いきなりお尻で失礼。
イラストの左はヤマハMT-01で、右はスズキB-KINGである。これでノーマルなのだから驚きだ。
この2台はすでに生産が終了しているが、バイクのデザインを語るのであれば、今でも必ず触れておかないわけにはいかないだろう。
いや、触れる必要はない、という人がいるかもしれない。売れたバイクではないし、一代限りで終わっている。しかも2台ともほかのバイクのエンジンを流用していて、つまり派生モデルにすぎないともいえる。バイクファンに見向きもされなかったバイクなのだから、例えデザインに特殊さがあっても語る価値はない。
しかしそうはいかないのだ。なぜならこのデザインは化け物だからだ。
破綻なく破綻させた~MT-01
【シリーズ・デザインを考える】はバイクのデザインを語る記事です。性能にはあえて触れず、バイクを、みて楽しむものとしてとらえていきます。
デザインについて早く話したいので生い立ちや諸元などの紹介は後段に回す。
まずはMT-01から。
クセが強すぎで長くみているとゲップが出てきそうだが、しかし見慣れてくるとヤマハらしい繊細かつ丁寧な造形がみて取れる。それもそのはずで、デザインをしたのはヤマハと関係が深い株式会社GKデザイン機構。GKはYZF-R1やVMAXも手がけていて、格好良いヤマハ車は大体ここが描いている。
MT-01は部品の一つひとつを取り出すと破綻していないのだが、全体としては確実に破綻している。大小異なる2つの円を縦に並べて陥没させたヘッドライトは明らかに変だ。タンクもエンジンもスイングアームもマフラーとサイレンサーも凝りすぎていて、それぞれが主張しすぎてまとまりに欠ける。
ここがMT-01の、ヤマハらしからぬところだ。普段のヤマハなら、奇異にみえても破綻させずしっかりまとめてくる。ところがMT-01では破綻を放置してしまった。
強さを主張
MTシリーズは今、ヤマハのドル箱になっているが、その始祖はこのMT-01である。MTはマッスル・トルク、またはメガ・トルクの略で、猛烈なつまりトルクを楽しんでもらうためにつくったバイクだ。
だからMT-01のデザイン・コンセプトは強さ。ヤマハはこのコンセプトを、エンジンとサイレンサーで主張している。
ハーレーに酷似しているのは仕方がないか
私がMT-01のデザインで唯一残念に感じるのはエンジンで、ハーレーダビッドソンのそれに酷似している。その理由はMT-01のエンジンが、クルーザー(いわゆるアメリカン)のXV1700のものを流用しているからだ。
ハーレー以外のバイクメーカーは、クルーザーを出すとき、どうしてもハーレーに似せないと売れない。そのためXV1700もハーレー・ルックを採り入れている。
ただMT-01が優れているのは、ハーレーに似たエンジンを使っているのに、全体としてはまったくハーレーに似ていないところだ。
ハーレー似のエンジンは、MT-01では力強さをアピールすることだけに使われている。
メガホン形のサイレンサーがハイライト
2つ目の力強さの主張は、シート下というよりシート脇に置かれたサイレンサーだ。エンジンに近いほうが細く、リアに向けて太くなっているメガホン形になっている。この形でミサイルが出ないのが不思議なくらいの形状である。
私はこのメガホン・ミサイル・サイレンサーこそが、MT-01のデザインのハイライトだと思っている。これだけ大きなものがこの位置になかったら、MT-01の全体のデザインはきっとエンジンの存在に負けてしまっていたろう。
先ほど紹介したとおり、ハーレー・ルックのエンジンはものすごい勢いで存在を主張してくる。もしこのほかにハイライトをつくらなかったら、これはエンジンを中心にしたつまらないバイクになっていたろう。
奇抜なメガホン・ミサイル・サイレンサーを取りつけたおかげで、MT-01をみる者は2点に集中するから、エンジンの印象が半減されるのである。
ただしハーレー・ルック・エンジンとメガホン・ミサイル・サイレンサーの組み合わせはこれまでのバイクにないデザインとなり、その結果、破綻の烙印が押されてしまう。
当てるか外すかで外した~B-KING
スズキはいつもそうだ。滅茶滅茶なデザインを世に問うて、大ヒットさせるか、大ゴケさせる。
初代刃(かたな)と初代隼は滅茶滅茶なデザインで大ヒットとなった事例で、B-KINGは滅茶滅茶なデザインで大ゴケした事例だ。
スズキには影の社長がいて、デザイナーたちに「表の社長のいうことを聞いてつまらないデザインばかり描くな。私がみたことがないものを描け」といっているとしか思えない。
メガホン・アップ・サイレンサーはこちらが先
B-KINGのデザインのハイライトもMT-01同様、リアシート下に突き出している2本のメガホン形のサイレンサーだ。登場した年は、MT-01が2005年、B-KINGが2008年だが、B-KINGのコンセプト・モデルは2001年に発表されているので、2本出しアップ・サイレンサーのアイデアはスズキのほうが早かったといえる。
そしてB-KINGのほうがはるかに迫力があり、これはもう波動砲だ。しかもB-KINGは2砲持つから宇宙戦艦ヤマトより力強い。
エラが気持ち悪さを増やしている
B-KINGの気持ち悪さをさらに強めているのが、タンク横に張り出したエラだ。そこにウインカーを埋め込んで実用性を装っているが、私にはデザインのためのデザインにしかみえない。
スズキのデザイナーは、後部をメガホン・サイレンサーで強調したあと、物足りなくて前部にエラをつけたのではないか。
MT-01と異なり、B-KINGはメガホン・サイレンサーとエラを見終わってしまうと、ほかの部品は案外単調だ。それはきっと、B-KINGに世界最速バイク隼のエンジンを載せているからだろう。デザイン上のハイライトが2つあって、そのうえ最強エンジンがあれば、「これ以上何をすればいいのか」状態である。
そう、B-KINGのデザインは完全にバイク・ファンを置き去りにしている。
2台の生い立ちと諸元
それでは先送りしておいたMT-01とB-KINGの生い立ちと諸元を紹介する。
MT-01について
ヤマハは2005年、速さを極限まで追求したスーパースポーツのアンチテーゼとしてMT-01を世に出した。空冷OHV、1,670㏄、V型2気筒エンジンは15.3kg-mの最高トルクをわずか3,750rpmで発する。かの2代目VMAXですら、17.0kg-mの最高トルクを出すのに6,500rpmまで回さなければならない。最新のR1に至っては11,500rpmでようやく11.5kg-mを出す。
つまりMT-01は、街中で十分「ドッカン」を味わえる。馬力は90psと、このクラスにしては控えめで、トルクを生み出すために馬力を犠牲にしていることがわかる。
車重は乾燥重量で240kgで、当時の価格は約140万円(税別、以下同)。
参照:https://bike-lineage.org/yamaha/mt/mt-01.html
B-KINGについて
B-KINGのエンジンは水冷DOHC、1,340㏄、並列4気筒。馬力は183psでトルクは14.8kg-m/7,200rpm。さすが隼譲りであり、これだけで十分モンスターである。車重は乾燥重量で235kg。
B-KINGのコンセプト・モデルが2001年に出たとき、その過激さからかなり話題になった。しかしスズキはすぐにこれを市販化できず、2008年に出したときには多くの人がB-KINGを忘れていた。
しかも2008年は100年に一度の世界的な経済事件といわれるリーマン・ショックが起き、世界同時不況となった。高額バイクを買える人が減っていた。
当時のB-KINGの価格は約160万円で、当時の隼の約150万円より高かった。B-KINGはすごいデザインだが、そこに価値を見出さない人からすると隼のカウル・レスモデルにすぎないので、隼より高額であることも支持されない要因になったようだ。
参照:https://bike-lineage.org/unpopular/b-king.html
まとめ~守りに走って欲しくない
私は、MT-01とB-KINGの商業的な失敗はデザインにあると考えている。両車のデザインは過激なだけでなく、破綻しているし外しているし逸脱しているし迷走している。
2台ともデザインに力強さがあるから、失敗したときのダメージが大きい。前に前にと出てくる人がしくじると大恥をかくのと同じだ。
しかし、だからこそこの2台のデザインには大きな価値がある。
バイク業界には少し息を吹き返してきた印象があるが、1980年代や1990年代と比べるべくもなく、したがってバイクメーカーは1車種でも失敗したくないと考えるだろう。バイク事業はシリーズ化できてようやく儲かるビジネスであり、一代で終焉してもらってはマーケティングに投じた資金を回収できない。
いくら私がMT-01とB-KINGのデザインはすごいと褒めたたえても、ヤマハの社長とスズキの社長は「売れなければ失敗作です」というだろう。だからもう、MT-01やB-KINGのようなデザインの化け物は出てこないのではないか。