キャブレターとフューエルインジェクションの違い

暦では9月に入り、長く暑かった夏の終わりが近づいてきましたね。これからいよいよバイクシーズンの到来です。夏にはバイクに乗らなかった人もいると思いますが、愛車のエンジンの調子はどうでしょうか。

そこで質問なのですが、皆さんが乗っているバイクの燃料吸気装置は、キャブレーター(以下キャブ)ですか?それともフューエルインジェクション(以下Fi)でしょうか?バイクに長く乗っているライダーさんや旧車好きは、キャブ車に乗っている(いた)のだと思います。また最近10年以内にバイクの免許を取って、新しいバイクの乗られている方はFI車に乗られていることでしょう。

筆者が所有している大型バイクは、BMW・R100RTはキャブ車、ドゥカティ848EvoコルセSEはFi車です。
Fi車は、気温の低い冬でもエンジンがすぐかかるなど、非常に快適です。対してキャブ車は、冬の寒い時にエンジンがかかりにくかったり、燃費が薄く/濃くなって調子悪くなったりするなど、それなりに手間がかかります。でも文句を言いながら少し時間をかけて調整すると、バイクが良く走ってくれるのが楽しかったりします。

今回は「キャブレターとフューエルインジェクション」の構造の違い、メリット・デメリット、そして調整の仕方など、バイク初心者にもわかるように説明していきたいと思います。 

愛車BMW・R100RTに搭載しているFCRツインキャブ
目次

キャブレターとフューエルインジェクションとは?

そもそもキャブとFiって何?という話からしていこうと思います。キャブとFi、どちらも燃料をエンジンに送り込む装置です。シンプルに言うと、そのやり方がアナログ式なのが「キャブ」、デジタル式なのが「Fi」です。それではまずキャブとFiが燃料を供給する仕組みについて、簡単に説明していきます。

・キャブレターが燃料を供給する仕組み

①エンジンのピストンが下がります。

②エンジン内部に負圧が生じます。 (*負圧とは注射器を引っ張った時に、発生する圧力と同じと考えてください)

③負圧によって、燃料と空気(2つあわせて混合気)を吸い込み、それをエンジンに送ります。 

Kawasaki4気筒用のFCRキャブレター(Webikeより引用)

・フューエルインジェクションが燃料を供給する仕組み

❶各種センサーがその時の気温や酸素濃度などを確認します。

❷その瞬間の条件に最適な燃料の量を計算します。

❸インジェクターから燃料を噴射し、空気と共にエンジンに送り込みます。

まずバイクは、エンジンに燃料(ガソリン)を送ってやらないと動きません。その動力源の役割をしているのがキャブでありFiという事ですが、上記のようにプロセスが違います。

車は1990年代にキャブからFiになりましたが、バイクは2000年を過ぎてもキャブ車が作られていました。しかしながら年々厳しくなる排ガス規制に、キャブ車が対応できなくなってきたことや技術の革新もあり、2010年以降はバイク業界もFiが主流になってきました。
そして現在生産されているバイクのほとんどはFiを採用しています。そのような状況下でも昔ながらのキャブ車を愛し、乗り続けているライダーは少なくありません。

キャブレターとフューエルインジェクションのメリット・デメリット

バイクは車に比べると趣味性が高い乗り物です。キャブは自身でセッティングできるので、やはり昔ながらのバイク乗りには刺さるところも多いようです。

この章では、キャブとFiのメリット・デメリットを考察すべく、下記の表を作成してみました。尚、同一メーカーで同じ排気量のバイク同士の比較を想定しています。

項目キャブFi
①燃費Fiより悪いキャブより良い
②始動性気温の低い時は悪い年中良い
③出力Fiより少し劣るキャブより少し勝る
④メンテのしやすさメンテ必要メンテほぼ不要
⑤車体価格Fiより安いキャブより高い
⑥調整自身で調整できる専用の機械等が必要
⑦修理代安く済む結構高い
  • 燃費に関してですが、気候条件に左右されやすいキャブ車の方が、若干Fi車より良くない感じです。
  • の始動性はキャブ車はチョークを引けば、寒くてもおそらくエンジンはかかると思います。Fiはオートチョーク内蔵なので始動性はキャブより良いはずです。
  • の出力に関しては、スーパースポーツの最高峰バイクであればFi車の方が断然最高出力が高いですが、一般公道を走ることに関してはそこまで変わりません。
  • キャブ車は走らない時期が長い時に、ガソリンを抜いたり清掃したりといったメンテが必要になります。
  • Fi車の方がコンピューターが入っていることもあり、キャブ車より車体価格は上がります。
  • キャブ車は自身で調整できるのが醍醐味です。対してFiは専用機械が必要と言うこともあり、自分では調整しにくいです。
  • キャブ車の方が作りが簡単なので安く済みます。Fi車はコンピューターで制御されている為、直すのにお金がかかることが多いです。

キャブレターの構造とセッティングの仕方

・キャブの構造

 それでは次にキャブの構造を見ていきたいと思います。

キャブレターはスロットルを開ける際の負圧を利用して、ジェットと呼ばれる細いノズルを通して燃料タンクからガソリンを吸い上げます。その途中でガソリンと空気を混ぜて混合気となり、エンジン内部に噴射されます。

ライダーがスロットル(アクセル)を開ける度合いによって発生する負圧が変わり、送り込むガソリンや空気の量も変化します。その結果、スロットルで速度調整ができるわけですね。

全開時にはメインジェット、安定走行時のジェットニードル、アイドリング時にはスロージェット、キャブレターは場面によってジェットを使い分けています。

キャブ乗りの皆様が大好きなケーヒンFCRの構造を添付しておきます。

みんな大好きケーヒンFCRキャブの構造

・キャブレターの調整

キャブの調整はどういった時に必要なのでしょうか。エンジンのボアアップ、マフラー交換時、エアクリーナを外した時は、調整した方が良いです。そして天候・気温・湿度・気圧の変化によっても調整の必要な時があります。

  • 夏場:気温&湿度が高い夏場は、酸素密度が低下し、混合気は濃くなります。
  • 冬場:気温&湿度が低い冬場は、酸素密度が上昇し、混合気は薄くなります。冬場にキャブ車のエンジンがかからない理由は、混合気が薄いからで、チョークを引いて混合気を濃くしてエンジンをかけるわけですね。
  • 雨天時:湿度が上昇して酸素密度が低下する為、混合気は濃くなります。

筆者はキャブの調整にあまり詳しくないのですが、考えられる症状や状況、原因、そしてセッティング方法を下記にてまとめてみました。

アクセル症状・状況原因セッティング
全開時息つき/ノッキング/オーバーヒート/プラグの電極が白い燃料が薄いメインジェットの番手を上げる/プラグの焼け色を見て1ランクずつジェットを上げる/キャブレター内部&燃料コック&ホース等の詰まりを点検
全開時i頭打ちが早い/車速が伸びない/回転がボコつく/パワー不足/プラグ電極が黒い燃料が濃いメインジェットの番手を下げる/プラグの焼け色を見て1ランクずつジェットを下げる/プラグの焼け色がきつね色になればOK
1/4~3/4開時息つき/ノッキング/失速燃料が薄いジェットニードルのクリップ位置を下げる
1/4~3/4開時もたつく/ボコつく/加速が悪い燃料が濃いジェットニードルのクリップの位置を上げる
1/8~1/2開時息つき/ノッキング/失速燃料が薄いジェットニードルのストレート径を細くする
1/8~1/2開時もたつく/ボコつく/加速が悪い燃料が濃いジェットニードルのストレート径を太くする
超低速アイドリング時回転が不安定燃料が薄いスロージェットの番数を上げる/エアスクリューを締めこむ
超低速アイドリング時黒煙が出る/音が鈍い/エンストする燃料が濃いスロージェットの番数を下げる/エアスクリューを緩める
急開時レスポンスが悪い両方メインジェットの番数を変える/ジェットニードルの位置を変える
急開時回転の戻りが悪い燃料が濃いスロージェットの番数を下げる/エアスクリューを緩める
0~1/8開時エアスクリュー調整をしてもエンジンの調子が変わらない両方スロージェットの番数を変えてみる

キャブの調整は簡単そうに見えて奥が深そうです。今まではバイク屋さんに任せきりでしたが、将来的には自分でもキャブの調整ができるようになりたいですね。

インジェクションの構造とセッティング方法

・インジェクションの構造

ではFiの構造はどうなっているのでしょうか。以前乗っていたハーレーを例に挙げながら説明していきたいと思います。

1980年~1990年にFiが世に出始めた頃は機械式Fiが主流でしたが、現在は全て電子式Fiになっています。英語で言うとElectric Fuel Injection、日本語では電子制御燃料噴射システムと言われています。 

ハーレーのFi構造(VIRGIN HALLAY.comより引用)

Fiシステムとは、ECM(Eletric Control Module)とインジェクターから成り立っています。ECMとは人間でいう脳の役割を果たすもので、ドゥカティなどではECU(Eletric Contorol Unit)とも呼ばれています。

ECMやECUは、車両各部に設けられたセンサーからエンジンの回転数、温度、吸気温度、排気ガスの状態などを分析します。そして最適量の燃料噴射をインジェクターに指示し、点火タイミングなども制御しています。まさにコンピューター制御で全てをコントロールしているFIは、アナログ式なキャブとは対照的ですね。

・インジェクションの調整

A. ドゥカティのFi調整

インジェクションの調整は、色々なやり方があります。まずは筆者が所有しているドゥカティのECUチューニングについて説明したいと思います。

ドゥカティのマフラーをフルエキに変えた場合、純正用のECUからフルエキ用のECUに変更します。フルエキ用のECUには、フルエキマフラーの制御マップがプログラミングされている為、最適な状態になります。この方法は、フルコンやロムチューンと言われています。 

ドゥカティパフォーマンスのECU

B.プロショップのFi調整

一番お金はかかりますが、確実なインジェクション調整ができるのがプロショップです。筆者はやってもらったことはないのですが、コンピューターをバイクに繋ぎ、シャシーダイナモ(*)にバイクを乗せて走らせ、データを取りながら最適なチューニングをすることができます。 

プロショップによるチューニングの様子(Pine Valleyより引用)

*シャシーダイナモ:通称シャシダイ。車やバイクの動力(馬力・トルク)を測定するための装置です。ローラーの上に駆動輪を乗せてローラーを回し、回転の速さをセンサーが感知して測定します。

DYNO JETのチューニングのデータ表(Pine Valleyより引用)

まとめ

今回は「キャブレターとフューエルインジェクション」の違いについて、色々レポートさせて頂きました。

日々バイクに乗っていながら、私自身も燃料吸気のことをあまり理解していなかったので、非常に学びの多い回になったのではと思っています。そして車でキャブ車に乗っている人はマイノリティーですが、バイクは今でもキャブ車に乗っている人が多い理由がよくわかりました。それが ”バイクは趣味性が高い乗り物” と言われる所以ですね。

そしてキャブでもフューエルインジェクションでもベストチューニングができたなら、バイクの特性を最大限に発揮できることでしょう。

奥深いバイクの世界、これからもバイクのことをもっと知り、楽しんで乗っていきたいものですね。

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この記事を書いた人

Yone Log for Motorcycleの運営者。コロナ禍を機に大型二輪免許を取り、バイクに乗り始める。商社マンからフリーランスに転身し、関西からツーリング天国の熊本へ移住。カフェレーサー&スーパースポーツ好きで、サーキット初心者。愛車はドゥカティ848EVOコルセSEとBMW・R100RTカフェ仕様(1981年式)。

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