでするの?そんな仕事もあるの?という知らなかったこと、想像もできなかったことが本書には詰まっている。並大抵の苦労でそのポジションを得たわけではないことは簡単に想像できるし、楽しいことばかりではないこともわかる。それでも、この本に登場した人たちは皆、レースの世界が好きなんだなということ。何かしらレースに関わっているのが楽しいんだなということ。
レースの主役はもちろんライダーかもしれないが、その裏でレースを円滑に進めるためには膨大な数の人間が関わっているんだと知ることができた。
本書を読んで、さらにMoto GPにへの興味が強くなったし、チャンスがあればサーキット走行も経験したいと思うようになった。また、海外は難しいが、2024年の日本 GPには行ってみたいと思っている。
2024年のMoto GP開幕が待ち遠しくて仕方ない。