新型CB1000ホーネット、ホンダよマジか【デザインを考える】

ホンダは2025年1月、大型ストリートファイター、CB1000ホーネットの国内販売を開始した。

最初にこれをみたとき、これで新型なのか、と思った。新鮮さがない、と感じた。デザインに既視感があるし、何より志を感じられない。

もちろんホンダがつくったのだから、乗りやすくて、楽しく走れて、壊れにくいのだろう。所有すれば良さを実感できるのかもしれない。

しかし私は「ホンダよ、本気を出したのか」と疑っている。私はホンダ愛が強いから、それでホンダ車に厳しくなってしまうのだが、それにしてもCB1000ホーネットは残念でならない。

本稿はデザインやコンセプト、マーケティングを考察するものであり、走行性能にはほとんど触れていない。

目次

CB1000Rの後継だとしたらあまりに寂しい

(2025年にリリースされた新型バイク、CB1000ホーネット。公式サイトから。以下同)

私のホンダ愛については、こちらの2つの記事で語っている。

あわせて読みたい
NSR、語りつくせぬ愛 多分、NSR250R(以下、NSR)のオーナーは「NSRに乗っている」とは言わない。例えば1989年型を所有していた私なら「89(ハチキュー)に乗っていた」と言う。 NSRはモデル...
あわせて読みたい
【シリーズ・デザインを考える】ホンダらしくないから良いCB1000R 私はホンダ車に、一部の例外を除いて、性能はいいけどデザインが良くないバイク、というイメージを持っている。私はバイクはデザインを重視して選ぶので、デザインが気...

私は1989年製のNSR250Rを所有したことで、ホンダの技術力と狂気の両方を体験できた。バイク界の世界王者が本気でつくったバイクは、本当にすごかった。

そして2024年7月に生産を終えたCB1000Rについては、ドカティ並みのデザインを有すると評価している。CB1000Rの格好良さは、ホンダ市販バイク史上1、2を争うだろう。いや他社メーカーを含む、すべての大型ネイキッド、大型ストリートファイター、大型カフェレーサーのなかでも、このバイクのデザインは上位に食い込むはずだ。

(CB1000Rのブラックエディション。もし私がこれを手にすることができたら、絶対にシングルシートにする)

このようにホンダには素晴らしいバイクがたくさんある一方で、時折、手抜き(と私が感じる)バイクが出てくる。CB1000ホーネットはまさにその1台である。

ただしホンダの技術力はずば抜けているから、手抜きバイクといってもその機能や走行性能は、他のバイクメーカーの本気バイクぐらいのレベルに達してしまう。

だからこそホンダはたまに手抜きをするのだろうか。

レベルダウンがはなはだしい

皮肉なことに、手抜きバイクのCB1000ホーネットは、超絶格好良いCB1000Rの後継車になる。だから私にはCB1000ホーネットは退化しているようにみえる。

下の写真はCB1000Rの上部の、タンクから後部にかけて。サイドカバーを小さくして強引にタンク下に持ってきたり、シートカウルをなくしたりして、カフェレーサーのスッキリ感を演出している。それでいて複雑な造形を持っているので、みていて飽きない。

(後半のスッキリ感が見事。ホレボレする)

次の写真はCB1000Rのステップ周りとサイレンサーとリアタイアである。

(まさに機能美。技術を惜しみなく投入すると美を誘発するのだ)

ステップとそのステーの質感は相当高い。サイレンサーの形状は細さと太さのメリハリが効いていて、エンドが斜めに切られているところもシャープでよい。

そしてなんといっても片持ちスイングアームだ。片持ちスイングアームには性能的なアドバンテージはないとされているが、高級感がある。特殊な構造のためコスト高になるが、格好良さがすべての問題を帳消しにする。

価格もダウン:170万円→130万円

実質的に旧型になるCB1000Rは1,670,900円(税込、以下同)だったが、新型にあたるCB1000ホーネットは1,342,000円で328,900円も安くなった。

ここまで安くできたのは、ステップやマフラーのクオリティを落としたり、片持ちスイングアームを採用しなかったりしただけではない。

CB1000Rは999㏄、192PS、114N・mなのに対し、CB1000ホーネットは999㏄、152PS、104N・mと性能面での見劣りは明白である。

現代は安いバイクが求められているとはいえ、これほどまでのレベルダウンをみせられると寂しくなる。なおコストダウンの痕跡の詳細については、後段の「志が低すぎないか」と「ここが残念」で紹介する。

ライバルとの価格の比較

参考までに、CB1000ホーネットのライバルになる他社の大型ストリートファイターの価格を紹介しておく。いずれも標準タイプの価格である。

CB1000ホーネット1,342,000円
CB1000R1,670,900円
ヤマハMT-101,925,000円
ヤマハXSR9001,254,000円
スズキGSX-S10001,370,000円
カワサキZH22,057,000円
カワサキZ9001,276,000円
ドカティ・ストリートファイターV21,940,000円

CB1000ホーネットの価格は、庶民に優しいスズキのGSX-S1000より安い。ホンダの狙いはここにあるのかもしれない。つまり安いバイクをつくりたかったのではないか。

志が低すぎないか

ホーネットといえば1996年に登場した250㏄版がよく知られているが、大きなホーネットは、今回のCB1000ホーネットの前にも存在していた。それは2001年に販売されたCB900ホーネットである。250㏄版も900㏄版も、ホーネットといえばシート直下にサイレンサーがくるアップマフラーがトレードマークである。

ところが今回のCB1000ホーネットは普通のダウンマフラーだ。志しが低すぎないか。

(250㏄版のホーネット。正式名は単に「ホーネット」)
(CB900ホーネットもアップマフラーだった)
(大きなホーネットとしては2代目になる今回のCB1000ホーネットは、アップマフラーですらない)

RR-RじゃなくてRRのエンジンを流用

衝撃的な事実を知らせなければならない。以下はCB1000ホーネットの公式サイトに掲載されている文章である。

「(CB1000ホーネットの)エンジンは、CBR1000RRのエンジンをベースとした999cm3・水冷4ストロークDOHC4バルブ直列4気筒」

参考

https://www.honda.co.jp/CB1000/powerunit

これを読んで「CB1000ホーネットはすごい。ホンダのフラッグシップSSのエンジンを使っているんだ」と思っただろうか。しかし残念ながらその見解は70%しか合っていない。

現在のホンダのバイクの王者はCBR1000RR-Rであり、このエンジンはCB1000ホーネットには載っていない。CB1000ホーネットのエンジンは、RR-Rの先代のRRのもの。

もちろんホンダは、CB1000ホーネットのキャラクターにはRRのエンジンのほうが合っていると考えたのだろう。しかし私は「高額なRR-Rのエンジンの利用は見送って、割安なRRのエンジンを使ってコストダウンを進めた」と邪推してしまうのである。

RRのエンジンも相当高性能・高額なはずだ。それでもなお、RR-Rのエンジンを出し惜しみしたところに、CB1000ホーネット開発の志の低さを感じてしまうのである。

(上が現行のフラッグシップSSであるCBR1000RR-R。下は先代のCBR1000RRで、このエンジンがCB1000ホーネットに載っている)

CBR250RRのフレームのほうがリッチ?

CB1000ホーネットにはそれほどの剛性は要らないので、フレームがツインスパー形状であることには合理性があるのだろうが、心情的にはモヤモヤする。それはCBR250RRのフレームにトラス構造がおごられているからだ。

トラス構造フレームは金属パイプのアートだ。その目的は剛性を出したり補強したりすることだが、複数の三角形が織りなす表情はみていて楽しい。だからトラス構造フレームは高級車に使われている。だからCB1000ホーネットよりも、CBR250RRのほうがリッチに感じられてしまう。

(上はCB1000ホーネットのフレームで、ツインスパー形状という。下はCBR250RRのもので、トラス構造という形状だ。明らかにトラス構造のほうが格好良い)

 

ここが残念

私は、神は細部に宿る、という言葉が好きだ。神に愛されるものをつくりたいのなら細部にも十分こだわりなさい、という教えと理解している。

そして私はこの言葉をもじって、不満は細部の蓄積、という言葉をつくってみた。細部のいたるところに不満を感じてしまうと「欲しい」と思えなくなる。

CB1000ホーネットの細部をみていく。

ディスプレイ・メーター:工夫がない

(CB1000ホーネットの顔。この無様に飛び出た四角がなければストファイのすごみが出るのに)

CB1000ホーネットは、最近流行のディスプレイ・タイプのメーターを採用している。これを採用するバイクは最近増えているが、ここまで工夫せず、ただポンと置いただけのものは珍しい。

この露骨な四角い箱はCB1000ホーネットの売りであるストリートファイター顔の睨みをスポイルしてしまっている。

ちなみに他社の大型ストリートファイターでは、ヤマハMT-10はメーターバイザーでディスプレイ・メーターを隠し、スズキGSX-S1000はディスプレイ・メーターの四角を、2段続くライトの3段目のようにみせている。

(上の2枚の写真はいずれもMT-10。メーターバイザーとなる極小のカバーをつけることでディスプレイ・メーターが露出しないようにしている)
(上の写真はGSX-S1000の顔。ディスプレイ・メーターの前にブロックをデザインすることで、縦に2段のライトから続く3段目のようになっている)

ただし、あのドカティでもCB1000ホーネットと同じミスをしている。これはドカティ・ストリートファイターV4であるが、ディスプレイ・メーターをただ置いただけのデザインを採用している。

(ドカティですらディスプレイ・メーターの処理には困るようだ。ストリートファイターV4)

面白い画像がドカティの公式サイトにあった。ストリートファイターV4のイラスト画であり、ディスプレイ・メーターに色が塗られていない。まるで「ないものとしてみてください」と言っているようだ。さすがのドカティのデザイナーも、ディスプレイ・メーターが邪魔なようだ。

マフラー:安っぽい

CB1000ホーネットのマフラーは集合管になっているので、サイレンサーは1個しかない。これがボテっとしていて格好悪い。もう何度も格好悪いといっているので他の表現も探したが、これ以外の言葉がみつからなかった。

(いずれもCB1000ホーネットのサイレンサー。デカいうえに格好悪い)

デザイン的に不利になるデカいサイレンサーは、排ガス規制や騒音規制をクリアするために仕方のない処置なのだが、CB1000ホーネットのサイレンサーはさらに形状が単調だからつまらない。

「これ何かに似ているな」と思ったら、短命に終わったHAWK11だった。

(HAWK11。これもデザイン的に不満点が多いバイクだが、サイレンサーがシュッとしていれば印象が変わっていただろうに)

この2台のバイクのサイレンサーのデザインに、私は誠意を感じない。まるでデザイナーが「容量がこれだけ必要といわれたからこうしただけですけど」と開き直っているようだ。

では他社はどうか。下の写真はヤマハXSR900である。

(ヤマハはXSR900を奇妙なデザインにすべく、サイレンサーを消してしまった。見事)

マフラーをみるとステップ下で突然切断されていて、サイレンサーがない。サイレンサーの機能は、ステップ下のマフラーの膨らみのなかに備えられている。

この変異は、奇妙なデザインのXSR900に実にマッチしている。デザイナーは、これまでにないデザインにしたくて、この奇妙な形のマフラーを採用したのだろう。マフラーをこのデザインにすることの難しさは、大量の溶接跡が物語っている。これぞデザインの誠意というものだ。

シートカウル:単調

私は以前から、シートカウルの形状をSSふうにしたがる風潮に疑問を持っていた。SSルックのシートカウル形状とは、薄くして後端を思い切り尖らせることを指す。これを採用するのは安易すぎるが、CB1000ホーネットのシートカウルもそうなっている。

しかもCB1000ホーネットの場合はシートカウルの形状が単調だ。シートカウルのようなプラスチック製品をつくるには金型が必要になるわけだが、形が複雑になると金型の代金が高くなってしまう。デザイナーは金型代を安くするために単純なラインを引いたのではないかと疑いたくなる。コストダウンは大概つまらない。

(CB1000ホーネットのシートカウル。ありきたりなSSルック形状だし、ラインが単調だ。つまらない)

まとめに代えて~ホンダならできるのだから

良い優等生と悪い優等生の違いは、全力を出すか否かだ。2人とも優等生なので能力は変わらない。良い優等生は自分の能力を最大限活用してパフォーマンスを高めようとするが、悪い優等生は「まあ、これくらいやっておけばいいんでしょ」と手を抜く。

ホンダはよくバイク界の優等生といわれる。私もホンダのバイクに乗るたびに、品質の高さに感心する。他社が誤差の許容範囲を0.5mm以下にしているところ、ホンダは0.1mmの誤差しか許さない――そんなイメージを持っている。

ホンダの優等生バイクをつまらないという人がいる。しかし品質の高いバイクをつくるには永遠に努力し続けなければならず、ホンダはそれをしているはずだ。品質は簡単には高められないし、品質は簡単に低下してしまうからだ。だから簡単に「ホンダのバイクはつまらない」などと言ってはならないと思っている――ものづくりを少し知っている人間としてはそう考える。

だからこそ私はCB1000ホーネットに落胆するのだ。「なぜこのデザインなんだ」と、これがワールド・プレミアで発表されたときにそう思わずにいられなかった。しかも私が愛してやまないCB1000Rの生産をやめて、その代わりにこのバイクをつくるなんて、どうしたホンダ。

私は今年55歳で、次に買うバイクが最後になると思う。だからそのバイクはデザインに手抜きがない高品質なものにしたい。できれば新車がよい。その日がくるのは5年後だろうか。それまでにホンダに、私が最後のバイクにできるバイクをつくってもらいたい。

参照

https://global.honda/jp/news/2024/2241212-cb1000.html

https://www.honda.co.jp/CB1000

https://www.honda.co.jp/CB1000R

https://www.honda.co.jp/CBR1000RRR

https://www.honda.co.jp/CBR1000RR

https://global.honda/jp/pressroom/products/motor/hornet/hornet_1996-01-25

https://global.honda/jp/news/2001/2010928-cb900.html

https://www.honda.co.jp/HAWK11

https://www.honda.co.jp/CBR250RR/chassis

https://www.yamaha-motor.co.jp/mc/lineup/mt-10/color.html

https://www.yamaha-motor.co.jp/mc/lineup/xsr900gp

https://www1.suzuki.co.jp/motor/lineup/gsxs1000rqm5/?page=design

この記事が気に入ったら
フォローしてね!

よかったらシェアしてね!

この記事を書いた人

●著者紹介:アサオカミツヒサ。バイクを駆って取材をするフリーライター、つまりライダーライター。office Howardsend代表。1970年、神奈川で生まれて今はツーリング天国の北海道にいる。
●イラストレーター紹介:POROporoporoさん。アサオカの親友。

目次