バイクの外観はライダーがまたがって完成する。だからファッションに気遣うバイク乗りは多い。「バイクに乗るときは必ずこのジャンパーを着る」といったこだわりを持っているライダーは多いはず。
この記事では、ヤマハSR400をモチーフに、ライダーのファッションを考えてみたい。SRを選んだのは、中性的なデザインをしているのでファッションのバリエーションを考えるのによいと思ったからである。
ライダーがファッションに気遣うべき理由
私は、ビトンとかランウェイとか冨永愛的な、いわゆる普通のファッションのことはわからないが、バイク・ファッションは工業製品の美に関することなので理屈で語ってみようと思う。
ライダーは、自動車ドライバーよりファッションに気遣う必要がある。なぜなら自動車なら人が箱のなかに入ってしまうので「自動車の外観=自動車の外観」だが、バイクは人が丸々露出するから「バイクの外観=バイク+人」になるわけで、つまり人はバイクの外観の重要パーツになるからだ。
つまり、いくら格好良いバイクを持っていても、ダサい服でそれに乗ったら総合的に格好悪くなってしまう。
バイクメーカーはライダーの外観にかまっていられない…だからこそ
人という要素はバイクの美や格好良さに重要なのに、バイクメーカーはあまり乗る人の格好を考えない。なぜならバイクは老若男女が乗るからである。
ハーレーで考えるとわかりやすい。仮に身長2mの巨漢アメリカ人用につくられていても、160cmの日本人女子が購入することもある。
もちろんバイクメーカーのデザイナーは、乗る人のことを考えてラインを引くかもしれないが、しかしバイクがバイク屋に並んだ瞬間に誰でもまたがることができてしまう。極論をすれば、バイクメーカーはライダーの外観にかまっていられない。
だからこそ、ライダーは自分のバイクに合ったファッションを選び自分のスタイルをつくっていかなければならないのだ。
ジャンル・レスなSRはライダー・ファッションのよい教材
SRとはなんだ。どのジャンルに属するんだ。SRに乗ってもう4年が経つがよくわからない。
カフェ、モトクロス、スクランブラー、チョッパー、ボバー、なんでもこい
SRはカウルがついていないからネイキッドだが、決してそうは呼ばれない。
SRがカフェレーサーと呼ばれるのはカスタムされてからの話であり、ノーマルSRは決してカフェではない。
SRの元祖はXT500というオフ・バイクであることは有名だから、オフ系ということでスクランブラーにカスタムされることもある。
SRをチョッパーやボバーにしてアメリカンにしている人もいる。
SRはどのジャンルにも属さないから、どのジャンルに所属することができるようだ。だからバイクのファッションを考えるとき、SRはよい題材になる。
イギリス・ファッションは解のひとつ
冒頭のイラストをみていただきたい。こちらはインターネットでみつけた、カフェ・カスタムのSRとそのオーナーである。
このSRとこの人をみた瞬間、こんなにビシッと決めてバイクに乗る人がいるのか、と驚いた。このようなとは、白いシャツに赤いネクタイをして青いチョッキを着て、ズボンは綿で黒いブーツを履くこと、である。英国紳士の休日といった雰囲気。
カフェレーサーはSRカスタムの絶対的な目標になっている。したがってカフェレーサー発祥の地であるイギリスのファッションはSRに合うはずだ。
街で違和感のないファッションがバイクで派手に映る理由
この英国紳士氏のような格好の人をコジャレた街でみかけてもなんとも思わなかっただろう。しかしバイクの乗りのファッションとしてみると異様だ。というのも私の印象では、バイク乗り用のファッション・アイテムを使わずここまで決めているライダーは少ないからだ。
バイク・ファッション・アイテムとは、例えばYELLOW CORNやクシタニ、KADOYA、コミネ、ダイネーゼなどのこと。バイクバイクしたバイク・ファッションで決めるライダーは多いが、バイクと縁がないファッションでここまで固めてバイクに乗る人は少ない。
タキシードを着てバイクに乗っているようだ、とまではいわないが、しかし概念としてはそういうことだ。
カスタムSRの力強さがファッションのインパクトを受け止めている
そしてこの英国紳士氏が持っているカフェ・カスタムSRがすごい。なんとリアサスがモノサスに変わっている。セパハンはカフェ・カスタムの定番だが、このSRのそれはとても低く、格好良さのために乗りやすさを犠牲にする潔さ(いさぎよさ)がある。
そしてタンクの造形が表情豊かなのに、シングルシートは単調で無機質。普通なら破綻しそうな組み合わせだが、不思議と一体感がある。
この凝ったSRに乗っているからこそ、英国紳士風ファッションにわざとらしさが出ないのだろう。
こだわらないふりをしてこだわる
それではSR乗りの一人である私のファッションを紹介しよう。
このイラストは私の標準的な姿である。
黒い革ジャンは、義理の父からもらったもの。彼はバイクに乗るどころか、元高校の校長という真面目な人だったが、なぜかバイクにちょうどよい革ジャンを持っていた。最近亡くなったので遺品になってしまった。とてもよい人だったので、私は好んで着ている。
革ジャンのなかはユニクロの青いシャツである。
背負っているのは、あまり知られていないドイツのTATONKA製のザックである。私は山登りをするので、ミレーのザックも持っているがこちらは山専用にして、バイクに乗るときはもっぱらTATONKAを使う。
靴はモンベルの登山靴で、しっかり足首をホールドしてくれるし、防水性が高い。バイク用のブーツは私は履かない。
ズボンはやはりユニクロのジーパン。
私のSRファッションのコンセプトは、こだわらないふりをしてこだわる、だ。
ファッションファッションもバイクバイクも苦手
「こだわらないふりをしてこだわる」を「こだわる」と「こだわらない」にわけて解説する。
「こだわらない」というのは、バイクバイクしたファッションも、ファッションファッションしたファッションも使わない、ということだ。
なぜこだわらないのかというと、ノーマル・バイクには普通の服が似合うからである。服を凝りすぎてしまうと、ノーマルSRと遊離してしまいチグハグさが出てしまい不様になってしまう。
「こだわる」というのは、こだわらないことに徹底的にこだわるという意味。バイク・ファッション・アイテムはプロテクター以外は使わない。
私のもう一つのこだわりは「自然体ですとはいわない」こと。よその人が自然体を目指している姿をみると、どうも恥ずかしく感じてしまう。自然体のあくなき追及は、もう自然ではないような気がするのだ。
だから私は「家のなかの服をかき集めたらこんなふうになりました」という感じを大切にしてSRに乗るようにしている。
まとめ~もっと楽しめるはず
ファッションは本来、自由でよいはずなのに、流行をみていると窮屈そうに感じる。「格好良い・ダサい」は存在してもいいと思うが「流行にのっている・遅れている」は他人の目を気にしすぎていないか。
バイク・ファッションは特に硬直しているようにみえる。サッカーならアディダス、バスケットボールならナイキ、女性のバッグならエルメスといったように、バイクに乗るときに着るならこのブランド、というものがある。
バイクは危険な乗り物だから、バイク用品メーカーがつくった機能性と安全性を備えたバイク服が第一選択肢になりやすい。
しかし注意しなければならないのは、バイク・ファッションは耐久性にも優れるので簡単に破れたりせず、長持ちしてしまうことだ。しかも高額だから、一度買ったら長く付き合うことになり、ファッションが硬直化してしまう。
バイク系ではないファッションを採り入れる人が増えて、バイク乗りたちが集まる駐車場が彩り豊かになるといいな。