ライダーが北海道に住むデメリットは2つある。1つ目は、雪に閉ざされる期間が半年もあるから、バイクに半年しか乗れないこと。2つ目は、北海道以外は走らなくていいんじゃないか、と思えてしまうこと。それくらい夏の北海道ツーリングは素晴らしい。
だから道内ライダーの私は、道外ライダーに強く来道をすすめる。
ただし北海道は、そのほかの日本の地域とだいぶ異なるので、特にバイク・ツーリングでは注意しなければならないことがある。
そこで「これを知らないと北海道で痛い目に遭う」というポイントを紹介したい。
この記事は北海道ツーリング・マニュアルである。
北海道は8月でも寒いことがある
関東以南・以西で、8月に寒さを感じることはないだろう。だから8月の北海道の寒さを想像できないと思う。そこに危険が潜んでいる。
道外ライダーに伝えたいのは、北海道は8月でも寒いことがあるということ。関東の冬並みになることすらある。
8月の最高気温が10度にしかならないこともある
日本で1番寒かった8月は、1972年8月25日のマイナス4.3度だが、これは富士山での記録なのでとても特殊である。
では2番目に寒い8月はどこが記録したのかというと、北海道宗谷地方・沼川という場所で2008年8月22日にプラス1.5度まで冷えた。
2008年は遠い昔に感じるだろうか。ではこれはどうか。2018年8月7日に北海道根室地方・厚床で記録したプラス3.6度。これは東京の真冬よりも寒い。
恐ろしいのは最低気温だけでなく、最高気温も。
北海道釧路地方・阿寒湖畔の1997年8月17日の最高気温は10.1度だった(*)。8月のある1日の最も暖かい時間が10.1度だったのだ。
このような日にバイクで走るなら防寒着が必要である。
*:https://www.data.jma.go.jp/obd/stats/etrn/view/rankall08.php?prec_no=&block_no=
気温ギャップが恐い
北海道でも、上はTシャツ1枚で走れることもある。もちろん薄着は危険だからという理由でも推奨しないのだが。
しかしとにかく、北海道の夏の気温が本州並みになることは珍しくない。
ところが北海道の夏は突如寒くなることがある。恐いのは気温ギャップだ。
なぜ最低気温と最高気温の差が大きくなるとライダーに危険が及ぶのか。
ようやく長い夏休みが取れた道外ライダーが北海道にやってきたら、気温が低下したくらいでは計画を変更したくないはずだ。「寒いとはいえ8月なのだから、ちょっと我慢すれば走れるだろう」と思ってしまうことが、気温ギャップの恐さである。
寒いと手がかじかんでハンドル操作がしにくくなるし、体がこわばって体重移動がしにくくなる。とても危険だ。
ちなみに、道内在住ライダーは気温ギャップをあまり恐れない。なぜなら道内在住ライダーはいつでも北海道を走ることができるので、天気予報が「今日は寒いでしょう」といっていたら簡単にツーリングを取りやめてしまう。北海道の寒い夏の危険を知っているからだ。
最低限の防寒着さえあればツーリングを続行できる
道外ライダーが夏に北海道に訪れるとき、最低限の防寒着を携行して欲しい。私が推奨するのは次のとおり。
■夏の北海道ツーリングに持っていったほうがよい最低限の防寒着
- しっかりした大きめの合羽(なかに着込めるように)
- ヒートテック的なもの(上下)
- フリース(上下)
- 軍手
合羽は北海道ツーリングの必需品であるが、体にフィットするものだとなかに着込むことができない。したがって夏の北海道には少し大きめの合羽を持っていきたい。
それとペラペラな合羽は北海道に不向きである。しっかりしたものを用意したほうがよい。
ヒートテック的なものとフリースはどちらも上下あったほうがよい。荷造りしているときに「本当にこんなのが必要なのか」と思うかもしれないが、そして、もしかしたらそれらを1回も着用せずに北海道ツーリングが終わるかもしれないが、それでもあったほうがよい。
軍手は、普段使いのグローブとは別に1双持ってきたほうがよい。
上記の4アイテムがあるだけで、急激な気温低下に見舞われてもツーリングを続行できる。
道外ライダーが知らない「地雷」がたくさんある
2023年5月、北海道登別市の林道で転倒したバイクがみつかり、近くに男性の死体があった。付近を通りかかった人が「人が倒れている」と警察に通報した。
現場に動物の毛が散乱していたことから、バイクに乗っていた男性が動物と衝突して転倒したものと思われる(*)。
亡くなった方は登別市内の人で、つまり道内ライダーだ。道民でも動物が突然道路に現れたらよけることはできない。
北海道の道路にはたくさんの「地雷」が埋まっている。
*:https://www.uhb.jp/news/single.html?id=35502
シカをよけることはできず、高い確率で大事故になる
北海道の一般道には頻繁にシカが出現し、それは道内ツーリングの楽しみでもあるのだが、奴らのなかには突然道路を横切るものがいる。
道路の両脇がすぐに深い森になっているところは道内にたくさんある。それもそのはずで、道内の多くの道路は森のなかを走っているからだ。
したがってそのような場所に住むシカは、森のなかを疾走する流れで突然道路に出てくるのである。
絶対にいけないことなのだが、北海道の一般道で時速100km以上で走っているライダーはたくさんいる。時速100kmのバイクが1秒間で進む距離は28mである。制限速度の時速60kmで走っていても1秒間で17m進む。
そのため、全速力で道路に飛び出してきたシカを、走行中のバイクが回避することは不可能だ。
北海道のシカはエゾシカといい、最大で体長1.9m、体重150kgにもなる(*)。
体重150kgということは、100kgのバイクに体重50kgの人が乗っているのと同じだから、シカとの衝突はバイクどうしの正面衝突のようなものだ。つまり最悪どちらも死ぬ。
こう覚えておいて欲しい。
●シカとの衝突は回避できず、ぶつかれば高い確率で大事故になる
事故のリスクと事故被害を小さくするために、制限速度を守ろう。
*:https://www.pref.hokkaido.lg.jp/ks/skn/est/
キツネはもう「ひいちゃうしかない」と思う
私が道内を走るときに決めていることがある。動物愛護団体から叱られることを覚悟してそれを紹介すると、こうだ。
●キツネやリスのような小動物が道路に飛び出してきて、それを回避できないと判断したら、ためらわずひいてしまおう
小動物たちには本当に申し訳ないと思う。しかしこのように決めておかないと、躊躇してしまってハンドル操作を誤って転倒してしまうかもしれないからだ。そして実際、北海道の道路で小動物の死骸をみつけることは多い。
ただ私はまだ、シカとも小動物とも衝突したことはない。
道内は国道でも荒れている
以下の写真は、北海道平取町の国道237号である。
(出典:グーグルマップ、以下同。道路上の「余水橋」という文字はグーグルが画像につけたもので、実際の道路には書かれていない)
ご覧のとおり緑に囲まれた気持ちのよい道路なのだが、注目したいのは道路を横断している、丸い4つのシミのようなものである。これは道路の補修跡だ。
北海道の道路は国が整備・管理する国道であっても荒れていることが多く、北海道が整備・管理する道道(どうどう)はさらに荒れている。
道路が荒れているのはやむをえない部分がある。なぜなら冬場、舗装道路の下の土のなかの水分が凍結して膨張し、舗装道路を打ち破ってしまうことがあるからだ。
だから春先だと、舗装道路に大きな穴が開いていることもある。その穴を埋めるために補修する。
補修跡の上をバイクが走ると確実にハンドルがブレる。タイヤが穴に入るとハンドルが取られてしまうだろう。
これも「地雷」の1つである。
とにかく広いので、最初は道内1周はあきらめたほうがよい
道内1周は、北海道ツーリングのルートの最高峰といえるだろう。道民ライダーでもその達成感は大きい。
しかし初めて北海道に来る道外ライダーには、道内1周ツーリングはおすすめしない。その理由を説明する。
道路の長さはリスク
道民の多くは「1泊2日、函館、小樽、札幌、富良野を巡る旅」と聞くと、やめておいたほうがよいというだろう。道外の人にとって北海道は遠い場所だから、わざわざそこの行くのなら1つでも多くの観光地を巡りたいと思うはずだ。だから「最低でも函館と小樽と札幌と富良野には行きたい」と計画するのも理解できる。
しかも下の地図をみればわかるように、函館=小樽=札幌=富良野を走っても、北海道の4分の1しか通過できないから大したことないように思える。
しかしこのルートをバイクで走るなら最低でも2泊3日は欲しいところで、3泊4日でもいいかもしれない。なぜならバイクの連日走行は疲労が溜まるから、1日の走行距離は300kmくらいに抑えたいからだ。
4つの場所の距離は以下のとおり。
●函館→小樽:240km
●小樽→札幌:40km
●札幌→富良野:114km
●富良野→函館:400km
北海道では、ある観光地とその隣の観光地はとてつもなく離れている。銀座から日比谷公園に行って皇居を周って国会議事堂と最高裁判所をみる、といった東京観光とはわけが違う。
無理をすれば函館から富良野まで1日で行けないこともないが、それだと走りっぱなしになってリスキーだ。北海道の道路の長さはそれだけで危険である。
しかも弾丸ツーリングではせっかくの北海道を堪能できないだろう。
時速60kmなら1時間で60km進む
ここまでの北海道トンデモ話はネガティブな内容だったが、ここからはポジティブな驚きを紹介する。
北海道ツーリングだと、時速60kmで走っていると1時間で60km進む。私は北海道に来てこのことにとても驚いた。
私は若いころ神奈川県平塚市に住んでいた。そこから東京まで50、60kmだが、渋滞にはまると4、5時間かかることはざらだった。渋滞がない日でも、信号待ちをしたり路駐の自動車をよけたりしなければならないので2、3時間はかかるだろう。
しかし北海道は、札幌の中心街を除けば、時速と1時間距離が大体一緒になる。とにかく信号が少ないし、路駐の自動車もほとんどないからだ。
「あれ、もう着いちゃった」現象に注意を
もし東京の道路感覚を持ったまま北海道に来てしまうと、「あれ、もう着いちゃった」現象が起きる。
例えば1日の走行距離を150kmにしてしまうと、高速道路を使ったら数時間で目的地に到着してしまうことがある。
例えばホテルに泊まって、翌朝早く出発して150km先のキャンプ場に行く場合、キャンプ場のチェックイン前に到着してしまった、といったことになりかねない。
先ほど、北海道の道路の長さはそれだけで危険である、とアドバイスしたのだが、しかし北海道の道路のガラガラぶりを想定していないと、全然走り足りない、といったことが起こる。
1日300kmを目安として、日が経つにつれて短くしてみては
ある程度のバイク歴がある人なら、夏の北海道の1日の走行距離は300kmが目安になるだろう。
例えば道内を丸々5日間走ることができる日程を確保できたとする。その場合、1日目と2日目の走行距離を300kmにして、3日目を250km、4日目を200kmにしてはどうだろうか。
北海道入りした日はたくさん走りたいだろうから長めに取り、日が経つにつれて疲れが溜まるので距離を短くするのである。
キャンプ場は大抵はガラガラ
もう1つのポジティブな北海道トンデモ話は、夏場のハイシーズンでもほとんどのキャンプ場がガラガラである、ということ。
札幌周辺のキャンプ場や、複数のガイドブックに載っているような有名キャンプ場は、土日祝日は込み合うが、そのほかのマイナーなキャンプ場が満杯になることはまずない。
私は6月のある晴れた土日、日本海が一望できる有名キャンプ場に泊まったことがあるが、そこにいたのは私たち夫婦と2組の計3組だけだった。
北海道の奥地のマイナー・キャンプ場なら、平日なら貸し切り状態になることも珍しくない。
人が少ないことは最高の観光資源であると思う。
まとめ~事故を起こして欲しくない2つの理由
北海道ツーリング・マニュアルを記したのは、道内を走るライダーに事故を起こして欲しくないからだ。そう思う理由は2つある。
1つ目の理由は、愛するライダーたちに、ライダーの聖地でつらい目にあって欲しくないからだ。私は、暴走行為と迷惑走行をしないすべてのライダーを愛するが、特に北海道に憧れを持っているライダーを強く愛する。そんな仲間が事故に遭うのはしのびない。
2つ目は、ライダーが事故を起こすと北海道警察の取り締まりが厳しくなるからだ。数年前に道内のある場所で「4時間前に苫小牧から北海道に上陸しました」というライダーと会ったことがあって、その人は「ついさっき白バイに捕まっちゃいました」と言っていた。北海道で最初に言葉を交わしたライダーが警官だったのである。
私の印象だが、北海道警察はライダーを厳しくみている。それは仕方がないことで、なぜなら危険走行をするライダーが少なくなく、実際に事故を起こしているからだ。
ライダーが道内で事故を起こせば起こすほど北海道警察はライダーを厳しく監視するから、走りにくくなる。
ライダーが北海道を安全に走ることは良いことだらけであり、ライダーが北海道でリスキーな走りをすることは悪いことだらけなのだ。