【シリーズSRについて語る】カスタムの素材になることは良いことなのか

ヤマハSR400はよく、カスタムの素材として優れている、といわれる。私はSRをノーマルで乗っているが、街中やツーリング先でみかけるSRは大抵いじっている。統計を取ったことはないが、もっとも改造されているバイクではないか。

カスタムショップもSRには力を入れていて、チョッパーやカフェレーサー、ボバー、ラットなどに変えている。SRはなんにでもカスタムレル。

カスタムの素材になることはバイクにとって良いことなのか。

もちろん違法改造でなければカスタムに良いも悪いもないのだが、バイクのことをあれこる考えるネタとしてあれこれ考えてみる。

目次

ヤマハ的にはどうなのだろうか

アサオカミツヒサ

私がSRをノーマルで乗るのは、世の中にあまりカスタムSRが多いから、かえっていじらないほうが新鮮だからです。でもカスタムSRは大好物。

カスタムの素材になりやすいバイクには2つの重要な性質がある。1つ目は人気車種であること。もちろん不人気バイクもカスタムの素材になっているが、「素材になりやすい」とまでいわれるレベルになるには相応の人気が必要だ。

そして2つ目の性質のほうがより重要なのだが、それは元のままでは嫌だという人が多いということだ。

ノーマルに対する否定なら悲しい

マフラー変更はカスタムの代名詞的に頻繁に行われているが、これはノーマル・マフラーの音が嫌い、格好が嫌い、重いのが嫌い、吹けが悪いのが嫌いだから換えるのだろう。

そのように考えると、カスタムの素材になってしまったSRに対して、ヤマハの開発者は複雑な思いだろう。カスタムにSRを選んでくれる人が多いことには喜べても、自分たちが描いたデザインが否定され、自分たちがつくった部品が捨てられることは悲しいはずだ。

ただ、あるバイク雑誌にヤマハのSRの開発者のインタビューが載っていたが、その人はカスタムで楽しんでもらえていることを喜んでいる様子だった。カスタムも愛情表現の1つと理解しているのだろう。

SRカスタム事情(1)~2%er編

SRはどのようにカスタムされているのか。私の観察結果をいくつか紹介する。

滋賀県のユーチューバー系SR特化カスタムショップ

SRとユーチューブの両方が好きな人で「2%er(ツーパーセンター)」を知らない人はいないだろう。2%erは滋賀県大津市のカスタムショップで、ほぼSRしか手がけていない。2%erがつくるバイクは間違いなくSRのカスタムのトレンドの1つに数えられるはずだ。

2%erはチョッパーSRとボバーSRを多くつくっている傾向がある。そしてここがすごいのだが、いとも簡単にリジッドフレームにしてしまう。メインフレームから金属パイプを延ばして、リアタイヤをくっつけてしまうのだ。だからリアサスがない。とても硬派で格好良い。

北海道によく来ています

2%erのオーナーの山口氏はユーチューブ番組づくりにも熱心で、自店のカスタムSRを数多く紹介している。番組はどこかドラマ仕立てで、みていて楽しい。

山口氏は年に1回、北海道ツーリングを恒例にしていて、その様子もユーチューブになっている。北海道にいる私にはおなじみの場所が出てくるのが嬉しい。

北海道ツーリングの参考になるので、来道する前に山口氏の北海道ツーリング・ユーチューブを視聴することをおすすめする。

SRカスタム事情(2)~イギリスふう

SRカスタムのかつての定番はイギリスふうだ。トライアンフやBSAのイギリス・メーカーのバイクにSRを似せるというもの。

ただイギリスふうSRは、今は下火になった印象がある。やはり「ふう」に抵抗を感じる人が増えたからではないだろうか。

カスタムは、自分だけの1台をつくるために行うはずだ。ほかの人と同じものを所有するのが嫌だから、性能や乗り心地を多少犠牲にしてでもオリジナルを追求する。

だから、イギリス・バイクに近づくように進む「トライアンフふうSR」や「BSAふうSR」はむしろオリジナルから離れてしまう。

SRカスタム事情(3)~スーパースポーツふう

それほど多くないが、SRをスーパースポーツふうに改造する例もみられる。セパハンをつけて前傾姿勢を強めにして、シングルシートにして、フロントサスに倒立を入れ、リアサスをオーリンズ製にして、フロントブレーキをダブルにしたうえにブレンボに換装する、といった具合だ。

もちろんSRは400ccしかなく、しかも空冷かつ単気筒なので、いくらスーパースポーツの要素を山盛り搭載してもスピードはそれほど出ないのでスーパースポーツになることはない。

しかし、このスーパースポーツふうSRがとても格好良いのだ。バイクは前傾姿勢を強調すると尖るので、それが「のんびり屋」のSRに喝を入れるからだろうか。

良くはないが「カスタム倒れ」しないすごみがある

ここまでの内容を踏まえて、私なりに「カスタムの素材になることは良いことなのか」の問いに対する答えを考えてみた。

■質問:カスタムの素材になることは良いことなのか
■答え:良いこととはいえないが、SRには「カスタム倒れ」しないすごみがある

バイクの所有者がカスタムを敢行するのはそのバイクに満足できないからだ。もしくは、欲しいバイクがないから、それに近いバイクを買って自分好みにするしかないからである。

だから頻繁にカスタムされてしまうバイクは未完成品といわれても仕方がない。または、素材としての価値しかないといわれるかもしれない。

バイクメーカーは完成品を世に送り出しているのに、購入者は素材として買っているので、バイクメーカーの力不足といわざるをえない。実際、優れたバイクはノーマルのまま乗られている。

しかしSRは特別なバイクで、カスタムされても元の価値が失われない。つまりカスタム倒れしないバイクといえる。

エンジンだけになってもヤマハ製であり続けるすごさ

ほとんどエンジンしか残っていない状態のカスタムSRは最早SRではなく、つまりヤマハ製とは言い難い。

しかし、理屈ではそうでも実際はそうなっていない。SRはどこまでカスタムしてもSRらしさ、ヤマハらしさが残ってしまう。

ヤマハがトヨタのために2000GTをつくったことは有名だが、この車はトヨタのものとみなされている。しかし実態はヤマハ製だし、ヤマハも自分たちが2000GTをつくったことを誇っている。

2000GTは、外面(そとづら)はトヨタ製だが魂はヤマハ製という代物であり、これと同じことがカスタムSRの世界で起きている。

SRの原形をとどめないカスタムSRはカスタムショップ製だ。しかしそれでもなおSRの魂はヤマハだし、SRであり続ける。

カスタムSRファンは、SRが好きだからSRをカスタムしたいのだ。SRでなければ駄目なのである。カスタムSRファンにはSRとヤマハに対するリスペクトがある。

ヤマハのデザインにはフィロソフィー(哲学)があるといったのは、渡米したカスタムバイク・ビルダー、木村信也氏(以下、アメリカふうにシンヤ・キムラと呼ぶ)だ。

まとめに代えて~シンヤ・キムラのカスタムSRについて

シンヤ・キムラは米カリフォルニア州でチャボ・エンジニアリングというカスタムショップを開いている。

シンヤ・キムラは「これまでのバイク人生で常にSRがあった」と語るほどのSRファン。ヤマハもシンヤ・キムラを認めていてXSR700のプロモーションでカスタムを依頼しているほど。

(参考:バイクのニュース)

2023年9月、バイク関連のニュースサイト「バイクのニュース」に衝撃的な記事が載った。シンヤ・キムラが広島で開催されたカスタム・ショーにカスタムSRを出展した。そのカスタムSRの名はCrystal Trophy。2018年の作品だ。

アップマフラーにして、前輪に巨大なドラムブレーキを置いた。リア周りもごっそり変えているので、残っているのはエンジンとフレームくらいか。

そして圧巻は、有機的な造形。

ロケットカウルや、ニーグリップの位置をえぐったタンク、シングルシートはカフェレーサーの公式とおりなのだが、どうしてもカフェレーサーにはみえない。どうしてもシンヤ・キムラのもの、にしかみえないのである。ため息が出る。

それでもなおCrystal TrophyはSRにしかみえない。シンヤ・キムラのカスタムでもSRは倒れないのである。

参考:https://bike-news.jp/post/327283

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この記事を書いた人

●著者紹介:アサオカミツヒサ。バイクを駆って取材をするフリーライター、つまりライダーライター。office Howardsend代表。1970年、神奈川で生まれて今はツーリング天国の北海道にいる。
●イラストレーター紹介:POROporoporoさん。アサオカの親友。

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