COTAでのレースが終わり、MotoGPもいよいよヨーロッパラウンドへ移行した。カタールを皮切りにヨーロッパでの連戦がスタートする。
MotoGP第4戦カタールGPは、砂漠のど真ん中にある、ルサイル・インターナショナル・サーキットでの開催となる。カタールといえば、ナイトレースだ。過去には開幕戦も行われているコースで、砂漠の細かい砂が路面を滑りやすくするので得意とするライダーは少ないのではないだろうか。
カタールといっても多くの日本人には馴染みのない国で首都はドーハ、人口も256万人の小さな国だ。だが侮るなかれ、石油の恩恵を受けてか超近代的な建築物がそびえ立つ金持ち国なのだ。なるほど、だから膨大な資金が必要になるMotoGPも開催できるというものだ。
今回はそんな金持ち国、カタールでのレースを追っていきたい。


一回ぐらいは行ってみたいな。。。
いつも通りのスターティンググリッドだが・・・?


まずはスターティンググリッドを見てほしい。ポールには4戦連続となる絶好調のマルケス兄、2番手もお馴染みマルケス弟だが、3番手を獲得したのはなんと、YAMAHAのクアルタラロだ。そして9番にもYMAHAのリンスが来ているとことから、いよいよYAMAHAの復活か?と期待を持たせてくれる。
2列目にはVR46の、モルビデリと、ディジャアントニオ。ここ最近調子が上向きで上位にいることが多い。特に今回のカタールGP予選では、VR46のオーナーであるロッシが現地に駆けつけてパドックであれやこれやアドバイスを送っていたらしく、予選のFP1でモルビデリがマルケス兄を抑えてトップタイムを叩き出す走りを見せている。これはロッシ効果なのかどうなのかはわかならいが、少なくとも影響はあっただろう。
HONDA勢では、今やファクトリーの二人を抑えてエース格となったザルコが7番グリッドを獲得しており、表彰台を狙える位置につけている。
そしてルーキーのアルでゲルがなんと8番グリッドを獲得。COTAでも速かったが、今回も絶好調のようだ。
我らが日本の星、小椋藍は10番グリッド。まずまずのところだろう。
ところがどうした、ペッコに至っては小椋藍のひとつ後ろ11番グリッドに収まっている。前回のCOTAで優勝し、調子を取り戻したかと思ったが、ここカタールでは苦戦しているようだ。
そしてようやく4戦目にしてレース復帰となった、前年チャンピオンのマルティンは14番グリッドという結果に。まあ、2回も骨折してまだ完治もしておらず体調が万全で無い中での久しぶりのレースなので、充分ではないだろうか。恐らく今回のレースでは上位を狙わず、体調と相談しながらデータを取るという目的も果たすべく完走できれば御の字だと思う。
マルケス兄はまた強さを見せつけて、4戦連続のスプリント優勝となるのか。それともアレックスが初優勝を取りに来るのか、いやいやクアルタラロにも表彰台には上がって欲しいし、小椋藍も頑張って欲しい。色んな思惑と期待が僕の中で渦巻く中、スプリントレースが始まった。(また夜中の2時スタートなので、めちゃくちゃ眠い。。。)
安定しすぎて中継にも映らないマルケス兄弟のスプリントレース
スタートから爆速の速さを見せつけたマルケス兄、2番手にマルケス弟、3番手にクアルタラロとスターティンググリッドそのままで第1コーナーを曲がって行く。一時は弟に抜かれたマルケス兄だったが、すぐさま先頭を奪い返したと思ったら、弟をそのまま引き離して先頭のまま余裕でゴール。ラストラップなんかは少し手を抜いていたんではないだろうか。
あまりにも先頭の2台が安定しすぎていて、中継映像はその後の3番手争いや、小椋藍やペッコ、マルティン、アコスタの方に集中していて、良いのか悪いのかマルケス兄弟の走りは映像ではあまり映っていなかった。
これでマルケス兄は開幕4連続スプリントレースのポールトゥーウィンを飾った。ちなみにだが、マルケス弟は開幕4連戦スプリントレースが2位なので、開幕から4連続スプリント兄弟ワンツーフィニッシュを成し遂げている。
また、マルケス弟にいたっては開幕から3連続決勝レースも2位という絶好調の結果だが、いつも兄の後ろなのでそろそろ優勝を手にしたいところだろう。
ペッコはといえば、11番グリッドからのスタートでポジションを3つ上げたものの、なんとなくパッとしない走りでスピードが上がらずに8位でフィニッシュ。なんとも悔しそうな顔をしていた。タイヤのせいなのか、それとも他の要因なのか。噂ではスプリント用の燃料タンクが合わないとかなんとか言っているらしい。そろそろファクトリーの維持を見せて欲しいところでもある。
クアルタラロを筆頭に日本勢も頑張っている


途中までドカティ勢に挟まれながらも、性能的に不利だと思われるYAMAHAのマシンで限界走行をきめていたクアルタラロだったが、モルビデリに抜かれ、それでも最後まで喰らい付き表彰台を狙う姿には感動した。ラストラップの最終コーナーでは、3番手のモルビデリを捉えようと限界ブレーキングで挑んだところ、ラインを少しオーバーしたのか、その隙に後ろからルーキーのアルデゲルに抜かれ、結果として5位でチェッカーを受けることになった。
今のYAMAHAでは上々の結果ではないだろうか。現在のマシンは直4だが、実は裏ではV4の開発を進めているらしく、もしかしたら今シーズンの途中からV4に乗り換える可能性もある。そうなった時に、いや、そうならなくてもマシンの開発は進んでいるのだから、なんとかドカティと正面から戦えるだけのマシンには仕上げて欲しいと思う。(HONDAもね。)
HONDA勢ではザルコが7番グリッドから健闘していたが、途中からどんどん順位が下がっていき、マシントラブルでもあったのかピットに戻ってリタイヤしてしまった。うーん、残念だ。ちなみにミルは病気のため今回のスプリントは欠場とのことだった。
我らが小椋藍はというと、10番グリッドからまたもやしれーっと7番でチェッカーを受けている。いや、しれーっとと表現してしまったが、ペッコを後ろに従えての7番フィニッシュだ。途中ではペッコ、マルティン、アコスタ、ビニャーレスなどベテラン選手に揉まれながらも終始堂々とした走りで、ほんと毎回この人はルーキーなのか?と思わせてくれる。世界的にも小椋藍は注目されているのだろう、中継映像でも抜かれることが多くなった。同じ日本人として、喜ばしい限りだ。






よく頑張ったよマルティン
さて、怪我が完治していない状態での復帰戦となったマルティンだが、序盤ではチャンピオンの維持を見せた走りをしていて前を行くライダーとのバトルも繰り返していたが、やはり体力的にきつかったのか16位でチェッカーを受けた。これはもう仕方ないし、完走しただけでも充分の成果だと言えるだろう。ピットに戻ったあとは直ぐに左手をアイシングしていたから、よほど痛みに耐えながら走っていたのだろう。
それもそのはず、MotoGPのモンスターマシンを走らせて、300km/hオーバーから100km/h以下への目ん玉が飛び出るぐらいのフルブレーキングと立ち上がりの急加速によるライダーへの荷重はとてつもなく、我々素人では耐えられないほどだろう。そんな厳しい環境に体力も万全でない状態で挑んだのだからマルティンはすごい、としか言いようがない。
パッと見ヒョロヒョロに見えるライダーがほとんどだが、実はみんな化け物並みのフィジカルを持っている。いや、ほんとすごいわMoto GPライダー。過去にマルティンが雑誌のモデルかなんかで上半身裸の写真を見たことがあるが、もうプロボクサーですか?って感じの絞り方と筋肉のつき方をしていたのを思い出した。


もし、仮にマルティンが開幕前に怪我をしていなく、万全の状態で今シーズンを迎えていたらどうなっていただろうか。たらればの話をしても仕方がないが、MotoGPファンとしてはそれを想像するだけで一晩中酒が飲める。
圧倒的な強さを見せるマルケスと激しいバトルを繰り広げていたのだろうか、それともマルティンが圧倒的な速さを見せていたのだろうか。はたまた、アプリリアに乗り換えたことで苦戦していたのだろうか。
個人的には、 マルケス兄弟やペッコとバチバチのバトルを繰り広げていると思っている。というのも、もちろん前年のチャンピオンで実力は言うまでもないことに加えて、開幕からシングルフィニッシュを連発している小椋藍が「アプリリアのマシンは戦える」、と証明しているからだ。ルーキーでさえ、といってしまうと小椋藍に失礼だが、チャンピオンであるマルティンが乗ったらもっと速く走らせれるのではないかと思う。昨シーズン見せた、あのマルティンの攻撃的な走りはきっと今シーズンでも見れていただろう。
残念で仕方ないが、1日でも早い怪我の回復と中盤戦から後半戦のレースに期待したいところだ。
余談:カタールで活躍しまくりの日本人選手
さて、ロードトゥMotoGPのひとつとして、MotoGPを仕切っているドルナがHONDAと出光の協力を得て開催している「アジア・タレント・カップ」というものがあって、今回のカタールでも行われた。
そこで表彰台を飾ったのが、荻原、池上、飯高の日本人3人だ。アジアと名のつくだけあって、出場選手はアジアの選手に限られるのだが、日本人出場4人中3人が表彰台を飾ったというのは喜ばしいことだ。


また、Moto3では、山中琉聖が初ポールポジションを獲得。そして表彰台の2位に古里太陽、3位が山中琉聖と日本人2人が立っている。古里太陽にいたっては最終コーナーを先頭で曲がったものの、最後のストレートでピケラスにほんのわずかの差で抜かれての2位だから非常に惜しかったし、本人も映像を見る限りでは相当悔しそうにしていた。
モータースポーツが国内ではあまり人気ではないが、こうやって日本人選手が活躍してくれるのは嬉しいし、もっともっとメディアも取り上げて欲しいなと思う。
ドラマがありすぎた決勝レース
そんなこんなで始まった決勝レース。ナイトレースなので快晴とは言えないが、独特の華やかさがある。寒暖差が激しいのか、レース時には路面温度も下がっていたらしくタイヤのグリップが心配だ。今回のナイトレースも色んなドラマが生まれすぎて、何から書けばいいのか、何を取り上げるべきなのか頭の中がパニックになってしまう。
各車一斉にスタートし第1コーナを曲がっていく、先頭はもちろんマルケス兄でそれに続くのがマルケス弟。と思ったらマルケス兄のリアタイヤが滑ったのか、その瞬間にマルケス弟のフロントと接触。兄の方はリアウイングの一部が破損し、弟はフロントの左エアロパーツが破損してしまった。その瞬間を見逃さずに先頭に躍り出たのが、VR46のモルビデリだ。スーパーレジェンドのロッシも大喜びだっただろう。
マルケス弟はその後、VR46のディジャと接触しあわや転倒というところでなんとか双方耐えたが、マルケス弟はロングラップペナルティーをくらってしまいトップ争いが難しい状況となってしまった。
そんなこんなでレースが続く中、11番グリッドからスタートしたペッコがどんどん順位を上げていく。レース前には「1周目で10人をごぼう抜きにする!」と宣言していて、有言実行を果たそうとしている。スプリントでは不甲斐ない結果に終わってしまったので、ここらでファクトリーの意地を見せておかないと、という感じだろうか。
大金星のトップガン「ビニャーレス」
そしてなんと言っても、今回の大目玉はサテライトKTMのマーベリック・ビニャーレスだろう。ビニャといえば、昨シーズンのCOTA(アメリカズGP)で優勝し、ここルサイルでも過去に2度優勝経験を持つベテランライダーだ。今回優勝すれば史上初4メーカーでの優勝となる。(過去にSUZUKI、YAMAHA、アプリリアで優勝している)
そんなビニャは10番グリッドからスタートしたものの、スタートから順位を伸ばし、レース中盤にはペッコを抜いて3番手に。そして今度は前を行くマルケス兄まで抜いて2番手に浮上。めちゃくちゃ速いやん!と思っていたら、先頭のモルビデリが一瞬膨らんだ隙にすかさずトップに躍り出たのだ。このときモルビデリのスリップを使って先頭に出たビニャと同時に、そのビニャのスリップをさらに使いマルケス兄が2番手に浮上した。(上手すぎるだろマルケス兄・・・)
モルビデリはその後ペッコと壮絶バトルを何度も繰り返したけど抜かれ、ビニャ→マルケス兄→ペッコの順でレースが進んでいく。


その後もビニャはマルケス兄の後ろを追いかけるが、タイヤの消耗が激しくなってきたのか、KTMのマシンでは不利なのか、それともマルケス兄×ドカティのコンビが最強すぎたのか、マルケス兄に引き離されたものの2位でチェッカーを受けた。今シーズンから乗り換えたKTMのマシンを第4戦目で乗りこなして、ファクトリードカティと見事に渡り合っての2位なんだから、もうそれは素晴らしいことだ。
ところがだ、タイヤの内圧が規定以下だったことで16秒のペナルティを受けて、表彰台で喜びをチームと分かち合ったのに、最終的には14位となってしまった。それでも本人は「タイヤのことは僕の仕事じゃない。そんなことより2位で表彰台に立ったのが全てだ。めちゃくちゃ嬉しいぜ!」的なコメントを残していて、本人的には大満足のようだ。
以前、アルゼンチンGPだったと思うが、マルケス兄がタイヤの内圧調整のために弟の後ろにわざと順位を落とし、調整が終わるとまた抜き返して優勝するという技を使ったことがあるが、ドカティのマシンではタイヤの内圧が下がりすぎるとマシンのモニターに警告が出る仕組みになっているらしい。それがKTMのマシンには付いていないようだ。まあ、そんな警告が出たところでマルケス兄のようにわざと順位を落として、前を行くマシンの後ろにピッタリ付いて風を遮り、排熱を浴びて内圧を上げるなんて離れ業が他のライダーにできるか?と言われればそれは疑問が残るが、今後はKTMもそのあたりを考えないといけないのではないだろうか。
まあ、とにかくそんなKTMスタッフ側のミスがあったとはいえ、ビニャーレスは速かった。今後も先頭集団に入ってくるだろうから要チェックの選手だ。
誰がマルケス兄を止めれるのか?
またマルケス兄が勝ち、今シーズンはもう見慣れた光景となってしまった。これで開幕からスプリントを合わせて8レース中、7勝している。もう、勝って当たり前の状況まで来てしまっているのではないだろうか。
今回のカタールGP決勝では、全ライダーがフロントもリヤもタイヤはミディアムをチョイス。タイヤに関しては全員が同じ条件のもと、中盤までは2番手、3番手を走りながらもトップからさほど話されることなく距離を保ち、終盤にはあっさりと先頭を奪い返してそのまま危なげなくゴールするのだ。
砂のせいで滑りやすくなったルサイルで見事にタイヤマネジメントをして戦略的に勝ったようにも見受けられる。


マルケス兄といえば、右曲がりが苦手ということで有名で、本人も左に比べて右は苦手と言っているらしい。逆にペッコは昨シーズン、このカタールで勝っているし、ビニャーレスもカタールで2度の優勝経験があり、右曲がりの多いルサイルが得意コースなのであろう。そんな右曲がりの多いルサイルでもマルケス兄が勝てたのは、右曲がりの苦手を補って余りあるほど左曲がりで驚異的な速さがあるのではないだろうか。苦手と言ってもマルケス兄レベルの苦手は、他のライダーからしたら苦手に入らないのかもしれないが・・・
とにかくまあ、一体この最強のマルケス兄を誰が止めれるのだろうか。このまま強さを見せつけて圧倒的な速さでチャンピオンになって欲しい気持ちもあるが、やはり激しいチャンピオン争いのバトルが見たい気持ちもある。
それが誰になるのかわからないが、他のライダーも頑張って欲しいと思う。


厄年なんじゃね?マルティン
さて、復帰戦のスプリントレースではなんとか完走したマルティン。決勝レースでも無理せず完走して欲しいところだ。16番グリッドからスタートし、順位を上げたり下げたりで後方集団のなか走っていた。やはりアプリリアのマシンに慣れていないせいもあるだろうが、何より体調が万全でないことが理由だろう。
そんな中、突然マルティンがフロントのグリップを失って転倒し、ゼブラゾーンの上をマシンと共に滑っていく。後ろからきたディジャのマシンがマルティンの体に少し当たったようだ。なんとか起き上がったマルティンで、命に別状はないようには見えたが、そのまま立ち上がることなく前屈みうずくまっている。
転倒したショックで項垂れているのか、痛みに耐えているのかはわからない。


レース後の続報によると、肋骨を12箇所も骨折したとのことだ。なんと・・・
怪我に重ねてまた怪我という、なんともいえない不運に見舞われてしまったマルティン。また数ヶ月はレースへの復帰が絶望的だろう。病院で気丈にも元気だよ!と言わんばかりのハンドサインをした写真を自身のSNSにアップしていたが、精神的にも相当なダメージだろう。
ほんと、何かに取り憑かれてるんじゃね?と思ってしまう。なんとか早く回復して、また元気な姿でサーキットを走り回って欲しい。
転倒時に中継映像で映された、マルティンの彼女の心配そうな表情が印象に残る出来事だった。
次回はスペインでの開催だ。スペインはモータースポーツ大国なので、MotoGPにもスペインライダーたちが沢山いるので地元開催に意気揚々としているだろう。マルケスもそのひとりだし、マルティンも残念だがスペイン人だ。
どんなドラマが起こるのか、楽しみでしかない。