2024年1月、ヤマハSR400を売り、スズキGSX1300R(以下、隼)を買った。
買い替えるつもりなんてまったくなかった。SRは一生の宝物だと思っていた。
これは冬の北海道に現れる2匹目の悪魔のせいだ。
買った隼は初代で、内容は2001年型、走行1万km、車体価格50万円(税込)、レッドバロンもの。
一生中免ライダーでよいと思っていた者に何が起きたのか紹介する。
道民ライダーの乗れないストレス
北海道民ライダーは冬にすることがない。ところがSNSのせいで冬の北海道にもバイクの情報が届く。だからバイク熱はむしろ高くなる。
冬の北海道の1匹目の悪魔はもちろん雪と低温。この悪魔は「バイクに乗ったら殺すぞ」と言う。だから命を大切にしているライダーは、冬の北海道でバイクに乗らない。私は毎年11月から翌年4月まで、バイク屋にバイクを預けてしまう。
悪魔のささやき
2匹目の悪魔は欲望だ。
冬の北海道のライダーは、バイクに乗れないのにバイクには乗りたいから、バイク欲がマックスに高まる。そうするとバイク屋に行って、バイクを眺めることになる。私は冬によく用もないのにレッドバロンに行く。
そしてバイクをみるとバイクが欲しくなるのがバイク乗りの性(さが)だ。
道民ライダーは数年おきに、冬に入る前にバイクを売り、冬の間に次のバイクを探し、春になったら新しいバイクで走る、という行動を取る。
2匹目の悪魔は「バイクを買え」と言うのだ。
状況説明~ものすごい営業力
2024年1月に起きたことを説明する。
隼の取材のつもりでバイク屋へ
本当に買い替えるつもりはなかった。一人でレッドバロンに行き、店員さんに「バイクみさせてください」とことわってから広大な展示場に入り、居並ぶ大量のバイクを1台1台眺めながら、格好良いなとか、格好悪いなとか、高いなとか、安いなとか思っているだけで楽しかった。
バロン巡りはよくやることなのだが、この日はBikefun向け記事の取材を兼ねていた。「シリーズ・デザインを考える」記事で隼を取り上げようと思っていたのだ。
そのレッドバロンには隼が2台あって、じっくりみた。しかし別の隼をみたくなって、自動車で20分ほどの場所にある別のレッドバロンに行った。
フットワークの軽さと見事な連係プレー
2軒目のレッドバロンの店員さんはグイグイくるタイプで、私が展示場に入るなり「何をお探しですか」と聞いてきた。私は「買わないんですが、今日は隼をみたいなと思って」と牽制した。店員さんは「上に2台ありますよ」と言って、私を展示場の2階に案内した。
店員さんは隼の前で「またがってくださいよ」と言う。ところがレッドバロンはバイクをびっしり並べるので、隙間がなくてそのままではまたがれない。それで店員さんは隼の周囲のバイクを移動させようとするので、私は「いえいえ大丈夫です。本当に買う予定はないですから、みるだけでいいです」と制するが、店員さんは「なんでもないです。すぐですから」とあっという間に3台の大型バイクを移動させてしまった。
人生で初めて隼にまたがった。これは2代目隼。足つきが良いから260kgの不安は最小限だ。
このタイミングで店長登場。「あとは俺が対応するから」的にバトンタッチして、最初の店員さんが退く。最初の店員さんもなかなかの営業力だったが、店長はもっとすごかった。
買い替えるつもりはないといっているのに
店長「2代目隼が本命ですか」
私「今SRに乗っていて買い替えるつもりはないんですが。でももし買うなら、予算でもデザインでも初代かなと思っています」
ここのレッドバロンには初代隼はなかった。
店長「じゃあ下に行って初代隼の在庫を確認しましょう」
私「はあ」
レッドバロンは各店舗で全国の在庫をみることができる。店長は在庫を調べるパソコンをいじりながら、私にSRの年式や走行距離、もし買い替えることになったら予算はいくらくらいか、などを尋ねてくる。
そして在庫を閲覧しているパソコンから印刷した、初代隼の写真を渡してくれた。これがあとで買うことになる個体である。
SRと隼の交換条件である「車検2年、追い金8万円」に抗うすべなし
私はその写真を手に取ってまじまじとながめながら、しみじみ「いいなあ」と思ってしまった。一方、店長は手を休めず、もう見積書づくりに入ってしまった。ものの数分で見積書ができあがり、それを私に渡しながらこう言った。
「SRは50万円で下取りします。この初代隼の車検は今年の6月までですが、それを破棄して新たに2年の車検をつけます。もちろん納車整備をします。アサオカさんは大型免許を持っていないので、大型免許を取れば免許応援キャンペーンの4万円をお支払いできるので、諸費用とロードサービスなどをすべて含めても追い金は8万円です。いかがですか」
追い金8万円にやられた。
ちなみに店長は、この時点で私のSRをみていない。このとき私のSRは冬期預かりで、別の場所にあるレッドバロンの倉庫のなかにあった。だから店長は、えいやっ、で50万円の査定額をつけてしまったのだ。「すごいなこの人」と思った。
私のSRは2019年型であり、この初代隼は2001年型なので18年もの差がある。しかしそれでも「400㏄24馬力」と「1,300㏄175馬力+8万円」の交換に抗うことなどできなかった。
欲しくなかった理由と欲しかった理由
今回の初代隼の購入には「すごく欲しかったわけではない」という気持ちと「すごく欲しかった」という気持ちの両方があった。この心理を解説したい。
もう中古は要らないと思っていた
私が大型バイクを求めていなかった理由のひとつが、「もう中古は要らないかな」という思いだ。私は中古品を買うときどうしても、物欲に負けたとか、身の丈に合っていないものを無理して買っている、と思ってしまう。それは私にとって気持ちの悪いことだった。
そして私は、新車の大型バイクを買えるほどの年収を得ていない。したがって中古を拒否する以上、私は大型バイクを持てない。
さらに私のライディング・テクニックでは、初代隼は重すぎるし馬力がありすぎる。立ちごけはイメージしただけでへこむし、事故るリスクも相当高そうだ。
だから私は、60歳を超えても大型バイクを欲しいと思っていたら、そのとき大型免許を取って新車を買おうと思っていた。そのときまでにカネを貯めることができるし、その年齢で教習所の教官からバイクの乗り方を習うことができれば安全に走ることができる。
物欲に負けた
ではなぜ初代隼を「すごく欲しかったわけではない」に買ってしまったのか。物欲に負けたからだ。
欲しい大型バイクは定期的に変わるのだが、このころは初代隼がとても気になっていた。「欲しい欲しい→あった→条件が良さそう→買う」というメカニズムに陥ってしまった。このとき完全に「中古は嫌だな」という思いは吹き飛んでいた。
幸運もあった。私はSRを2019年に新車で税込60万円で買った。それを5年後の2024年に、走行1万kmの状態で50万円で売却できた。これは価値がなかなか下がらないSRだからこそできる芸当である。
初代隼だった理由
状態の良い初代隼でなかったら買っていなかった。
なぜ私は、SRと真逆といえるメガスポーツを選んだのか。
妥当な個体
私が買った個体は2001年型で1万kmしか走っていない。中古バイクは過走行車もリスキーだが走ってなさすぎもよくない、とはよくいわれるが、それでも走行距離が少ないと外観のヤレが小さい。つまり見た目が良い。
ただ購入した個体はカウルの下部が割れていて10cm四方の穴が開いている。これが販売価格を5万円以上下げていると思う。
さらに製造から23年(=2024年-2001年)も経っているので、エンジンなどの機械部品は心配だ。しかしこちらも、私は自分で整備しないので、不具合が起きたらレッドバロンの整備の人に直してもらうだけ。安く買っているので、将来の修理費の負担はやむをえまい。
総じて、私が購入した個体は値段相応といえ、妥当な買い物であった。
格好良い「これは投資」
初代隼のデザインについては今後、別記事で考察させていただくが、端的に表現すると格好良い。
もし、初代隼と2代目隼と3代目隼(現行)がすべて新車で売っていたら迷わず初代隼を選ぶ、といえるくらい私はこのデザインを高く評価している。
現在の初代隼への評価は低すぎる。「昔すごかった古臭いバイク」のジャンルに入れられている。
しかし私は、初代隼のデザインは数年後に見直されるとみている。そのときは初代カタナ、初代Ninja、CB750F、RZ250のような名車に引けを取らないバイクになっているだろう。
今、50万円で初代隼を買うのは一種の投資である。
まとめに代えて~大型免許ドキドキ
購入契約を結び追い金8万円を支払ったので、初代隼は私のものになった。ただ私がいる北海道は今(2024年2月)、雪が積もっているので走らせることができない。
初代隼は今、レッドバロンの倉庫にあり、大型バイク免許を取得して雪が解けたら引き取りに行く。
教習所は3月上旬から大型バイクの教習を始める。私は中免を持っているので実技を15時間くらい受けるだけでよい。4月上旬には大型バイク免許を手にしているだろう。
「いよいよ大型バイク免許かあ」と思っている。
19歳のとき、まだ大型バイク免許は試験場一発合格でしか取れなかったころ、1回だけ挑戦したことがある。ところが事前検査の大型バイクの押し歩きで落ちてしまった。それで「大型バイクなんて一生無理」と思ってしまった。
それから30年以上経ち、小柄な女性がSSやメガスポやハーレーを駆る時代になった。この間、私の体やバイク・スキルが進化したわけではないのだが、「なんか乗れそう」と思えて仕方がない。大型バイク・ライフが、中型バイク・ライフより良いことを期待してやまない。