他人のバイクを触っていいのか問題

私は他人のバイクが好きだ。道の駅の駐車場にバイクが停まっていると、まじまじとみてしまう。

だから、他人のバイクに関心を持つ心理はわかる。しかし、それでもなお、他人にバイクに触ることは理解しがたいのである。

無意識に他人のバイクに触ってしまう人に、触られて嫌な人がいることを知らせたくて、これを書いている。

目次

なぜ触るのか~オサワリゾンビの心理

まずは、他人のバイクに触ってしまう人の心理を考えてみたい。

オサワリ好きはいるものだ

私は個人所有のバイクはもちろんのこと、バイク店に並んでいるバイクにも触らないようにしている。

他人のバイクをまじまじと眺めていると、その所有者から「またがってみてください」と言ってもらえることがある。それでも私は、「ありがとうございます、でも大丈夫です」と1回は断る。それでも「遠慮せず、どうぞどうぞ、ぜひ」と言われたら、またがらせてもらうが。

私もバイクには触りたい。好きなものには触りたいものだ。腕時計にも触りたいし、犬の頭もなでたいし、鮮魚店に並ぶナマコもツンツンしてみたい。

だから他人のバイクに触ってしまう人も、その心理が働く根源は「好きだから」なのだろう。

ガサツ

他人のバイクに触る人は、性格にガサツなところがあると思う。「触って何がいけないのか」と思ったり、あるいは、触られて嫌がる人の気持ちを推測できなかったり。もしかしたら、世の中に、自分のバイクを触られることを苦手にする人間がいることを知らないのかもしれない。

自分のバイクを触られても平気

性格がガサツな人は案外いい人が多い。触りたがる人は恐らく、自分のバイクを触られても平気なのだろう。

「触ったって減るもんじゃないし、ガハハ」といった感じなのかもしれない。

マタガリストやアクセル回しもいる

なお他人のバイクを触りたがる人だけでなく、またがらせてもらいたい人もいる。さらに、エンジンがかかっている駐車中のバイクのアクセルを回したがる人もいる。

触られたくない人の言い分

では、自分のバイクを触られたくない人は、なぜそれを嫌がるのだろうか。

だってこれ宝物だぜ

私のバイクは、23年落ちの初代隼である。中古で60万円で買ったもので、古いからといってクラシック・バイクの価値があるわけではない。また、前のオーナーの立ちごけ跡と思われるが、カウルには大きな穴が空き、細かい傷は無数にある。

私のバイクをみたら誰でも「こんなボロバイク、触られてもいいじゃないか」と思うかもしれない。

しかし、それでもなお、このバイクは私の宝物である。私はこれを、走る前に洗車して、走り終わってからも洗車するほど大切に扱っている。

自分でボロバイクというのは平気だが、他人からボロいといわれたらカチンとくるかもしれない。その逆に「大切に乗られていますね」なんて言われたら相当嬉しい。

常識的に触らないでしょ

これは私だけではないと思うのだが、自分のバイクを触ってもらいたくない人はきっと「常識的に他人のものは触らないでしょ」と思っている。

つまり、触りたがりの人が「触ったっていいじゃないか」と思っているとき、触られたくない人は「触る必要がないでしょ」と思っているのである。

友人による意味のある触りは気にならない

私の心理をもう少し正確に説明したい。

私は潔癖症ではない。だから「絶対に触られたくない」と思っているわけではない。例えば、すでに何回もツーリングを共にしたバイク仲間が「アサオカさんの隼についているヨシムラのサイレンサー、やっぱり格好良いね」と言いながら、それに触ったとしても全然気にならない。

私が気にならない触られ方は以下のとおり。

気にならないオサワリ
●友人に触られるとき
●意味のある触りのとき

意味のある触りとは、例えば、ヨシムラのサイレンサーについて語りたいときだ。

もし誰かが「ヨシムラのサイレンサーってここが格好良んだよね」と語りたいときは、私の隼のヨシムラのサイレンサーに触れながら説明する必要があるので、この触りは意味があるといえ気にならない。

(私の隼についているヨシムラのサイレンサー)

私の具体的なサワラレ経験

したがって私が気になる触られ方は、友人ではない人からの意味のない触りである。これには具体的な経験があるので紹介したい。

友人の佐藤さん(仮名)はバイク仲間が多く、清水さん(仮名)もその一人だ。そしてその日、私は初めて清水さんと会った。

隼に乗って待ち合わせ場所の道の駅の駐車場に行くと、すでに佐藤さんと、もう一人男性がいた。佐藤さんは大型バイクで、男性はスクーターで来ていた。

この男性が清水さんである。

私がヘルメットを脱ぐと佐藤さんは、私に清水さんを紹介して、清水さんに私を紹介した。清水さんはあまりしゃべらない人らしく、私がよろしくお願いしますといっても、黙って会釈するぐらいだった。

初めて会って5分で触られて

私と佐藤さんはいつも、集合場所に集まってもすぐには走り出さずに、まずバイクの話を始める。このときも同じように私と佐藤さんで話始めた。話す内容は大したことなくて、あのメーカーから出た新型バイクがどうのこうのといったところ。

清水さんはその会話に加わらなかったが、初対面の私が話を振るのも違うような気がした。佐藤さんはそんなことに頓着なく、清水さんが黙っているのを気にせず私と会話している。

すると清水さんがフラ~っと動き出して、私の隼に近づいて、カウルをなでた。「えっ、おいおいマジかよ」と思ったが、私は「ちょっと何しているんですか」と怒るような性質ではない。それで私は、気にしないふりをして佐藤さんと会話をしていたのだが、清水さんは続けて、隼のアクセルを回し始めた。エンジンは切っていたが、清水さんはアクセルをひねっては戻し、ひねっては戻しを繰り返している。

私は佐藤さんと話しながらも、「またがったらさすがに注意しよう」と思ったが、清水さんはそこまではしなかった。

その後、3人で走り出して3時間程度のツーリングを終えたのであるが、その途中で休憩した場所でも清水さんは隼を触ってきた。なんなら佐藤さんのバイクも触っていた。佐藤さんはまったく気にならないらしく、なおさら私は清水さんを注意しにくかった。

「オサワリゾンビは無理」と伝えた

ツーリングを終えて帰宅。悩んだが、佐藤さんに、清水さんの触り方が気になることを伝えることにした。以下は、私が佐藤さんに送ったメール。

■私→佐藤さん

すみません。私、清水さん、ちょっと苦手かもしれません。 私ごときが人のマナーについてどうこういえるわけではないのですが、人のバイクの触り方がどうも。 最後は指輪がタンクに当たっていて。 すみません、友人のことを悪くいってしまって。

すると佐藤さんからすぐに返信が来た。

■佐藤さん→私

いえいえ、不快な思いをさせてしまい、かえってすみませんでした。 清水さんとは何度かツーリングに行ったことがありますが、確かに他人のバイクに触れる方ですね。 あまり気にしたことはありませんでしたが。

佐藤さんに恐縮されると私のほうが恐縮してしまうので、私はさらにメールを送った。

■私→佐藤さん

まったく佐藤さんは関係ないんです。 それと、私も「俺のバイクに全体に触れるな」でもないんです。「触っていいですか」と言ってもらえれば、全然気にしないんです。 「またがらせて」も、初対面でこられるとちょっと引きますが、でも2、3度会っていたり、「メガスポの感覚をつかみたいのでまたがっていいですか」と言われたりしたら、どうぞどうぞといえるんです。 私の隼は新車でもないですしね。
もしくは、意味のある触り方ってあるじゃないですか。 例えば、「俺のバイクのシートは硬いのかな。アサオカさん、隼のシートを触らせてください」っていうのはありだと思うんです。
清水さんが20代くらいの人なら、嫌われる覚悟で「人のバイクは無闇に触らないほうがいいよ」と説教してあげるんです。 そのほうがその後のバイク人生にいいと思うので。 でも清水さんは年上であり、しかも還暦を迎えられているので、さすがに私程度が注意するのも失礼かなと思い、何もいいませんでした。
でも多分清水さんって、そういうのを気にしない人なんでしょうね。 来週、新車が納車されるっていっていたじゃないですか。その新車を私がべたべた触っても、多分全然気にしないんでしょう。 なので私は「俺ってちっちぇえな」とも反省するんです。
ただ、私が不快に感じたことは大きな問題ではないんです。不快だけなら、わざわざ佐藤さんにこんなことはいいませんでした。 ですが、もし次に佐藤さんが、清水さんが参加するツーリングに私を誘ってくれたときに、理由もいわずに断ることはできないと思ったので、それで「清水さんは苦手です」と伝えた次第です。 そして、佐藤さんの友達に対して「苦手です」と言う以上、私の考えを説明したほうがよいと思い、こんなに長い文章となりました。

賢い佐藤さんは、これには返信してこなかった。

まとめに代えて~「触らないでもらっていいですか」すら言いたくない

私は気が小さいので、バイクをベタベタ触られても「触るな」とは言えない。それどころか「触らないでもらってもいいですか」とすら言えない。

私は気にしいなので、バイクをベタベタ触られると気になって仕方がない。触ること以外はいい人であっても、友人でもない人のバイクを意味もなく触ったことだけで、なんかこう、うまく話せなくなる。いい人だけど、食べ方が汚い人とは一緒に食事したくない、みたいな。

「触ったって減るもんじゃなし」派の人たちからすると、バイクに触られることを嫌がることを滑稽に感じるかもしれない。バイクがひとたび走り出せば、紫外線、排気ガス、虫、泥水、雨、砂、小石にさらされる。それらがバイクに与える被害は、人の手による触りよりはるかに大きい。

だから「触ったって減るもんじゃなし」派の人たちから、「バイクに触られたくないなら、家のなかにしまっておけ」と言われるかもしれない。

しかし私はこういいたい。オサワリゾンビの人たちも、コワモテの人が乗っているフェラーリには簡単には触らないでしょ、と。

「触らないでもらっていいですかっていわせないでもらっていいですか」なのである。

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この記事を書いた人

●著者紹介:アサオカミツヒサ。バイクを駆って取材をするフリーライター、つまりライダーライター。office Howardsend代表。1970年、神奈川で生まれて今はツーリング天国の北海道にいる。
●イラストレーター紹介:POROporoporoさん。アサオカの親友。

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