ホンダとヤマハの惨敗は深刻~2023年のMotoGPを振り返って

MotoGPで6度の年間チャンピオンを獲得したマルク・マルケスが2023年を最後に、デビュー以来在籍していたホンダを去った。2024年はドカティに乗るという。

HRC(株式会社ホンダ・レーシング)は2023年11月、「2024年シーズン、新たなチャレンジに挑むマルケスと熱い戦いを繰り広げることを期待しています」と述べた。

マルケスにエールを送ったわけだが、そんな余裕が今のホンダにあるのか。いやホンダだけではない、ヤマハも深刻だ。

2023年MotoGPライダー部門で、ヤマハの最高位は10位、ホンダは14位だった。

(公式サイトから、以下同)

参考:https://honda.racing/ja/motogp/post/motogp-2023-rd20-race-repsol

目次

2023年の結果

アサオカミツヒサ

私はこれからホンダとヤマハをくさす。なぜならこの2社は私のヒーローだからだ。ウルトラマンと仮面ライダーが負けたら我慢できないのと同じだ。

2023年のMotoGPの結果は以下のとおり。

■ライダー部門

1位、フランチェスコ・バニャイヤ(467ポイント、ドカティ)

2位、ホルヘ・マルティン(428ポイント、ドカティ)

3位、マルコ・ベッツェッキ(329ポイント、ドカティ)

4位、ブラッド・ビンダー(293ポイント、KTM)

5位、ヨハン・ザルコ(225ポイント、ドカティ)

10位、ファビオ・クアルタラロ(172ポイント、ヤマハ最高位)

14位、マルク・マルケス(96ポイント、ホンダ最高位)

■コンストラクター部門

1位、ドカティ(700ポイント)

2位、KTM(373ポイント)

3位、アプリリア(326ポイント)

4位、ヤマハ(196ポイント)

5位、ホンダ(185ポイント)

参照:

https://jp.motorsport.com/motogp/standings/2023/?type=Driver&class=

https://jp.motorsport.com/motogp/standings/2023/?type=Constructor&class=

ヤマハはドカの3分の1、ホンダは5分の1

ライダー部門ではドカティが1、2、3位を独占し、5位も獲った。4位はKTMである。日本車勢の最高は10位のヤマハで、ホンダはやっと14位。

順位もひどいが、ポイントはさらに悲惨だ。1位の467ポイントに対し、10位のヤマハはその3分の1の172ポイント、14位のホンダは5分の1の96ポイントしか取れていない。

コンストラクター部門となるともう痛々しくてみていられないが、みるしかない。ドカティの700ポイントは取りすぎだとしても、KTMもアプリリアも300ポイント台なのに、日本車勢は200ポイントに届かないのだ。

モンスターを返上すべきでは

ヤマハのワークスチームのメインスポンサーはエナジー・ドリンクのモンスターだが、勝てないレーサーにつく「m」の文字はとてもむなしい。

なぜホンダとヤマハは、このような惨状に陥ってしまったのか。

欧州車勢に有利なルール変更かもしれないが「だとて」

ケーシー・ストーナーは、2007年にドカティで、2011年はホンダでMotoGP年間チャンピオンになった。このストーナーが2023年7月、CORSEDIMOTOというサイトに掲載された記事のなかで「ホンダとヤマハが今の状況の責任を負っているとは思わない。むしろ、欧州のメーカーの空力特性を助けるためにルールが変更されたのだと思います」とコメントした。

つまり、MotoGPの主催者が、ドカティやKTM、アプリリアに有利なルールをつくったため、日本車勢が不利になったというのだ。

参照:

Corsedimoto
MotoGP, l'allarme di Stoner: "Honda e Yamaha potrebbero lasciare" Casey Stoner punta il dito contro l'aerodinamica in MotoGP e teme che Honda e Yamaha possano seguire l'esempio della Suzuki.

空力が得意なドカティは相当有利だった

記事によると、ドカティは空力分野に多額の投資をしていて、レーサーの空力性能は他社より頭一つ抜けていた。だから空力に関するルール変更はドカティの優位性をさらに高めたのである。

ストーナーは空力ルールの変更についてこう説明している。

数年前、空力補助具をレーサーにつけることを禁止する決定がなされた。ところがその後、禁止しないことをやめた。つまり突如、空力補助具をつけてよいことになったのである。

仮定の話をする。

もし空力補助具禁止の決定を信じたホンダとヤマハが、「空力補助具なし」の車体を開発していたら、突然の「空力補助具あり」は不利だ。

もしドカティが「空力補助具あり」になることを知っていたら、空力開発に力を入れることができるので突然の「空力補助具あり」は相当有利だ。

欧米のスポーツの主催者が、日本を含むアジア人が活躍するとアジア人に不利になるルールに変えることはよくあることなので、ストーナーの指摘は信憑性がありそうだ。

以下の写真は、ドカティの2023年のMotoGPレーサー、デゥモセディチGPである。これでもか、というくらい空力補助具がついていることがわかる。

同情されるのは悲しい

ストーナーが、日本車勢に不利なルール変更が行われていたかもしれないと指摘したのは、スズキに続いてホンダやヤマハまでMotoGPを撤退しかねないと心配したからである。

このことは日本車ファンには嬉しいことだが、その一方で、同情されるほど弱くなったことを悲しく感じる。

欧米人が日本車勢に不利なルールを定め、その結果日本車勢が負けたら憤りを感じる。しかし「ルールを変えることでしか日本車勢に勝てない」と欧米人に思わせた日本車勢には誇りも感じる。

それで私は、ストーナーにかばってもらわなければならないほど弱くなったホンダとヤマハを悲しく感じたのだ。

かつての最強のホンダと常勝のヤマハだったら、涼しい顔をして「空力のルール変更? やれば」と言って簡単に勝っていたはずだ。

しかも空力ルール変更疑惑は2023年から数年前のことであり、ホンダとヤマハの開発陣は言い訳にしづらいのではないか。

2023年前半の表彰台占有率は「ドカ70%」「H+Yで10%」

モータースポーツ・ジャーナリストの西村章氏も、2023年7月に公開した記事「ホンダとヤマハはどうして勝てなくなった」のなかで、2社の状況を惨状と呼んだ。

この記事を書いた時点でMotoGPは前半の8戦16レースが終了していて、ドカティ勢はこれまで必ず表彰台にのっていた。

表彰台は1位、2位、3位の者に用意されるので1回で用意される台は3個。16レースなら台は計48個(=16レース×3個)用意されたことになる。ドカティ勢は48個のうち34個の台にのり、占有率は実に71%(≒34個÷48個×100)である。

そして同期間にホンダのライダーが表彰台にのったのは3回、ヤマハのライダーがのったのは2回。計5回は48個の10%でしかない。

参照:https://sportiva.shueisha.co.jp/clm/motorsports/motorsports/2023/07/03/motogp/

企業の凋落か、やる気がないのか

西村氏は同記事のなかで「さまざまな産業の世界市場で近年凋落傾向が著しいといわれる日本企業勢に通底する問題の何かが、二輪ロードレースの世界最高峰の場で顕在化しているのか」と指摘している。

つまりホンダとヤマハがMotoGPで勝てないのは、企業の力が弱っているからではないか、と推測しているのである。

この推測には根拠がある。ドカティは2023年のMotoGPに4チーム8台(ライダー8人)を投入している。一方のホンダは2チーム4台(ライダー4人)で、ヤマハにいたっては1チーム2台(ライダー2人)しか出していない。

レースには莫大なカネがかかるから、資金が潤沢なドカティ、カネがないホンダ・ヤマハとみることができそうだが、企業規模を考えるとそれは考えづらい。3社の2022年の売上高は以下のとおり。

■2022年売上高比較

●ドカティ:10億ユーロ(1ユーロ160円なら1,600億円)

●ホンダ(本田技研工業株式会社):17兆円

●ヤマハ(ヤマハ発動機株式会社):2兆円

企業規模は、ヤマハはドカティの10倍以上、ホンダはドカティの100倍以上である。つまりホンダもヤマハもカネ持ちだ。

ということはホンダとヤマハにとってMotoGPは優先順位が低いのだろう。そうだとしたらやる気の問題だ。

参照:

https://www.ducati.com/jp/ja/news/ducati-overcomes-1-billion-euros-revenue-for-the-first-time-in-its-history

https://global.honda/jp/investors/financial_data/pl_bs_cf.html

https://global.yamaha-motor.com/jp/ir/data/sales/

もはや屈辱レベル

西村氏によると2023年シーズン中にMotoGP内で、ホンダとヤマハにコンセッションを適用するかどうかが議論されたという。

コンセッションとは、特定のメーカーに規制を緩める措置である。コンセッションは通常、MotoGPに参入したばかりのメーカーにハンデを与えるものであり、もしこんなものが本当にホンダとヤマハに適用されたら屈辱ものである。

まとめに代えて~存在意義をかけて優勝を狙って

私がバイクレースに興味を持ち始めたのは1983年であり、そのころはGP500と呼ばれマシンは2ストだった。当時は「日本メーカーが勝つかどうか」なんてまったく議論にならず、「どの日本メーカーが勝つかどうか」すら話題にならなかった。なぜならホンダとヤマハしか勝てないと決まっていたからである。

そして最強ホンダと常勝ヤマハは新世紀になっても続いた。だから2007年にドカティがMotoGPで年間チャンピオンを獲ったとき、まさか、と思った。ところがその後もホンダ・ヤマハ時代が続いたので、2007年のドカティはまぐれだと思った。

ところが2022年と2023年に連続してドカティが年間チャンピオンを獲った。そして2023年はホンダもヤマハも、KTMにもアプリリアにも負けた。

ここにはもう、まさかもまぐれもない。ホンダもヤマハも社内に緊急事態宣言を出し、すべての力を注いで2024年に臨むべきだ。

MotoGPに興味を示さないカワサキや、MotoGPに出たり入ったりするスズキなら、レースで勝てなくてもいいような気がする。しかしホンダとヤマハのアイデンティティはMotoGPにある。だからホンダとヤマハがバイクレースの最高峰で負け続けることは許されないはずだ。

こんなことは言いたくないが言う。「頑張れ、ホンダ、ヤマハ」

2024年末には、もうこんなことを言わなくてよいようにして欲しい。

この記事が気に入ったら
フォローしてね!

よかったらシェアしてね!

この記事を書いた人

●著者紹介:アサオカミツヒサ。バイクを駆って取材をするフリーライター、つまりライダーライター。office Howardsend代表。1970年、神奈川で生まれて今はツーリング天国の北海道にいる。
●イラストレーター紹介:POROporoporoさん。アサオカの親友。

目次