ヤマハSR400の生産終了についてまだに語るのか、と思われるかもしれない。2021年に43年の歴史が終焉してからもう2年経った(記事執筆時は2023年)。
しかし私は2年経ったからこそいいたいのだ。ヤマハはSRを残すべきだったと。
このようにいうと、ヤマハは「ありがとう。でも仕方がなかったんです」と言うかもしれない。SRファンは「もうみんな受け入れているんだ、今さら蒸し返すな」と言うかもしれない。
でも私はいう。ヤマハはSRをもう一度つくるべきだ。
私とSR
私は熱心なSRファンではなかった。でも所有してみて、乗ってみてわかった。これはすごいバイクだ。
SRの歴史については、SRファンは熟知しているし、SRファンでない人は関心がないと思うので、ここでは割愛する。
まずは私とSRの関係について紹介する。
つくり手の志がたまらない
私がSRを買ったのは2019年で、ファイナルと内容は同じだが色が違う。その前に乗っていたNSR250Rからの乗り換えだった。
次のバイクの条件は1)400㏄で、2)新車で、3)つくり手の志が強いもの、だった。当てはまるのはSRしかなかった。
30年以上前、中免クラス(250~400㏄)には、つくり手の志のカタマリのようなバイクがたくさんあった。ところがバイクが売れなくなり、大型免許が簡単に取れるようになると、バイクメーカーも乗り手の大型に集中した。それで2019年の中免クラス新車市場には、志が強くないバイクばかりになっていた。
もちろんどの中免クラス・バイクも、メーカーは真剣につくっている。性能も向上している。しかしどうしても私には、2019年の中免クラスの新車は、大型に乗る前のステップアップ用にみえてしまった。SRを除いては。
金属感がたまらない
だから私は、どうしてもSRが欲しいというわけではなかった。中古のSRX400でもいいかなと思ったのだが、なかなか良い個体がみつからず、消極的にSRを選んだ。
ところがこれがはまった。
SRは持ってよし、乗ってよし、洗車してよし、の「3よし」バイクだった。
つまり、金属感が所有欲を満たし、軽くて馬力が小さいからヒラヒラ走るうえに簡単に全力走行ができ、洗車するたびに使い込まれていって私になじんでくる。
歴史がたまらない
そしてなんといっても歴史だ。シーラカンスに価値があるのは、古代のスペックなのに生き残っているからだ。
工業製品は10年ぐらい経つと古臭くなって手離したくなるが、ところが40年も存在すると価値が見直され始める。なぜならみんなが、生き残ってきた理由を探すようになるからだ。
私は今、SRを批判したり欠点を指摘したりする人を知らない。
SRに欠点があるとすれば、ヤマハがつくるのをやめてしまったことだけだ。
ヤマハはせっかく特権をつくったのに手離した
空冷、中免クラス(250~400㏄)、単気筒、クラシックふう、という条件なら、現行車ではホンダGB350があるし、少し前ならカワサキ・エストレヤ250があった。しかし私は、この2台は「クラシックふう」であり、SRだけが「クラシック」だと思っている。
GB350は2022年に、エストレヤは1992年に誕生した。だからGB350は令和のバイクで、エストレヤは平成のバイクになる。SRは1978年に誕生したバリバリの昭和バイクだ。
ヤマハが令和の時代に昭和バイクをつくり続けることができたのは特権といってよい。そしてこの特権はヤマハ自身がつくったものだ。
ヤマハは耐えてSRの歴史をつくってきたのに
ヤマハは、400㏄クラスにレーサーレプリカ・ブームやネイキッド・ブームが到来しても、SRの販売が落ち込んでも、我慢してSRをつくり続けた。それは、SRの価値はまた見直されるはずだ、という予見があったからだろう。
そして、キャブレターをヒューエル・インジェクションに替えても外観のデザインは変えず、コストも手間もかかる鉄製フェンダーを採用し続けた。
ヤマハはこれだけ苦労して昭和バイクを令和につくる特権を獲得したのに手離してしまったのだ。
ヤマハの気持ちはわかる
もちろんヤマハ社内にもSR存続論者はいたはずだ。それでもSRを消滅させなければならなかったのは経営の事情なのだろう。
安価な空冷バイクが生きづらい世の中になってしまった
排ガス規制がさらに強化されれば、空冷エンジンでは対処が難しくなり、無理矢理対処しようとすれば開発コストも製造コストもかかる。それだけではない。ABSの義務化もあるし、ETCの標準装備化も求められる。リアのドラムブレーキも、安全性を考慮するとディスクに変えるしかない。
SRは金属部品が多く、プラスチック部品が少ないので製造コストがかかる。昔は金属のほうが加工しやすかったから、金属部品が多いSRは製造コスト的に有利だったが、今はプラスチックの成型技術が発達したので、プラスチック部品のほうが簡単かつ安くつくれる。
しかしSRの場合は、だからといっても金属部品をプラスチック部品に置き換えることは許されない。ファンも許さないだろうし、何よりSRをつくり続けているヤマハの人たちが許さないだろう。
安価な空冷バイクには生きづらい世の中になってしまった。
SRの人気は約60万円という驚異的な安さにも支えられていたので、コストアップを販売価格に反映させて値上げすれば致命傷になりかねない。
このような大人の事情を考慮すると、SRの廃盤は合理的な決断といえる。ヤマハの気持ちはわかる。
付加価値をつければよいのだ
それでもなお、私が「ヤマハはSRの生産をやめるべきではなかった」「ヤマハはもう一度SRをつくるべきだ」というのは、やりようがあるからだ。
SRを75万円で売る方法を考える
先ほど「SRの廃盤は合理的な決断といえる」といったが、この合理性は経済合理性のことである。安く売らなければならない工業製品の製造コストが高騰し、安く売ることができなくなったから廃盤にした――これは経済的に合理的であるし、これを実行しないとメーカーは存続できない。
しかし私は、ヤマハはSRを安く売るべきではなかったと思っている。SRには歴史と特権という価値があるし、根強いファンという強固な顧客層があるからだ。マーケティングの観点からするとビジネス上のメリットは十分ある。
ではSRはいくらが妥当なのか。私は75万円でも問題ないと思っている。
そのままでは75万円では売れないだろう
新車のノーマルのSRに75万円も出す人はいない、というかもしれない。
新車の400㏄の高額バイクといえばホンダのCB400スーパー・ボルドール(2022年生産終了)が知られているが、これは108万円だった。
CB400スーパー・ボルドールは水冷DOHC4気筒、56馬力で、SRは空冷SOHC単気筒、24馬力。スペックを並べると、CB400スーパー・ボルドールが108万円なら、「75万円SR」はかなり割高で、このままでは売れない。
トライアンフ方式が参考になる
SRを75万円で売る作戦で参考になるのがトライアンフだ。
トライアンフの1,200㏄クラスのベース車的な存在にボンネビルT120があり、この価格は172万円。そしてこのT120のエンジンを使ってつくったカフェ・スタイルのスラクストンRSは208万円になる。
208万円は172万円の21%アップだ。
「75万円SR」は「60万円SR」の25%アップなのでいい線だ。
――というより、トライアンフ方式のT120とスラクストンRSの価格差を参考に「75万円SR」を弾き出したのである。
ヤマハがSRを75万円で売る方法は、SRをベースにカフェ・スタイルなどのプレミアムSRをつくることだ。
ヤマハはなぜか、SRの派生モデルとつくっていない。SRX400は空冷単気筒400㏄だが別バイクという立ち位置になる。
なぜヤマハはSRに付加価値をつけなかったのか。
MT→XSRで実績があったのに
そしてヤマハ自身、ベース車的なバイクを元にプレミアム・バイクをつくることをしている。
MT-09の価格は114万円で、XSR900はその10%アップの125万円。
MT-07の価格は84万円で、XSR700はその19%アップの100万円。
同じことをSRでもできたはずだ。
SR子会社をつくればいいのだ
突拍子もないアイデアに聞こえるかもしれないのだが、ヤマハはSRをつくる子会社をつくればよいのではないか。その子会社はノーマルSRをつくり続ける一方で、カリカリにカスタムしたコンプリートSRをつくって売るのだ。
カスタム・バイクの市場は大きいわけではないが、単価と利益率がとても高い。有名カスタム・ショップなら、カスタム料だけで100万円はくだらない。カスタム料とは、デザイン料、部品代、材料代、加工代、利益のことであり、ベース車両代は含まない。
だから「75万円SR」どころか、「160万円SR」(=カスタム料100万円+ベース車両代60万円)をつくることができる。
SR子会社がコンプリートSRビジネスを軌道にのせたら、ほかのバイクでもカスタム・コンプリート・マシンをつくることができる。このビジネスは大手メーカーの子会社にふさわしい事業規模になるのではないか。
まとめ~もうヤマハにしかできない
復刻版は、自動車業界では禁じ手になっているようだが、バイク業界では案外行われている。スズキの初代刃もカワサキの初代NINJAも、ファンの声を受けて復活した。
ただSRの場合は、改良しなければならない部品が多い割に、単価が安いので利幅が小さく、復活させてもヤマハの儲けはわずかだろう。もしかしたら赤字だ。
しかしSRには40年以上の積み重ねという資産がある。40年の積み重ねは絶対にカネでは買えず、40年の月日をかけることでしか築きあげることができない。
そして電動化の波がバイク業界にも到来しつつあるので、向こう40年にわたって同じバイクをフルモデルチェンジすることなくつくり続けることは、ヤマハだけでなく、世界中のどのバイクメーカーももうできないだろう。
だからこそヤマハはSRを復活させて、細々とこのレジェンド・バイクをつくり続けるべきなのだ。