関西人にとって、大仏といえば奈良というのが当たり前なのだが、実は兵庫県の山奥に巨大な大仏が存在する。この大仏が完成したのは約30年前なので、比較的新しいとはいえ、僕の周りに聞いても知っている人はいなかった。
後ほど詳しく紹介はするが、山奥にほとんど知られざる大仏があるというだけで、なんだか面白そうじゃないか。というわけで今回は、下道で3時間半かけて大仏を拝みに行ってきた。
但馬大仏
約1200年前天平年間に八鹿山薬師寺として行基が開創した霊場で、弘法大師も訪れたというゆかりの古刹です。
天文11年(1543年)、天災により再建。名を川会山長楽寺と改め経ること数百年、平成6年4月、世界最大級の木造三大佛が落慶開眼されました。
115本の柱(直径1.2メートル)の舞台に支えられて、川会山山頂にそびえ立つ長楽寺は、四方の美しい山々に囲まれ、眼下に矢田川を見下ろす素晴らしい自然の眺望に恵まれた大伽藍です。
中央に釈迦如来像、向かって左に阿弥陀如来像、右に薬壷を手にされた薬師如来像が安置されています。
中国人仏師延べ2万人余りが、3年の歳月をかけて製作し、はるばる海を渡って大仏殿で組み立てられました。
樟材の寄せ木作りに金箔132万枚(21.8kg)が貼りめぐらされ、金色に光輝いています。
中央の釈迦如来像は、身の丈15.8mあり、光背と須彌壇と蓮座で総高は25.3mにもなります。
三大佛の表情は、それぞれの個性を偲ばせながら、端正で穏やかな慈愛に満ちたまなざしで人々の前に坐しています。
阿弥陀如来像 15.2m
釈迦如来像 15.8m
薬師如来像 15.2m
※参照:https://www.town.mikata-kami.lg.jp/www/contents/1678865162901/index.html
ひたすら下道を走る
僕の自宅からだと、約3時間半も下道を走ることになる。ちょっとしんどい気もするが、篠山を超えたあたりから北部には快走路が至る所にあることを過去の経験から知っているので、下道を走ることにした。
まずは国道176号、通称イナロクをひたすら北上する。快走路が始まるのは、丹南篠山口インター付近を過ぎたあたりからだ。北に行けば行くほど、交通量も減り走りやすい道が続く。目的地がなんであれ、快走路を走っているとバイクに乗っていてよかったなと感じる。
176号を北上したら、兵庫県道7号、国道427号、国道9号へと進んでいく。丹波市から朝来市、養父市を抜けて三方郡へと続く。このあたりの快走路を走らないのはもったいない。高速道路だと感じれない気持ちよさが下道にはあるのだ。
但馬大仏とご対面
そろそろ到着するな、と思っていたら斜め左の山に大仏殿と五重塔が見えてくる。遠くからでも見えるのだから、相当な大きさがあるのがわかる。しかし周りには何もなくて、山の麓には小さな集落があるだけだ。但馬大仏があるからといって、観光産業で成り立っているような街には見えない。実際、ほぼ恩恵を受けていないのかもしれない。
到着してすぐに出迎えてくれるのが大きな門だ。もうすでにデカい。そして駐車場も広く、バイクも停めやすい。平日だったからか、車も2台ぐらいしか停まっていなかった。
まず、門の左右に、口を開いている阿形像(8.2m9.5t)と口を結んでいる吽形像(8.4m10t)が鎮座する。かなりの迫力で、中国人仏師が作ったものをそのまま運んできたのだそう。
拝観料は大人800円で、JAFの会員カード提示で10%オフになる。
門をくぐると、正面にこれまた大きい大仏殿が堂々と現れる。そして左側には五重塔だ。この五重塔は日本で2番目に高い五重塔らしく、一番上まで階段で登ることができる。せっかくなので登ってみることにした。
各階に仏像が置かれており、薄暗い階段をひたすら登らされる。途中まではよかったが、流石に5階ともなると息切れしてくるので、もし登るなら少しばかり覚悟はしておいた方がいい。
とはいえ、登りきったあとの眺望は素晴らしく、疲れを一気に吹き飛ばしてくれるだけの破壊力はある。
そしていよいよ、大仏殿だ。40mの重層寄棟づくりの巨大な建物で、目の前に立つとかなりの迫力がある。
中へ足を踏み入れると、黄金色に輝く三体の大仏が堂々と安置されている。静まり返った空間に三体の大仏と僕しかいないからか、厳かな雰囲気に圧倒され緊張してしまった。
奈良の大仏を見たのはいつだっただろうか、大きさなんてうる覚えでしか無いが、三体とも奈良の大仏より大きいというのだからすごい。なぜ、こんなにも但馬大仏は知られていないのだろうかと不思議になる。
そして大仏の後ろには小さな大仏が無数にあり、大仏殿の内壁にも無数の仏像が安置されていて今なお増え続けているらしい。そんな贅沢な空間を、この時は独り占めできたのだから満足でしかない。
ちなみに、この長楽寺の歴史はかなり古いのだが、今から約30年前にある人によってここまでの規模になったのだ。その人は、大阪のタクシー会社で有名な相互タクシーの創業者である、多田清氏だ。
およそ200億円以上の私財を投じて、大仏殿、大仏、五重塔などを建立したのだというのだから、どんだけ立派な人なんだと思う。奥様の出身地が、この香美町という理由からだそう。そしてこの多田清氏は福井県の出身で、地元にも大仏と城を建てている。加えて、但馬大仏の手前にある橋も建てられたそうだから、もう尊敬でしかない。僕が莫大な資産を持つことはこの先考えられないが、こんなお金の使い方ができるのは立派だし、見習いたい。
ただ、残念なことにこの多田清氏は、大仏の完成を待たずしてお亡くなりになられたとのこと。多田さん、あなたの寄進した大仏は素晴らしかったですよ、と言い残して長楽寺をあとにした。
出石蕎麦を食べる
存分に、しかも贅沢に但馬大仏を堪能したところで腹が減ってきたので、出石蕎麦を食べにいくことにした。但馬大仏から約50分の道のりだ。
ここから出石までは、とんでもない快走路が続く。まるで但馬大仏から出石までの道を途中停車が無い特急列車にでも乗っているかのような感覚で走れる。国道482号を走り神鍋高原を抜け、兵庫県道2号を走ると出石へ到着する。特に神鍋高原あたりの道が気持ちよかった印象が強い。
出石の街中には、それこそ出石蕎麦を提供する店が山ほどあるが、駐車場の心配もあったので街中から少し離れた駐車場が広そうな店を選んだ。
本格手打ち出石蕎麦 善店(よいみせ)
駐車所も広く、店内も清潔で店員さんの愛想も良い。僕が行ったのが1時半ごろだったからか、満席というほどではなくすんなり座敷に座ることができた。窓際の個室に座ると窓からはるか彼方まで続く田んぼと山々を眺めながら蕎麦を食べることができる。僕は窓際ではなかったので景色は見えなかったが・・・
注文はもちろん、出石蕎麦。それと麦とろご飯を頼んだ。最初に蕎麦が5皿と薬味などが出てくる。
まあ、蕎麦は言わずもがな当然のように美味い。とろろと玉子を混ぜてとろろそばにして食べても美味い。
蕎麦よりも、麦とろご飯の美味しさにはちょっとばかり感動した。シンプルだが美味い。
追加で2皿注文し、食後には蕎麦湯をいただいて完食。
出石蕎麦、といえば小皿で蕎麦が提供されるのだが、なぜ小皿に分ける必要があるのか?と考えながら店を出た。どなたか知ってる人がいれば教えて欲しい。
あとがき
今回の但馬大仏は実に圧巻だった。兵庫県の山奥にひっそり、と言いたいところだが決してひっそりではなく、存在感半端ないぐらいの堂々とした大仏が、人里離れた山の中にある。たしかに、交通の便は悪いかもしれない。公共交通機関ではなかなか辿り着けないかもしれない。
とはいえ、あれだけの見事な大仏が三体もあるのだから、もっと全国的に知られてもいいのではないだろうか。
但馬大仏へ行く際に、事前にYouTubeやネットで色々と下調べをしておいた。やはり観光名所などに行く場合は、きちんと下調べをしてから行くべきだなと改めて感じる。その歴史や背景を知ることによって、実際に訪れた際に見る景色が違ってくるのだ。何も知らずに行っても、ある程度の感動はあるかもしれないが、歴史と背景を知っているとより一層奥深く感動できるし、そこに没入することができるのだ。
行き当たりばったりの旅も良いが、下調べありの計画的な旅はまた違う面白さを見せてくれる。
次もどこか良い景色、美味しいメシを求めて走りたいと思う。