2001年式のスズキのGSX1300R(以下、初代隼)を買ってから、2024年5月で1カ月が経過した。走行9,800kmで買ってすでに10,600kmになったので、800kmも走ったことになる。
そこで1カ月インプレッションをお届けしたい。
四半世紀前の大型バイクを買って大丈夫なのか。それとも安物買いの銭失いになったのか。
結論、良い
私の初代隼の代金は、車検2年つきの乗り出しで約65万円。たったこれっぽっちのカネで175馬力のメガスポーツが手に入る。
結論は、買って良かった。直近10年の買い物のなかでベスト5に入る。
何がどのように良いのかを説明する前に、23年前のバイクを買って後悔しないようにするコツがあるので、まずはこちらを紹介する。
ただし条件がある
私が買った個体がたまたま当たりだったのかもしれない。したがって23年前のバイクを買って楽しめるか後悔するかは運もある。しかし運だけではない。
私は買う条件を設定して準備をしてこの個体を買った。したがって失敗リスクは下がったはずだ。
この条件と準備は、古いバイクを安く買って楽しみたい人の参考になると思うので詳しく解説したい。
店を選ぶ
まずは店選びだ。
私はすべての買い物においてヤフオクとメルカリを使わないが、中古バイクの購入では特に使うつもりがない。ヤフオク・メルカリで大きなメリットを得ている人がいるので、その点において私は損しているが、その代わり個人売買のリスクを負わないで済んでいる。
中古バイクを買うのは今回で2度目だが、いずれもレッドバロンで買った。レッドバロンを選んだ理由は、品数の多さもあるが、それよりも私が重視するのは自店で修理をしていることだ。
中古バイクは原則、新車より早く壊れる。そしてバイクが故障すると、バイクに乗れないストレスと「やっぱり新車にしておけばよかったか」という後悔のストレスに悩まされることになる。しかし確実かつ素早く、さらに適正料金で修理してもらえるのであれば、ダブルのストレスはだいぶ減る。
快適な中古バイク・ライフを送るために店選びは最重要条件である。
店の人と信頼関係を築く
私は信頼できる店であっても、バイクの知識が豊富で人として信頼できる店員からしか買わない。初代隼はレッドバロンの店長から買った。
中古バイクには必ず欠点があるが、バイク屋の店員のなかにはそれを隠す人もいる。欠点をいえば売れなくなるので、隠したい気持ちはわかる。
しかし私は必ず店員に「良い点はわかりました。あえて欠点を挙げるとすればどこになりますか」と尋ねる。または、事前にインターネットで壊れやすい箇所を調べておいて、店員に「ネット情報で恐縮なのですが、ここが壊れやすいという情報がありますが、この個体についてはどうですか」と尋ねる。
店員が欠点を挙げ、その欠点をケアする方法を提案できたら買う。例えば「この車種はよく売れたので中古部品をいくらでも調達できます。あと10年は部品で困ることはありません」と言ってくれたら合格である。
お互いにネガティブな話をしても気まずくならないようにするには、店に何度か足を運んで店員を知り、店員に自分を知ってもらう必要がある。雑談が有効だ。
値切らないし、車検も頼むし保険にも入る
私はなんでも値切るが、中古バイクだけは「安くなりますか」と尋ねない。なぜなら「良い客だ」と思われたいからである。良い客はいわゆるカモになりやすいのだが、しかし単なる良いカモではなく最良のカモになれば大切にしてもらえる。良い店の良い店員は、最良のカモに悪い中古バイクをすすめない――というのが私の計算である。
だから私は、車検も買った店に頼むし、任意保険も店員がすすめるものに入る。
私は初代隼の前にヤマハSR400に乗っていた。新車で買ったので最初の車検は自分で通しても通ると思ったが、これを買ったレッドバロンに出した。自分で車検を通せば安く済むが、それではバイク屋が儲からないからだ。
これらの出費は、程度の良い中古バイクを手に入れるコストだと思っている。
「お前ごときが俺に乗るな」と言われているよう
それでは23年前の初代隼を2024年に走らせた感想を述べたい。
初代隼にはモード選択なんかない。もちろん6軸センサーもクイックシフターもなく、ABSすらない。ヒューエルインジェクションなのにチョークがついている。それなのに260kgもあって175馬力もある。
このエンジンは鬼だ。しかも放し飼いの鬼だ。
私程度のテクニックの者が初代隼で走ると、鬼から「お前ごときが俺に乗るな」と言われる。
せめて2代目にしろ、というアドバイスの恐ろしさ
私は、初代隼を、54歳で初めて大型バイクに乗る者が購入することについて5人にアドバイスを求めた。「750㏄くらいから始めたほうがよい」という者が2人で、3人は「どうしても隼が欲しいのならせめて2代目にすべきだ」と言った。
隼に詳しい人は、現行の3代目はモード選択ができて、マイルドに乗ることができるので、初大型バイクでも問題ないといっていた。ただ3代目は中古でも200万円近くするので、私の財力では買えない。それで、初代よりは調教が効いている2代目をすすめてくれたわけだ。
「せめて2代目にしろ」と聞いて、初代隼に対して相当ビビったが、レッドバロンの店長から「アクセルを開けなければいいだけです。バイクの問題ではなく、ライダーの自制問題です」と言われて、私はそちらにかけることにした。
この1カ月、全然楽しくない
そして実際に走ってみると、乗りづらいことこのうえない。初代隼はアクセルがとても軽いので、右手の力加減を少し間違えたり、手首の位置が少しズレたりするだけで、すぐにグオンッと吠える。
よく、2スト・クォーターはピーキーだ、などといわれるが、初代隼はそんなレベルではない。アクセルを開けようとすると、鬼から「殺すぞ」と言われているような気になる。
頼りになるのはクラッチだけだ。クラッチさえ握っていれば、あの世に行かなくて済む。
納車から約1カ月、一度も楽しいと思ったことはない。いや、ある。洗車のときだ。面積が広い初代隼のフルカウルは洗い甲斐がある。――冗談はさておき、初代隼をコントロールできる自信は、いまだに微塵も湧いてこない。
乗りこなせない部分こそ挑戦だ
では買って後悔しているかというと全然そんなことはなく、乗りこなせないと感じられることが、むしろ嬉しい。
SRに対しては、完全にコントロール下に置いた、と認識できた。もちろんこれは、私がSRを誰よりも上手に運転できるという意味ではない。SRからこれ以上教わることはない、というニュアンスだ。
だから初代隼に乗りこなせないことは、挑戦の余地があるということなのである。
どれくらい速いのか
初代隼のインプレッションにおいてスピードの話をしないわけにはいかないだろう。しかしこのご時世である、本当のことは書けない。
――というくらい速いバイクである。
初バイクにすべきでないくらい速い
ある日バイク屋の店内をウロウロしていたら、男性客と店員が初代隼の前で会話をしていたので盗み聞きすることにした。
男性客は、中型免許の教習で人生で初めてバイクに乗り、中免を取ったあと、バイクを買わずにすぐに大型免許も取ったという。それで人生初のバイクを探しに来て、初代隼が欲しいといった。店員は「人生で初めて所有するバイクを初代隼にするのは危険です」とは言わなかったら、その顔にはそう書いてあった。
私も、初代隼乗りとして、人生初バイクにこれを選ぶことをすすめない。
――というくらい速いバイクである。
260kgの取り回しをなんとかする方法
これは初代、2代目、3代目のすべての隼に対していわれることなのだが、走り出したら重量を感じない。そして私もこの感想に賛同する。道路上のマンホールをよけるのも、腰をクイッと少しひねるだけで済む。峠道のカーブも、きっかけを与えると自然に傾いてスーッと曲がっていく。
ただし「走り出したら重量を感じない」という感想は「止まっているときは地獄」という意味でもある。
華麗さを捨て、倒さないことを最優先にして無様に押す
初代隼の260kgという重量は、取り回しにおいて「なんとかなる」レベルではない。しかも初代隼はセパハンで、これはアップハンドルよりはるかに押し歩きしにくい構造である。
したがって歴代の隼乗りたちは立ちごけの山を築いてきた。私の初代隼のカウルにも、前オーナーがつけた数多くの傷が残っている。
(前オーナーがつけた、立ちごけでつくったと思われる傷。これもこの個体の安さの要因であろう。大きな穴は、私が白い針金で縫ってみた。ブラックジャックの顔の手術跡のようで格好良いと思っているのだが)
私は、大型バイクを華麗に取り回すことを捨てた。押し歩きするとき、バイクを左に(つまり自分のほうに)少し傾けて、腰にぴったりくっつける。バイクは斜めになると取り回しの苦労が増すのだが、しかし全体重でバイクを支えることができるので安定感が増す。
華麗な取り回しとは、例えば後進なら、バイクを垂直に立てて、左手をハンドルに、右手を後部座席に置き、右手を押し出すようにして動かす。
しかしこの姿勢でスイスイ動かしているうちに倒しているシーンを、私は何度もみている。
20歩を守り切れればよい
バイク屋の店員であれば、毎日何台ものバイクを動かすので、疲れないように軽く動かしたり、効率良く速く移動させたりする必要があるので、華麗なる取り回しが必要になる。
しかし私が初代隼を押し歩くのはせいぜい週数回で、1回20歩程度だ。20歩の間に倒さない方法が、私には最良の方法なのである。
まとめに代えて~あれは一筋の光なのか
つい3日前、私は、バイク仲間に「まったく乗りこなせる見通しが立たない」と弱音を吐いた。その人は長年大型バイクに乗っていて、「そのうち慣れますよ」と言ってくれた。優しい人なので、なぐさめてくれているのだと思っていたが、今日、一筋の光がみえた(ような気がした)。
とても良い天気だったが仕事があるのでバイクに乗れず、それでもあまりに良い天気だったので洗車することにした。
洗車が終わってバイクを乾かすために近所の本屋まで走らせることにした。このとき、手袋をせず、スニーカーで初代隼に乗った。危険なスタイルであるが「とても運転しやすい」と感じた。これは手足の指の動きの制限がなくなって、初代隼を微調整ができるようになったからではないか。
さすがに長距離ツーリングで軽装というわけにはいかないので、パッツンパッツンの革手袋と、ハイカットのバスケットボール・シューズを買おうと思っている。