北海道ツーリングなら道東だべ~調教されていない自然のなかで孤独になろう

バイクで北海道に来るなら道東に行ってみて欲しい。

北海道は九州の2倍の広さがあるのに都道府県が1つしかないので、エリアがわかれている。函館があるところが道南エリア、札幌があるところが道央エリア、旭川や稚内が道北エリア、道西エリアはなぜか存在せず、そして、帯広、釧路、知床、北方領土があるところが道東エリアである。

北海道民であり北海道を5周くらいしている筆者は、バイクで走るなら道東が1番だと思っている。

その理由と、道東の走り方を解説する。

目次

道東とはなんなのか

アサオカミツヒサ

7年間、道東・釧路に住んでいた。釧路に移ってすぐに「俺が知っている北海道じゃない」と思ったが、しばらくして「これこそ北海道だ」と思った。

なぜ道東を強調するのかというと、道東はとてもよい場所なのに、行きにくいうえにメジャーな観光地がないのであまり人が行っていないから。

「それなら行くメリットがないのではないか」と思うかもしれないがさにあらず。その点は次の章「道東の魅力」で紹介する。

ここでは道東とはなんなのか、についてみていく。

忘れ去られた遠い地域

日本には数多くの忘れ去られた地域があるが、道東はその筆頭だろう。地場産業と呼ばれていたビジネスの多くは衰退し、空き家問題は20年以上前から存在し、シャッター街じゃない商店街のほうが珍しく、国道脇のドライブインは大抵お化け屋敷の様相を呈している。

しかも道東は遠い。札幌から最も近い道東の大きな街は帯広で、バイクで高速道路を使って2時間45分もかかる。道外からフェリーで道内入りするライダーは、小樽港か苫小牧港から北海道ツーリングを始めると思うが、小樽=帯広は3時間、苫小牧=帯広は2時間40分かかる。

そして帯広から釧路までさらに2時間、釧路から根室まではさらに2時間かかる。

札幌・小樽・苫小牧→約3時間→帯広→2時間→釧路→2時間→根室

札幌から根室まで道路距離で430kmもある。

有名観光地はあるが弱い

道東にも名の知れた観光地はある。北海道の観光雑誌には、釧路の和商市場、鶴居のタンチョウ(鶴)、無理なく行ける日本最東端の納沙布岬(のさっぷみさき)、斜里と羅臼の世界自然遺産・知床、360度地平線の開陽台などがすぐにみつかるだろう。

無理なく行ける日本最東端」とは、北方領土のほうが東に位置するが、今は北方領土に行くことができないので、今は納沙布岬が事実上の最東端である、という意味である。

これら道東の有名観光地はとても魅力的なのだが、残念ながら弱い。北海道のそのほかの観光地が強すぎるのだ。

函館の五稜郭、札幌の雪まつり、旭川郊外の大雪山系、日本最北端の稚内、富良野のラベンダー、美瑛の美しい丘、ニセコのスキー場。いずれも北海道に行くならぜひ行きたい場所であり、だからこれらは一軍観光地だ。そうなるとどうしても道東の観光地は二軍になってしまう。

関東以南・以西に住む人たちからすると、北海道自体が遠い場所なので、そこにわざわざ行くのなら「一軍観光地に行きたい、二軍観光地は後回しか、行かないでもよい」と思うのは人情だろう。

ただこれは強調したいのだが、道東の観光地は二軍だが二流ではないということ。道東の観光地は十分一流だ。しかし北海道のそのほかの観光地は超一流なので、道東はどうしても二軍落ちしてしまうのである。

道東の魅力

ここからは道東の真の魅力をお伝えする。

道東のよさは、よく知られている観光地以外にもあるのだ。

孤独になりたくないか

私がここで道東をおすすめするのは、読者の大半がライダーだからだ。これは私の偏見かもしれないが、こんなふうに思う。

俺たちライダーがメジャーな観光地ばかりを走ってどうする。バイクで走るのは孤独を味わいたいからだろ

そして、世間から忘れ去られていて、東京から最も遠い場所の1つである道東をバイクで走れば、すぐに孤独になることができる。つまりバイクの醍醐味を最も高次元で味わえる場所がここなのだ。

調教されていない自然

北海道の自然はすごい、とは、よくいわれることだが、道東を走ったら、ここ以外の北海道の自然は調教されすぎていると感じるだろう。

自然を整備することで多くの人が自然に触れることができるので、調教された自然が悪いわけではない。しかし、道東は観光客が少ないから整備のされ度合いが弱い。整備しても人が来ないから、例えば遊歩道にも苔(こけ)が生えるほど。

バイク・ツーリングでも同じで、夏のハイシーズンの天気がよい休日でも、田舎の道路だとしばらく車ともバイクともすれ違わない状態を堪能できる。

ただしもちろん、いくら道東であっても世界有数の先進国の一部なので、アマゾンの奥地や砂漠のど真ん中のような本当の手つかずの自然ではない。そう、道東の自然は、いい具合に不便を感じることができるちょうどよい感じなのだ。

天空のキャンプ場「釧路町のキトウシ野営場」~しかも無料

これも私の偏見かもしれないが、東京とか大阪とか名古屋とかの大都市やその周辺は、景色がよいとすぐに料金を徴収されるイメージがある。駐車場に入ると数百円取られて、観光エリアに入るとまた数百円取られて、アイスクリームでまた数百円取られて(道東でもソフトクリームは高いが)といった感じである。

しかし釧路市の隣にある釧路町の風光明媚な場所はすべて無料だ。駐車場代すら要らない。

そのなかで私が紹介したいのは、私が天空のキャンプ場と命名した、キトウシ野営場だ。

住所はなんと、釧路町昆布森村キトウシ(来止臥)野営場。ここは無料で管理人もいないので、予約不要だし予約できない。だから好きなときに入って好きなときに出ればよい。ただ夏季シーズン以外は入り口に鎖がかけられている。

キトウシ野営場の入り口はこのようになっている。大きな道路が道道142号線。道道は「どうどう」と読み、県道みたいなもの。

右の細い未舗装路を進むとキャンプ場が現れる。

(出典、グーグルマップ、以下同)

右に入るとその道はこのようになっていて、電線がなかったら不安だろう。いや、電線があってもかなり不安で、しかもキャンプ場まで結構距離があるので、「この先にあるはずだ」と思いながら進んで行って欲しい。

さらに不安にさせるのが、突如現れる二股道(ふたまたみち)。キトウシ野営場は右という看板があるし、左の道には鎖がしているので間違う心配はないと思うが。

不安に感じても進んでもらいたいのは、この絶景が待っているからだ。緑の草の向こうは太平洋だ。そう、神奈川県の湘南の海と同じ。

車の向こうは断崖絶壁になっていて、ここにテントを張るのはかなり勇気がある人だと思う。

キャンプ場といっても施設・設備といえば上の写真の東屋と、下の写真の水場くらい。

テントをどこに張ってもよい。

以下は、キトウシ野営場の航空写真。

この写真だと、海までだいぶ距離があって、下り坂はなだらかに感じるかもしれないが、現地に立つと足がすくむほど急坂であり、浜辺に行くことは登山の上級者でも苦労するはず。

私の登山歴はゆうに30年を越えるが、海岸まで下りることにも苦労したが、登って戻ってくるのはもっと大変だった。もう二度とやらないと思った。

北太平洋シーサイドライン

もし道外ライダーが北海道ツーリングで釧路に来たら、根室に行ったほうがよいと思う。北方領土をみてもらいたいから。

釧路から根室に行くとき、メイン道路の国道44号線を使わず、道道142号を使って欲しい。この道路は北太平洋シーサイドラインという美しい名前がつけられているほど美しい道路なのだ。

下の写真は道道142号の釧路町エリアの一部。道路の両脇のこんもりした緑の丘がいかにもかわいらしく、走りながらヘルメットのなかで笑みが絶えない。

そしてシーサイドと呼ぶにふさわしく、頻繁に太平洋がみえる。こうなると笑みぐらいでは足りず「キャッホオ!」と奇声を上げてしまう。

北方領土をみてみないか

下の写真は標津(しべつ)町内の国道244号で、根室から1時間半くらいの場所。この道路を走ったら、スマホのカーナビを確認して欲しい。線が1本映っているだけの奇妙な画面になっているはずだ。周りに道路がなく、この国道244号が線を引いているだけなのだ。

右の掘っ立て小屋の向こうは海で、天気がよいとすぐそこに北方領土で2番目に大きい国後島がみえる。標津町の海岸から国後島の海岸まで30kmぐらいで、北海道と青森を結ぶ青函トンネルの海の下の部分より少し長いくらい。

遠泳が得意な人なら無理すれば泳ぎきれる距離だろう。「あそこに行けないなんておかしい」と感じるほど近い。

根室の納沙布岬でも北方領土がみえるのだが、それは歯舞群島といって小さな島の集まりである。しかし標津町の国道244号からみえる国後島はどっしりとした領土である。

北方領土は日本のものだがロシアが実効支配していて、うかつに近づこうものならロシア国境警備局の警備艇に拿捕(だほ)されるか、運が悪ければ銃撃される。それは冗談ではなく、実際にそのような痛ましい事件がこの海で起きている。

標津町は「存在するはずがない国境」の街なのである。

道東の走り方

道東でバイクを走らせることはとてもイージーだ。道東の大きな都市は帯広と釧路だが、街のエリアを抜けるのに30分も要らない。すぐに田舎道になり、大体はまっすぐで、たまに緩いカーブが現れ、そして車もバイクもまばら。道東の人たちは渋滞が起きたら「事故かな」と思い、その推測は高い確率で当たる。

バイク初心者でも簡単に楽しめる道東の道路だが、注意していただきたいことがある。

真夏でも寒くなることがある~最小限の防寒着を持っていって

道東を走るときは、真夏でも寒くなることがあるので、必ず最小限の防寒着は用意したほうがよい

道外の人が真夏に北海道ツーリングをするとき、出発するときは灼熱のなかにいるはずだから、荷物のなかに防寒着を入れることを躊躇するかもしれない。

でも信じて欲しい。釧路や根室では7月でもストーブに火を入れることがあるのだ。

1991~2020年の最低気温は、釧路が「6月9.5度、7月13.6度、8月15.7度」、根室が「6月8.1度、7月12.1度、8月14.8度」である(*)。

https://www.data.jma.go.jp/obd/stats/etrn/view/nml_sfc_ym.php?prec_no=19&block_no=47418

https://www.data.jma.go.jp/obd/stats/etrn/view/nml_sfc_ym.php?prec_no=18&block_no=47420&year=&month=&day=&view=

過去の北海道ツーリングで「暑かった」と思った人は気をつけて

特に注意して欲しいのは、過去に真夏の北海道ツーリングを経験したことがある道外ライダー。次に道東に出かけるときは油断しないように。

北海道にも猛暑があり、そのような年の夏はさすがにライダーでも防寒着は要らない。その経験をしていると「7月でもストーブに火を入れることがある」ということを信じられないと思う。しかしこの地にはまだ冷夏が存在する。

最小限の防寒着が1着あるだけでツーリングを続行できるので、荷物が1つ増える面倒を抱える価値はあると思う。

居眠り運転に注意を

バイクで居眠り運転をするわけがない、と思っている人は、人生初のバイク居眠り運転を道東ですることがないように注意されたい。

道東に入って2日、3日と経つと単調な道路に飽きが出てくる。観光地から観光地まで100km以上ある、なんていうのはざら。

眠たくなったらバイクを停めて柔軟体操をしよう。私はそれで大体回復する。

まとめ~遠いけど行く価値がある

遠いから道東をすすめるのではなく、遠くても走る価値があると思うから「ぜひ行ってみて欲しい」といいたくて仕方がないのである。

バイク旅は観光地だけでなく、移動中も楽しみたいはずだ。日本みたいな経済大国だと走って楽しい場所はそれほど多くなく、その数少ない場所が道東である。

事故から身を守るために最低限の装備は揃えておきたいけど見た目が・・・という方にオススメのインナープロテクターをこちらの記事で紹介しています。

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この記事を書いた人

●著者紹介:アサオカミツヒサ。バイクを駆って取材をするフリーライター、つまりライダーライター。office Howardsend代表。1970年、神奈川で生まれて今はツーリング天国の北海道にいる。
●イラストレーター紹介:POROporoporoさん。アサオカの親友。

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