2025年Moto GP第2戦はアルゼンチンでの開催だ。アウトドローモ・テルマス・デ・リオ・オンド、というなんとも覚えにくくて言いにくいサーキットで実況の人も噛まないように慎重に喋っていた。
アルゼンチンといえば、そう、日本の裏側に位置するのでレースの時間は日本だと深夜になり、寝不足必至の観戦になってしまう。かくいう僕もスプリント当日には飲みすぎて3時からのレースを見逃してしまった。
さて、今回はどのような結果になるのだろうか。前回のタイGPで活躍した小椋選手にも期待したいし、マルケス兄弟はこのまま突っ走るのかどうなのか、YAMAHAやHONDAの日本勢は?色々と注目したいポイントがあるアルゼンチンGPの結果と超個人的な感想をダラダラと書いていきたい。
ついにきたか、我らのザルコ

上の画像はMoto GPアルゼンチンGPのスターティンググリッド。最前列の右端、3番目に注目してほしい。ザルコだ。ついにきたのだ、我らが日本のLCR HONDAのヨハン・ザルコが。2024年には初の鈴鹿8耐で、ファクトリーHONDAをあっさりと優勝に導いた英雄ザルコである。
2024年シーズン終盤ぐらいからここ最近、HONDAの中で唯一輝きを見せていたザルコだけに、いつかは来てくれるんじゃないかと期待をしていたのが、こんなにも早く、アルゼンチンGPでフロントローを獲得するなんてビックリだし嬉しすぎる。

ただ、今季のHONDAはザルコだけではない。なんと10番グリッドをミルが獲得している。昨年までだと最下位争いをしていたHONDAが、10位以内に2台もいるなんて信じがたいではないか。そしてミルの前、7番手にはYAMAHAのクアルタラロもいる。どうした日本勢?10番以内に3台もいるなんて、昨年では考えられないことだ。
そしてタイGPでは、5番グリッドを獲得し、スプリント4位、決勝5位で見事な走りを見せた小椋選手は、今回のアルゼンチンGPでは15番グリッドだ。どうしたんだろうか?と一瞬思ったが、いやいや彼はまだルーキーなんだぞと我にかえる。いつの間にか小椋選手をベテラン選手と同じように考えてしまっていた。
そしてマルク・マルケス(以下マルケス兄)が、もう当たり前じゃん、とでもいうかのようにポールポジションを獲得していて、2番手も前回同様にアレックス・マルケス(マルケス弟)が。3番手は前回、フランチェスコ・バニャイア(以下ペッコ)だったが今回はザルコが獲得して、ペッコが4番手からのスタートとなった。
GP24とGP25
スターティンググリッドの話から逸れてしまうが、ペッコがザルコに3番手を奪われてしまったので、この話を少し挟んでおきたい。
ドカティでは、2024年シーズン、ファクトリーチームの2台と、プラマックドカティのマルティンを含めた合計3台が最新型のマシンであるGP24に乗っていて、ペッコもマルティンも驚異的な速さで走り他を圧倒していた。(僕の記憶が正しければ3台だけだったと思うが違っていたらすみません)
そして2025年シーズンは最新型のマシンであるGP25がファクトリーチームのマルケス兄とペッコには用意されていたのだが、開幕前のテストでは調子があまり良くないらしく、今季は最新型GP25でいくのか、それとも昨シーズンに安定した走りを見せていたGP24でいくのか決断が迫られていた。

というのも、ドカティとKTM、アプリリアは今後2年間(2027年が終わるまで)、新型マシンの開発は凍結されるのだ。最下位争いをしていたHONDAとYAMAHAは制限がなく、あまりにも不甲斐ない結果を挽回するチャンスが与えられている。
なのでドカティは今季、このマシンでいく!と決めてしまえば今後2年間は同じマシンを使わないといけない縛りが出てくるので慎重に決断せざるを得ないのだ。
そんな中、最終的にペッコとマルケス兄がテストで走らせ、ファクトリードカティとして判断したのが、安定した強さを見せていた旧型のGP24でいく、ということに決めたのだ。エンジンそのものは最新型のGP 25の方が速かったらしいのだが、ブレーキング時の制動距離やタイヤのグリップなどが追いつかず、結果としてGP24の方が速く走らせれる、ということらしい。
ただ、じゃあ、まるっきり旧型のGP24を使うのか?というわけではなく、エンジン自体はGP24を使うが、フレームとか他のパーツは最新型を導入するとのことで、これはファクトリーのマルケス、ペッコはもちろんだが、グレシーニやVR46にも同じように供給されているのかは、僕は知らない。
で、そんな中行われたタイでの開幕戦でペッコはスプリント決勝ともに3番グリッドからの3位、アルゼンチンGPでは4番グリッドからのスプリント3位、決勝4位という結果。これにはペッコも納得いかないようで、最新型にしたGP24.7ぐらいのマシンを完全にGP24に戻す!と言っているらしい。
おそらくマルケスがファクトリーに入ったことによって、開発の方向がマルケスっぽくなっていることが原因ではないだろうか。ペッコとマルケス兄のライディングスタイルは真逆のような感じなので、ペッコからしたら乗り慣れたGP24の方が安心して走れるのではないだろうか。

まあ、そんなこんなで次のアメリカズGPではペッコのマシンに注目したい。もしかしたら昨シーズンのような速さを見せつけるかもしれないが、マルケス兄にとってもアメリカズGPは得意コースのようなので、またマル兄さんですか・・・ということになるような気もしているが。。。
もはや王者の風格

さてさて、開幕から2戦目にして、すでに今年のMotoGPはなんとなく予想がつくな、と思わせられるのがマルケス兄弟の強さだ。スプリントレースを合わせると開幕から4戦、すべてポールポジションで優勝のマルケス兄、すべて2番グリッドから2位のマルケス弟。もう、この二人でレースしてるんじゃね?というぐらい安定してトップを2台で走り、3位を寄せ付けないスピードでフィニッシュしている。
圧倒的な強さを見せつける二人だが、特に目を引くのはやはりマルケス兄だろう。第1戦のタイGPではタイヤの内圧が規定に引っかかることを懸念して、わざと弟の後ろに後退して残り数周のところであっさりと抜き返し、弟を突き放して優勝する離れ業を見せた。他を寄せ付けない鬼のようなハイペースで走っているにも関わらず、タイヤの内圧のことまで考えれる冷静さと、タイミングをみてあっさり抜きかえせる技術、そしてまた突き放す速さを持っているマルケス兄に、太刀打ちできるライダーはいるのだろうか?と思わせられる。

今回のアルゼンチンGP決勝でも、一時は弟に先行を許したがやはり残りラップが少なくなってきたところで、簡単に抜き返し(簡単に見えるだけかもしれないが)そのままチェッカーを受けて優勝してしまうんだから、もはや誰も敵わない王者の風格さえある。
何か特別なことが起きない限り、このままマルケスが2025年のチャンピオンになるのは濃厚な気がしてきた。
ちなみにマルケス兄は今回、過去に自分が出した同コースでのオールタイムラップレコードを更新している。
この現状を変えれるのは、マシンを旧型に戻したペッコなのか、完全復活してからのマルティンか、それとも復調の兆しが見え見えのHONDAなのか。このままマルケス兄が圧倒的な強さを見せるのもいいが、やはりMotoGPファンとしては熾烈な優勝争いを見てみたいものだ。
HONDAの逆襲がはじまる?

予選で快調な走りを見せたHONDA勢はスターティングリッドの上位を獲得できるまでになった。
3番手に、今や実質HONDAのエースであるザルコ、10番をミルが獲得したのだ。マリーニは16番、チャントラは18番という結果だが、それでも4台中2台が10番以内に入るということが、ここ最近のHONDAでは考えられないことだ。
RC213Vのどこがどう変わったのかは分からない。エンジン自体はまだ遅いというのがライダーたちの感想らしいが、空力デバイスやその他の箇所で細かいアップデートが色々と行われているのは間違いないだろう。これでエンジンがせめてドカティを肩を並べるくらいにまでなれば表彰台や優勝も見えてくるのではないだろうか。
結果的に、スプリントレースではザルコが4位だったが、もうHONDAからしたら素晴らしい結果だと思う。シーズン第2戦にして表彰台まであと一歩という位置にこれたのは、今シーズンのこれからに大いに期待ができるし、開発の方向が間違ってなかったという証明にもなるから、このままの方向性で自信を持って開発を進ることができる。
これには今シーズンからテストライダーになった、アレイシ・エスパルガルロや昨年で現役を引退した中上選手の2人の功績も大きいのかもしれない。
そしてミルが8位、マリーニは13位、チャントラが17位という結果に。

決勝レースのリザルトは、ザルコも頑張っていはいたが、最終ラップでディジャアントニオに抜かれて6位に。
ただ、今年のHONDAは違う。なんとミルが9位で、マリーニが10位でゴールしたのだ。トップ10以内にHONDAが3台も入るなんてもう夢のような話ではないか。
昨シーズンでは、中継映像でHONDAのマシンを見ることはほとんどなかったが、今年は違う。HONDAのマシンが走っているところをどんどん映してくれる。
チャントラはまだまだ新人なので期待はできないが、今年はじっくり経験を重ねて来シーズンあたりから活躍してもらいたい。それにしてもHONDAの復調は、今後のレースをより楽しみにしてくれる。次のアメリカズGPも眠い目をこすりながらモニターにかじり付く覚悟だ。
トラックハウスが痛恨のミス

今回も注目株の小椋藍選手だが、予選では速さを発揮できずに15番グリッドからのスタートとなった。前回は鮮烈なデビューを飾っただけに、世界中のMotoGPファンが注目していたのではないだろうか。
今シーズンからMoto GPに参戦したのは、小椋選手と、LCR HONDAのチャントラ、そしてグレシーニドカティのフェルミン・アルデゲルの3人だ。その中でも小椋選手は群を抜いていて、やはりMoto2チャンプの実力は伊達ではないということを結果を出して証明している。
そんな小椋選手だが、スプリントレースではグリッド順そのままの15位でゴール。このままでは終われないと奮起したのか、決勝レースではポジションを大きく上げて8位でチェッカーを受けることになった。
8位という着順だけ聞くと、さほど驚くような結果ではないが、よくよく考えてみてほしい。今シーズンからMoto GPクラスに参戦したルーキーで、スプリントを合わせても本番で走るのはこれで4回目という、超絶初心者なのだ。そのルーキーがベテラン選手を押し退けて8位でゴールするなんて、やはりとんでもないことだ。
ただ、この8位に喜んでいるのも束の間、事態は急転することになる。
小椋選手のマシンに取り付けられていた、ECUのソフトウェアが古いバージョン?か何かで規定に認められていないものらしく、なんと不運なことに失格となり8位の着順は無くなり、せっかくゲットしたポイントも失ってしまったのだ。
これにはあの冷静な小椋選手も憤りを隠せなかったのではないかと僕は思っている。命懸けでマシンを走らせ手繰り寄せた8位という結果を、どう考えてもメカニックスタッフのミスで失格となってしまうのだから、次から気をつけてね、だけでは済まされないだろう。実際のところは分からないが、もうスタッフは平謝りするしかないだろう。
トラックハウスの公式からは、「不正なファームウェアが入っていたが、それによって小椋選手が受けた恩恵はない」としていて、どっちかというとむしろ不利な状況でマシンを走らせていたとのことらしい。だから許してね、みたいな言い訳をしているが、まあそんな言い訳が通用するはずもなく失格になってしまった。
実に残念であるが、ルールはルールだから今更どうこう言っても仕方ないし結果は変わらない。小椋選手には気持ちを切り替えて次のレースに臨んでほしいところだ。トラックハウスのスタッフは今後細心の注意持ってマシンを扱って欲しいと思う。
次回はアメリカズGP

上の表はコンストラクターズランキングで、メーカーの順位もポイント形式で競っている。ここで注目したいのは、我らが日本のHONDAが2位にいることだ。昨シーズンではYAMAHAと4位5位争いをしていたのが嘘のように堂々と2位というポジションを陣取っている。
ただまあこれ、どのようにしてポイントが入るのかというと、各メーカーの一番速かったライダーの着順でポイントが加算されるらしい。要するにドカティのポイントは全てマルケス兄が、HONDAのポイントは全てザルコが獲得していることになる。
でも実はHONDAの2位は、小椋選手が8位から失格になったことで得たもので、失格が決まるまではアプリリアが2位だったのだ。これにはトラックハウスのスタッフも意気消沈しているだろう、というかしっかり反省してほしい。
そうそう、注目する選手をひとり忘れていたが、今回のアルゼンチンGP決勝で3位に入った、VR46のフランコ・モルビデリが。実に4年ぶりの表彰台になるらしいが、今期のVR46は強い。まだまだ今シーズンも期待が出来そうだ。

なんとなくアルゼンチンGPについてダラダラと書いてみたが、こんなにも書くことがあるなんて思わなかったからMoto GPは楽しいし、レースごとにドラマがある。次はトラックハウスアプリリアの本拠地であるアメリカでの開催だ。またまた日本では深夜での視聴となるが、レッドブルとモンスターを大量買いして備えたいと思う。