この投稿を書いているのが10月中旬、まさにツーリングに最適なシーズンです。筆者はここぞとばかり、愛車のドゥカティに跨り、九州のワインディングロードを快走しています。
私が所有しているのは、ドゥカティ848EVOコルセSE(2012年式)という旧モデルのスーパースポーツ(以下SS)バイクです。現行のドゥカティ・SSバイクは、皆様もおそらくご存知の「パニガーレ」です。赤くて速くてカッコイイ、ドゥカティのフラグシップマシン。2012年に誕生したパニガーレは今年で11年目。今回の投稿では、ドゥカティの歴史から、パニガーレの歴代モデルを紹介していきたいと思います。
ドゥカティの歴史
歴代のパニガーレを紹介する前に、ドゥカティがバイクメーカーとしてどのように生まれ、スポーツバイクを作っていったかを考察する必要があると感じました。そこでまずはドゥカティの歴史について少し紐解いていこうと思います。
・ドゥカティの誕生
ドゥカティは1926年、イタリアのボローニャで起業した無線特許科学会社でした。そこから第2次世界大戦の敗戦を経て、1946年より二輪車のエンジン製造業を開始します。
ドゥカティは当時シエタ社から販売されていた「クッチョロ(子犬の意味)」という小型バイクのエンジン生産を請け負っていました。自転車のフレームに4ストローク48ccの単気筒エンジンを搭載したクッチョロは、イタリア国内で大ヒット。1950年に入るとドゥカティはクッチョロの完成車生産をすることになり、バイク本体の製造が始まりました。
その後ドゥカティはレース活動を開始し、50ccの世界記録を更新。ここからスポーツバイクメーカーの歴史が始まり、1956年からは世界GP125ccクラスに参戦することとなります。
・Lツインエンジンの誕生
1960年代は日本メーカーが台頭し、ドゥカティのシングルエンジン販売は苦戦を強いられます。その危機を救ったと言われているのが、ドゥカティの代名詞となるL型2気筒エンジン(通称:Lツインエンジン)の誕生でした。
1970年代に入りベベルギア(*1)のLツインエンジンが生産され、デスモドロミック(*2)機構が採用される事となります。デスモドロミックエンジンを搭載したマシンで、マン島TTを優勝したのがマイク・ヘルウッドでした。そしてこのレーサーレプリカが、MHR900(マイクヘルウッドレプリカ900)として市販されたことはあまりにも有名ですね。
(*1)べべルギア:1950年代半ばに登場し、1986年まで採用されていたベベル(傘型)ギアでカムシャフトを駆動させるエンジン。ちなみに現行モデルはベルト駆動。
(*2)デスモドロミック:日本語で「強制開閉装置」という意味で、エンジンのバルブ機構システムです。開くカムと閉じるカムが強制的にバルブを開閉する機構になっており、沢山の空気を吸い込みながらバルブをコントロールし、より大きなエンジンパワーを出す仕組みです。
・ドゥカティの黎明期から名車誕生まで
しかし1970年代後半になるとドゥカティの市販車売上が落ち込み、経営難を迎えることになります。そして1985年、ドゥカティはカジバ傘下となります。カジバ時代にもLツインエンジンは継続して採用されており、1986年水冷Lツインエンジンを積んだ748は、スーパーバイク選手権を優勝するなど活躍しました。そしてその後、ドゥカティを代表する名機851、888、916、996が生まれていくことになります。
1995年に親会社であるカジバの経営が悪化。1997年にドゥカティはアメリカの投資会社、テキサス・パシフィック・グループ(TPG)に売却されます。TPGはドゥカティの経営方針にエンターテイメントを加え、ここからアパレルやアクセサリーも販売するようになりました。1998年にはドゥカティ・ジャパンが誕生し、日本への販売も本格化していきます。そして1999年には、社名をドゥカティ・モーター・ホールディングスとしました。
・モデルの多角化。アウディ傘下となり、パニガーレ誕生へ
2007年、ドゥカティはケーシー・ストーナー選手の活躍もあり、Moto GPを完全制覇。二輪のモータースポーツにドゥカティが復権した瞬間でした。しかしながら、2010年メルセデスベンツと提携したものの数年で解消し、2012年からはドゥカティはアウディ(親会社はフォルクスワーゲン)傘下になり、現在に至ります。
又、これまでスーパースポーツとネイキッド(モンスター)のみを作っていたドゥカティでしたが、21世紀に入りラインナップを多角化することになります。アドベンチャー、クルーザー、スクランブラー、モタード、スポーツクラシックなど様々な種類のバイクをリリースし始めたのもこの頃からです。
そして2012年、当時フラグシップだったSBKシリーズの1098/1198からバトンを受け継ぎ、パニガーレが誕生しました。このパニガーレの登場によって、ドゥカティがスポーツバイクブランドとしての地位を確実なものにしていくことになります。
パニガーレとは
まず「パニガーレ」という名前は、ドゥカティ発祥の地でもあり生産工場のある、ボローニャ地方ボルゴ・パニガーレ地区が由来と言われています。つまり、ドゥカティの原点である地名をつけた「パニガーレ」というモデルは、ドゥカティ社の思い入れがビジビジと伝わってきます。
世界最高峰の舞台Moto GPで活躍しているのはドゥカティワークスのデスモセディッチというレースマシンですが、その技術がダイレクトに継承されている市販車モデルが「パニガーレ」なのです。
2012年に誕生したパニガーレは、11年の間に様々なモデルをリリースしてきました。次の章では、歴代のパニガーレ達を紹介していきたいと思います。
パニガーレの歴代モデル
パニガーレのモデルには、大きく分けてリッタークラスとミドルクラスがあります。まずフラグシップであるリッタークラスが発売されてマイナーチェンジをしながら、弟分のミドルクラスがリリースされています。
❶1199パニガーレ/1199パニガーレS/1199パニガーレR/
まずは2012年~2014年までリリースされたのがパニガーレの元祖である「パニガーレ1199」。これまでのSBKシリーズでは、トレリスフレームが使われていましたが、パニガーレ1199からはアルミ製モノコックフレームを採用。そしてエンジンは新設計のスーパークアドロ1198ccを搭載し、最高出力195馬力・最大トルク13.5kgm(本国仕様)。引き続き、Lツインエンジンとデスモドロミック機構は継続しました。クラッチ形式は湿式多板、サイレンサーがアンダーカウルの後ろから出ているのも特徴的でした。
1199パニガーレSは、DES(ドゥカティエレクトリックサスペンション)搭載、前後オーリンズサスペンション、マルケジーニ鍛造ホイールなど1199より50万円高い価格設定ですが、装備が充実しています。
そしてスーパーバイクのホモロゲーションモデル「Rタイプ」として1199パニガーレRがリリースされています。アルミタンク採用やコンロッドのチタン化など1199Sから軽量化され、よりレーシーな仕様となっています。
❷899パニガーレ
2014年に販売開始された899パニガーレは、先行した1199パニガーレの手法に則したミドルクラスのスーパースポーツバイクです。1199同様に、アルミモノコックフレームに水冷L型2気筒デスモドロミック4バルブエンジンを採用し、最高出力は本国仕様は148馬力、国内仕様は118馬力。848EvoコルセSEから引き継がれたトラクションコントロールとクイックシフターを備え、ABSとDCTを連動させたモード選択も可能にしています。(スイングアームは両持ち仕様)
❸1299パニガーレ/1299パニガーレS/パニガーレR/1299パニガーレR final Edition/
1299パニガーレは2015年にリリースされ、パニガーレV4が発売するまでの3シーズンの間ラインナップされました。1199から継続しているスーパークアドロエンジンはボアアップし、排気量は1285ccへ。そしてLツインエンジン搭載車で初めて最高出力200馬力を超える(205馬力)モデルとなりました。(日本仕様は200馬力未満)またこのモデルからTFT液晶が採用され、トラクションコントロールやエンジンブレーキコントロールも装備。
1299パニガーレSは前後にオーリンズサスペンション、オーリンズ製ステアリングダンパー、カーボン製のフロントフェンダー、マルケジーニ鍛造ホイールなどが盛り込まれ、Sバージョンとして販売されました。
1299系のホモロゲーションモデル「Rタイプ」は2種類。WSB参戦のために排気量を1198ccにダウンサイジングしたパニガーレR、そしてLツイン最後のRモデル・1299パニガーレR final Editionがラインアップされています。Rのァイナルエディションは、マフラーはアクラポビッチ製フルチタンを装備し、最高出力は209馬力を発揮します。
❹959パニガーレ
959パニガーレは、848・899パニガーレと続いてきたミドルクラスのスーパーバイクとして 2016年にリリースされました。955㏄水冷L型2気筒エンジン「スーパークアドロ」をモノコックフレームに搭載。ショーワ製フロントフォークとザックス製モノショック、899同様の両持ちスイングアームという構成になっています。電子制御・クイックシフター上下、スリッパークラッチを採用しており、ちょうど良いミドルクラスのパニガーレに仕上がっています。
❺パニガーレV4/パニガーレV4S/パニガーレV4SP/パニガーレV4R/
ドゥカティのバイクと言えばLツインだったのですが、2018年遂に4気筒エンジンを搭載した市販車モデル「パニガーレV4」がリリースされました。「デスモセディチストラーダレ」という名前のエンジンは、1103cc最高出力215馬力を発揮します。4気筒化したにも関わらず乾燥重量は175kgに抑えられ、本来のタンクの位置には電装系を配置し、ガソリンタンクはシート下にある構造になっています。
サスペンションはフロントがショーワ製、リアがザック製のフルアジャスタブルで、最新の電子制御装置を完備。2023年現在までで3度目の仕様変更が行われ、2020年の第2世代からはウイングレッド(空力パーツ)が設けられています。
パニガーレV4Sは、マルケジーニ鍛造ホイール、前後オーリンズ製サスペンション、オーリンズ製ステアリングダンパーなどV4に比べて上位パーツが採用されています。2020年の第2世代からは、V4同様にウイングレッド&エアダクト仕様になって空力性能がUPしています。
パニガーレV4シリーズが2021年のモデルチェンジを経て登場したのが「パニガーレV4SP」。車体は黒をベースカラーに、カーボン素材が多数使用されています。パニガーレV4Sをベースにしていますが、STM製乾式クラッチや可変ステップを使用するなど、そのままレースに出れるようなワークスマシンに仕上がっています。そして2023年には、「パニガーレV4SP2」もリリースされました。
2021年の初代、2023年に2代目のパニガーレV4Rがリリースされました。搭載されている水冷4ストロークV4エンジン998ccは、ノーマルでは218馬力ですが、レーシングキット等を組めば最高出力240馬力を誇るモンスターマシンです。市販車最強クラスのV4Rの販売価格は、約500万円となっています。
❻パニガーレV2/パニガーレV2ベイリスモデル
2021年、パニガーレ959の後継機として登場したのがパニガーレV2。パニガーレV4のスタイルやテクノロジーを世襲しつつ、水冷4ストロークLツインエンジン955ccを搭載したパニガーレV2は、最高出力155馬力を誇ります。最新の電子制御機能に加えて、フロントサスはショーワ製、リアサスはザック製モノショックを採用しています。
T.ベイリスのSBK初戴冠から20周年を祝う特別仕様モデル、「パニガーレV2ベイリス1stチャンピオンシップ20周年記念モデル」が2021年リリースされました。外装は当時の996R風グラフィックを再現。前後の足回りにはオーリンズを採用したモデルとなっています
まとめ
11年間でリリースされた歴代パニガーレを紹介させて頂きましたが、どうだったでしょうか?(スペシャルエディションモデル等は割愛させて頂きました)ドゥカティがわずか11年間でこんなに沢山の素晴らしいパニガーレを作ってきたことは驚きであり、同時にドゥカティは生粋のスポーツバイクメーカーなのがよく分かりました。そして唯一無二の官能的なイタリアンデザインと刺激的なエンジンサウンドは、「パニガーレ」の為にあると言っても過言ではないでしょう。これからも引き続き、ドゥカティ・パニガーレの進化や創造性を楽しみにしていきたいと思います。
ドゥカティのスーパースポーツに触れてみたくなった人や刺激の欲しいライダーさんは、是非一度パニガーレを試乗してみて下さい。新たなオートバイの扉が開かれるかもしれません。