おっさんの大型免許取り「苦労、怒り、妥協、喜び」の大騒ぎ

16歳で中免を取り、その数十年後に立派な中高年になってようやく大型免許を取った。

「だからなんだ」と聞こえてきそうだ。大型免許になんてもう希少性はないし、中高年のチャレンジなんて聞き飽きただろう。

それでも大型免許取得奮闘記を紹介するのは、それなりに共感が得られるのではないかと期待するから。「わかるわかる、俺も(私も)そこで苦労した」と笑ってもらえれば嬉しい。

そしてもちろん、教習所の試練を乗り越えるコツも紹介する。このコツは時間とお金の節約に貢献するはずだ。

*注:おっさんは普通自動二輪免許を中免と呼び、大型自動二輪免許のことを大型免許と呼ぶ

目次

たった12回乗るだけ。余裕じゃん

街中が雪に埋まっている2024年2月上旬の北海道札幌市。この日から大型免許教習の受け付けが始まったS自動車学校に行く。この日、相方(いわゆる妻)が車を使っていたので、自宅から徒歩で30分かけて到着。

S自動車学校はイオンの屋上にコースと校舎がある。受付で説明を受け123,860円(税込、以下同)を支払う。教習は3月9日から。コースにはロードヒーティング装置が埋まっているので、それで雪を溶かしてバイクを走らせるのである。

中免を持っている人は、1時限50分の実車教習を12時限受けるだけでよい。交通ルールなどの座学はない。

この時点では「たった12回バイクに乗るだけで大型免許が取れるのか。1日2時限受ければ6日で終わるじゃん」と余裕しゃくしゃくだった。

220kgってこんなもんか

満を持して3月9日、教習初日。街中には雪がたっぷり残っているが、コース上は雪ゼロ。

オリエンテーションを受けてから、ヘルメット、ボディプロテクター、肘プロテクター、膝プロテクター、手袋、ブーツを着用してコースへ。

最初のテストは、廃車状態のCB750を倒して起こすというもの。大型バイクには数回またがったことはあるが、走ったことはもちろん、倒したことも起こしたこともない。それでも、倒すのはもちろん簡単だが、起こすのも簡単だった。

教官の「持ち上げるのではなく、向こうに押し出す感じで」というアドバイスとおりにやったら、ヒョイッと起きた。

続いて教習車の押し回し。使っているのはホンダNC750L。Lは教習車仕様の名称。ガソリンやオイルなどを含む車両重量(装備重量ともいう)は220kgだが、腕に少し力を入れるだけでスッと動く。「こんなもんか」と思った。

トルクも「こんなもんか」

教官から外周を走るよう指示される。コースの外周をダラダラ走ることになった。

初の大型バイク走行、心のなかで「わーい、わーい」と大はしゃぎ。「やっぱりトルクが違うな」とか「時速40㎞なんて一瞬だな」とは思ったくらい余裕。

これで1時限目が終わり。

2時限目はオートマを運転

この日は2時限予約していたので、10分休憩のあと再びコースへ。NC750Lのオートマバージョンに乗ることになった。私が受講したのはMTコースだが、オートマも1時限だけ乗ることになっているとのこと。外周グルグル。ただただ楽しいだけ。

2時限が終わって、教官から次の教習も2時限連続で予約しておいて欲しいといわれる。次回は1時限目で一本橋をやり、2時限目でS字とクランクをやるという。

h2 一本橋でつまずく。1秒17,160円は妥当か

数日後に教習2回目。コースに出てすぐに一本橋へ。落ちることはなかったが、8秒で渡り切ってしまった。教官がストップウォッチで計測している。

合格ラインは10秒。「あと2秒くらい楽勝」と思ったが、2回目にはさらに早く終わってしまった。3回目も4回目も8秒台だった。

さすがにあせり始める。

教官は、「目線を遠くに」「体でバランスを取らず、ハンドルを動かして調整する」「ニーグリップは足首から」と教えてくれるが、どうもうまくいかない。そしてこの3つのことを意識しすぎてとうとう一本橋から落ちてしまう。

何度か9秒台が出たが、10秒以上は1回だけ。

これで落第決定。つまり次の2時限目も引き続き一本橋をすることになった。

練習させてもらえるのはいいのだが

できないことを練習させてもらえるのはとてもありがたいことなのだが、1回落第すると修了に必要な受講数が1時限増えるから5,720円を追徴される。

2時限目でも一本橋に苦戦。10秒台が出たが2回のみ。ただ9秒台はコンスタントに出せるようになっていた。ただ2回、一本橋から落ちてしまってはいたが。

次回も一本橋をやってもらう、と教官から告げられた。さらに5,720円追徴されることに。

なんか解せない。

もちろんルールは10秒以上となっているので、解せようが解せまいが次もまた一本橋をやらなければならない。しかしやっぱり解せないので、小声で、しかし教官には聞こえるくらいの音量で「また5,720円か」と笑わずに言っておいた。

不満は伝えたほうがいい?

私のこの不貞腐れた態度を大人げないと感じる人もいると思うが、私の不満は、ペナルティが大きすぎることにある。卒検における一本橋は、落ちると検定中止だが、1、2秒足りないだけなら減点で済む。したがって一本橋が9秒でも、ほかの項目をクリアできれば卒検で合格となる。

そうであるならば、私は9秒台はコンスタントに出せていたので「とりあえずOK」でよいと思うのだ。

そしてなんと、次の教習でも、10秒を連続3回出せなかったという理由で落とされた。つまり追徴金の合計は17,160円(=5,720円+5,720円+5,720円)となった。

実はこの3回目の一本橋でも、3回連続では10秒台は出していない。2連続で10秒台を出して、次が9秒台で、その次が10秒台といった感じ。それでもこれで一本橋OKとなったのは、私が不貞腐れていたからではないか。

とにかく1秒のスキルアップに17,160円を取るのはさすがにやりすぎだと思うのだが。

ユーチューブは第2の教官

ここで私はようやく謙虚になる。ユーチューブには、本物の自動車学校の教官が、教習のコツを解説している番組がたくさんアップされている。これをみるようにした。

いずれも「第2の教官」と呼べるほど優れていて、しかも実践的なアドバイスにあふれている。前の晩にユーチューブをみて、翌朝自動車学校で使えるレベルだ。

これからバイクの免許を取りに行く人は、ユーチューブのバイク教習番組は必見である。

ガニマタを自己矯正

教官から何度も、バイクにまたがっているときに足が開いている、ニーグリップができていないと指摘された。頭のなかで「ニーグリップ、ニーグリップ」と言い聞かせていても、課題に集中し始めると足癖が出てガニマタになってしまうのだ。

私は教習期間中ずっと、自宅からS自動車学校まで徒歩で通った。往復1時間。その道のりを内股で歩くことにした。

それは無理な足の向きなので次第に痛くなってくるが効果テキメン。自然にニーグリップできるようになった。

ただ、大型免許を取ってしまった今は、またガニマタ走行に戻ってしまったが。

大型免許で難しいのは一本橋、クランク、スラロームだけと考えてよい

大型バイク教習の課題は、一本橋、踏切、S字、クランク、波状路(デコボコ道)、スラローム、急制動、坂道発進、40km走行の9項目だけ。いずれも中免を持っていて中型バイクに乗っていれば基本動作は問題ないはず。それでも難儀するのは、自動車学校のルールとおりにこの9項目をこなさなければならないからだ。

ただ私の場合は、踏切、S字、波状路、急制動、坂道発進は、教官のアドバイスを受けずに、自動車学校のルールとおりにクリアできた。私の中型バイクの操縦レベルは中の下くらいなので、大型バイク教習者の多くも、この5項目は楽々クリアできるだろう。

クランクはライン取りが命

そうなると大型バイク教習で難しいのは、一本橋、クランク、スラロームの3つだけだ。一本橋で苦労したのは先述のとおりなので、ここではクランクとスラロームについて解説する。

まずクランクだが、最初はうまくいった。2回目も3回目もうまくいった。ところが日を追うごとに下手になった。これについてはきっぱりと「教官の教え方が悪い」といえる。

「人のせいにするな」と言わずに、私の言い分を聞いて欲しい。

私は当初、1速でクランクを走っていた。それでうまくいっていたのだが、教官から「1速でもいいんですが、原則は2速ですので2速でやってみましょう」と言われた。確かに2速のほうがスムーズにいくこともあったが、やりづらさを感じた。

つまり原則2速の教えは、私を混乱させるだけだった。そしてあとで紹介するが、別の教官は異なる見解を持っていた。

クランクのコツはライン取り。前タイヤをどれだけ外側に寄せられるかで成否が決まる。

スラロームはリズムというが無理

スラロームはスピードが命で7秒以内に抜けなければならない。これがなかなか難しく勝率は5割ほど。ただこちらは延長はつかなかった。つまり追徴金はなかった。

スラロームのコツはリズムであると教官はいうが、それは私レベルでは無理だった。教官はさらにアクセルを開けろというが、それもあきらめた。

私は若干速度オーバー気味にスラロームに進入して、あとは惰性でクネクネ曲がっていった。ときに自己流を貫くのも大切だと思った。

ユーチューブ教官も3項目を重視

ユーチューブの大型バイク教習番組の「第2の教官」たちもやはり、一本橋、クランク、スラロームが肝になると指摘している。

つまり私が簡単と感じた踏切、S字、波状路、急制動、坂道発進は、誰にとっても簡単なのだ。

「ある程度バイクに乗っている人ならば」という条件はつくが、大型バイク教習で難しいのは一本橋、クランク、スラロームだけと考えてよい。

無意味と思えてもルールを守ろう

大型バイク教習では、無意味と断言できるルールがいくつかあった。

私は不満をぶちまけたいわけでも、自動車学校を非難したいわけでものない。冷静に検討した結果「やっぱりおかしい」と感じたものだけをここで紹介する。

そしてもし大型バイク教習を受けてみて、私と同じところに不満を感じたら、ぜひそれを我慢して欲しい。私も我慢した。そうしないと大型免許を取れないからだ。

サイドスタンドを払ってから乗車しよう

無意味ルールその2(その1は、すでに紹介した一本橋の1秒17,160円)は、サイドスタンドを払ってから乗車して、降車してからサイドスタンドを立てるルールだ。

私の自己流は、乗車してからサイドスタンドを払い、サイドスタンドを立ててから降車する方法である。それで教官に「どうしても癖が出てしまいます」と言うと、教官は「実は私も乗車してからサイドスタンドを払っていますよ。そのほうが自然ですから」と告白した。彼はさらに、乗車してからサイドスタンドを払ったほうが安全だろう、という見解も示した。

サイドスタンドを払ってから乗車して、降車してからサイドスタンドを立てるルールは全国統一で、つまりすべての自動車学校で教えている。そして多くの教官が、このルールをおかしいと感じている。

確認をしつこいくらいしよう

無意味ルールその3は、確認が多すぎることだ。

確認ルールの前に、停車時に右足を極力地面に着けない、というルールを紹介する。停車中は、右足でうしろブレーキを踏んでいなければならない。確かに停車中にうしろブレーキをかけていたほうがバイクが安定するので、右足を極力地面に着けないルールは正しいといえる。

しかし、停車中に右足を地面につけるときは、必ず右後方を目視確認しなければならない、というルールがある。私はこれはやりすぎだと思う。

停車して左足を地面に着けたもののバイクがグラついて咄嗟に右足を地面に着ける、といったことはよくあるからだ。このとき右後方を目視確認している余裕はない。

大型バイク教習では「そこまで確認する必要があるのか」と感じるくらい、何度も確認させられる。

例えば、バイクに乗車してから発進するまでの動作は次のようにしなければならない。

乗車から発進するまでの動作

  • 歩道にいる段階で後方確認してバイクに近寄って、ハンドルに手をかける(エンジンはOFFだが、ギアは1速に入っている)
  • サイドスタンドを払って、後方確認してまたがり、ミラーを合わせて、キーをONにする(エンジンはまだかけない。ここまで左足地面、右足ステップ)
  • 後方確認して、右足を地面に着けて、左足をステップにのせてギアをニュートラルに入れる
  • 左足を地面に着けて、右足でブレーキを踏んで、エンジンをかける
  • 後方確認して、右足を地面に着け、クラッチを切って左足をステップにのせてギアを1速に入れる
  • 左足を地面に着けて、右足でブレーキを踏む
  • ミラー確認、後方確認
  • ウインカーを出して、ミラーと後方を確認して発進

乗車から発進までこれだけ長い時間がかかってしまうと、新たな危険が出現してしまうだろう。私はいつも「バイクにまたがって→サイドスタンドを払って→エンジンをかけて→1速に入れて→ウインカーを出して→後方確認して→発信」という行程しか踏まない。

安全確認したらすぐに走り出したほうが安全だと思うからだ。だから上記の「乗車から発進するまでの動作」は自動車学校を卒業してから一度もやっていない。

3つのコースを暗記しよう

繰り返しになるが、大型バイク教習の課題は、1)一本橋、2)踏切、3)S字、4)クランク、5)波状路、6)スラローム、7)急制動、8)坂道発進、9)40km走行の9項目しかない。自動車学校のコースには、この9項目を実施する9個のエリアが設置され、教習者はそこをバイクで通って課題をクリアしていく。

それだけでよいはずだ。

ところが全国どの自動車学校でも大型バイク教習では、3つのコースを用意して教習者にそのいずれかを走らせる。今日はコース1を練習する、明日はコース2と3を練習する、といった具合だ。

そして卒検は3つのコースのいずれかを使うのだが、どのコースを使うかは卒検スタートの1時間前に判明する。だから教習者は3つのコースを暗記しなければならないのである。

私は一本橋よりも3つのコースの暗記のほうが嫌だった。もっというと不愉快だった――なんでこんなのを覚えさせられるのか、と。

暗記能力と9個の課題をクリアする能力は別物のように思うのだが。

「無意味だがやらねば」と自分に言い聞かせた

私がここで強調したいのは、「無意味だ」と感じたルールでもそれに従わないと憧れの大型免許を取得できない、ということである。

私はS自動車学校のコースに入ったら、いつも「無意味だがやらねば」と自分に言い聞かせていた。この精神はぜひ真似て欲しい。

もちろん自動車学校のルールを「ごもっとも」と理解できる人は、「無意味だがやらねば」と思う必要はないが。

卒検の終了後に衝撃の事実が明かされる

大型バイク教習を楽しむ人もいるようだが、私にはストレスしかなかった。だから卒検の前の日も、当日の朝も緊張とプレッシャーで吐きそうだった。

初めてクランクで失敗

卒検本番、初めてクランクで失敗する。これまでの教習でふらつくことはあったが、しかし曲がり切れず急ブレーキをかけて足を地面に着くことはなかった。それをしてしまったのだ。

クランクは、バイクがパイロンを倒したり、クランクのコースから脱輪したりしたら即検定中止だが、足を地面に着けただけなら減点で済む。

「ああ俺ってプレッシャーに弱いんだよなあ」と相当落ち込んだが、その0.5秒後には「ここで落ちたらまた追徴金だし、まだここに通わなければならない」と思って気持ちを戻した。

そのほかの課題もなんとかクリアできたレベルで、最悪の出来だった。

そりゃ「落ちた」と思うよ

卒検は、検定員が自動車に乗り、教習者のバイクを追尾しながら採点する。そして卒検が終わると、検定員が講評をくれる。

検定員は私に「クランク、足着いちゃったね。2速だったのがいけなかったね。あれくらいゆっくり走るなら1速のほうがいいのに」と言った。

クランクは原則2速ではないのだ。

検定員はさらにこう言った。「緊張してた?」と。

落ちたと確信した。なぜなら「緊張してた?」は「緊張していなかったら受かっていたのにね」と翻訳できるからだ。

まとめ~約10万円の価値はあるのか

ところが卒検終了から1時間後、結果発表で合格が告げられた。しかしギリギリ合格だったと思う。それくらい出来が悪かった。

結局落第したのは、一本橋の3回だけだった。

費用は基本料金が123,860円で、追徴金が17,160円(=5,720円×3回)だが、バイク販売店の紹介ということでS自動車学校から2,000円のQUOカードがもらえた。さらに、大型免許を取ってからバイクを買うという段取りを踏んだので、バイク販売店の免許サポート制度を利用できた。なんとバイクを40,000円引きで購入できた。

したがって私の大型免許取得コストは総額99,020円だった。

■総額99,020円の内訳
基本料金123,860円+追徴金17,160円-QUOカード2,000円-免許サポート40,000円

では約10万円の価値はあったのか。

私はもう少し安価でもいいのではないかと感じている。5万円くらいが相応しいのではないか。中免で中型バイクを10年以上乗り、その間無事故で、現在ゴールド免許のおっさんから10万円は取りすぎだろう。

それでも5万円の価値を認めるのは、バイクの操縦技術が「確実に上達した」という実感はあるからである。自動車学校の教えは、初めて大型バイクに乗る人には必要なことである。このことは申し添えておきたい。

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この記事を書いた人

●著者紹介:アサオカミツヒサ。バイクを駆って取材をするフリーライター、つまりライダーライター。office Howardsend代表。1970年、神奈川で生まれて今はツーリング天国の北海道にいる。
●イラストレーター紹介:POROporoporoさん。アサオカの親友。

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