バイクで事故らないために私がやっていること

私は14歳で初めてバイクに乗り、現在54歳でスズキ隼(初代)を所有している。バイクを持っていなかった時期もあったので、乗っていた期間は通算で17年間になる。

このバイク・キャリアで事故を起こしたのは16歳のときの1回きりだから、偉そうに「事故らないために私がやっていること」を紹介してもよいだろうと思うのである。

ここで紹介する6つの対策は、自信を持って「だから私は事故らない」といえるものだ。

目次

【対策1】事故ユーチューブをみる、事故を知る

バイク事故対策その1は、ユーチューブのバイク事故動画をみることだ。私はツーリングに行く前にバイク事故動画を複数個みるようにしている。「バイクは恐い」という印象をすべての細胞に覚え込ませるためだ。

事故る心理を学べる

冒頭のイラストは、200万回再生されたバイク事故ユーチューブ動画のひとコマである。撮影者は事故を起こしたバイク乗りの仲間である。

事故を起こしたバイクは信号のある交差点に青信号のときに入って直進したが、その瞬間に黄色に変わった。そのため対向車線の車が右折を開始して衝突した。典型的な右直事故だ。

バイクは自動車のボンネットの上にのりあげた。ただ、ライダーは飛ばされたものの、すぐにバイクを引き起こせるくらい元気だった。

これは日本の事故だが、おすすめしたいのは海外のバイク事故動画だ。海外のライダーのほうがクレイジーだから、ショッキングな事故が多い。ライダーが撮影者になっていて、猛スピードで走行中に突如現れた車にぶつかる、というパターンが多い。

バイク事故動画から学べることは、事故るときの心理だ。200万回再生の事故では、ライダーと自動車の運転者が、ともに「この黄色の交差点は自分のもの」と思ったと推測できる。ライダーは「黄色だ全然行ける」と思い、自動車の運転者は「黄色だ、ようやく右折できる」と思ったのだ。

事故る心理がわかると、直進しているときは「黄色だ、右折車が現れるかも」と思えるようになるし、右折するときは「直進してくるバイクが現れるかもしれない」と思えるようになる。

参考:https://www.youtube.com/watch?v=6ddEVp9NaL8

「このシチュエーション、あれと似てる」と思える

バイク事故動画をたくさんみると、実際にバイクで走っているときに「このシチュエーション、あの動画と似てる」と思えるようになる。あそこの車が急に動き出すかも、その物陰から子供が飛び出してくるかも、こういう感じのアスファルトって滑るかも、と思えるようになり、それが起きても大丈夫なような行動を取ることができる。

「事故動画をアップするな」派に一言

あるバイク系ユーチューバーが、バイク事故動画を公開することに反対していた。理由は、バイク初心者がそれをみて恐がるから、あるいは、暗い気持ちになるからというもの。

私は、恐がるために、そして、明るい気持ちを暗い気持ちに変えるために、ライダーはバイク事故動画をみるべきだと思っている。

初心者に限らず、バイクに乗るすべての人に「事故ったら死ぬ」「バイクは事故る」と思ったほうがよいと思う。その理由は対策2と対策5で詳しく説明する。

そしてツーリングの前夜はウキウキがとまらないものだ。そのハイテンションでバイクに乗るととても危ない。バイク事故動画をみて興奮を抑えたほうがよい。

【対策2】防げる事故を起こさない、防げない事故を遠ざける

バイク事故は避けられない、というのが私の持論である。つまり、事故ったことがない人は単に運がいいだけ。すべてのバイカーは今、事故して当然の状態にある。

なぜなら「現代のバイクの性質・性能」と「現代の道路の状況」はライダーに著しく不利だからだ。だからこの世に「この人は絶対に事故らない」といえるライダーが一人も存在しないのである。

したがってライダーにできることは、事故る確率を減らすことである。このように考えることで、防げる事故を起こさないようにして、防げない事故を遠ざけることにつながるのだ。

「すれば」「しなければ」防げるなら、すれば・しなければよいだけ

事故を起こしているライダーの多くが、防げる事故を起こしている。事故ったあとに「アレをしなかったら事故らなかったのに」とか、あるいは「アレをしていたら事故らなかったのに」と思ったら、それは防げた事故だ。

例えば、スピードを出さなければ、一時停止していれば、スマホをみていなければ、ニーグリップをしていれば、タイヤに空気を入れておけば、だ。

防げる事故を確認できたら「アレ」をしないか、するかすればよいだけである。バイク事故動画をみて「アレ」を探して欲しい。

事故の悪魔が嫌うことをする

防げない事故とは、誰がそのシチュエーションに置かれても事故る事故である。

新品のタイヤは滑りやすいから100kmは慎重に走ったほうがよい、と教わるだろう。ところが150km走り込んでいるのに、新品タイヤが滑って転倒することもある。

また、カーブしている舗装路にオイルや砂利がまかれていたら「滑った」と思う間もなく転倒しているだろう。

これらは防ぎようがない事故であり、これこそがバイクに乗ることのリスクである。

防げない事故に対してライダーができることは限られている。タイヤを交換したら151kmは慎重に走り、カーブの手前でスピードを落とすことくらいだ。

事故の悪魔が最も嫌う慎重な運転をすることくらいしか、防げない事故への対策はない。

【対策3】カーブ・スキルを身につける

私の17年間のバイク・キャリアのなかの唯一の事故は、峠道でカーブを曲がり切れず、路外に出て転倒する、というもの。単独。運よくケガはなく、バイクも軽傷だった。

この事故を起こしたのは16歳。中免を取ったばかりで、カワサキGPZ400Rを買ったばかりで、公道を走り始めて間もないころだ。

当時の私のバイク・スキルは、14歳から河原で乗り始めた原付の経験と教習所で得たものだけで、車両重量205kg、59馬力は十分モンスターだった。私はこの事故原因を、バイクを扱えなかったから、と分析している。

(私の初めての公道用バイク。過去にBikefunに掲載したイラストです)

NSRにコーナリングを学んだ

この事故の前も後も、私は何度も、カーブを曲がり切れず対向車線に飛び出す経験をしている。対向車が来ていたら、すべて正面衝突していただろう。峠道のコーナーでスピードを出すことは恐かったが、だからよかった。16歳のガキは「この恐怖に打ち克って高速でカーブを曲がらなければならない」と考えていたのである。

こんな無謀な行為は到底許されるものではないが、無謀さ以外にももう一つ駄目なところがある。それはカーブを曲がることを学ばなかったことである。だからリターンしたときはカーブ・スキルの獲得に努めた。

私は、長年にわたってバイクから離れたあとに45歳でリターンしたのだが、そのとき買ったのは軽量かつコーナリング・マシンのホンダNSR250Rだった。軽量だからバイクの挙動を制御しやすいし、レーサー譲りの車体性能だから曲がりやすい。

NSRでコーナリングしながら、バイクを傾けるタイミングを変えたり、力を入れる場所を変えたり、ブレーキングをずらしたりして、バイクがどう動くのかを理解した。こういったことを試す余裕を、NSRは与えてくれた。

このカーブ訓練の効果は絶大で、今私は250kg、175馬力の本物のモンスターである初代隼に乗っているわけだが、これでコーナリングできているのはNSR師匠のおかげである。

(バイクの乗り方を覚えたければNSR師匠に習え。これも過去イラスト)
(NSRで練習していなかったら初代隼は扱えなかっただろう。これも過去イラスト)

【対策4】精神論「今日は絶対に事故る」と思うようにしている

(このイラストと冒頭のイラストは本稿向けの描き下ろし)

ここからは精神論を紹介したい。

私自身の運転経験と事故った人の証言から、私は次の法則をみつけた。

■「事故りそう」と思って事故ることはない

この法則の裏はこうなる。

■事故った日は、その日に最初にバイクにまたがったときに「事故りそう」と思っていない

だから私は、バイクにまたがったら「事故りそう」と思うようにしている。

「嫌な予感がする」と思ってビビるほどよい

何をいいたいのかというと。

例えば、友人に誘われてヘアピンカーブが続く上級者向けの峠に、初めて行くことになったとする。このケースで事故ることはほとんどない。なぜなら初めての峠で、しかも難しいコーナリングが求められるから「事故りそうだ」と思えるからだ。

また例えば、人生初の高速道路や人生初のサーキットでは、滅多に事故ったり転倒したりしない。これも「事故りそうだ」と思っているからだ。

私はバイクの最大の危険行為は、スピードの出しすぎとコーナリングの2つだと思っている。しかし「事故りそうだ」と思っているとスピードを出さないし、慎重にコーナリングするようになるので、危険度が激減するのだ。

これと同じように、ツーリングの朝に「今日はなんか嫌な予感がする」と思ったときは、その日は結構楽しめたりする。もしくは、「今日は事故りそうだ」と思ったら、ツーリングに行かないことすらある。バイクに乗らなければバイク事故を起こさない。

バイクを運転するときは、ビビることが大切だ。

【対策5】弱気であれ、謙虚であれ

ビビることと似ているが、弱気であることと謙虚であることも、事故らない秘訣になる。

これは試合じゃない

スポーツの試合では、コーチは選手に「気持ちを楽にして、肩の力を抜いて、全力を出し切ろう」と言う。この行為が許されるのは、スポーツで失敗しても命を失わないからだ。

しかしバイクは、気を抜いた瞬間に、隙をみせた途端にバイクがこけている。だからバイクに乗るときは、気持ちを引き締めて、下半身に力を入れてバイクを押さえて、なおかつ、全力を出さないようにしたほうがよい。

試合じゃないんだから、弱気ぐらいがちょうどよいのだ。

手足のように操るって、なんておこがましい

私はバイクが上、自分は下と思っている。私が道路上を快適かつスピーディに移動できているのは、私の力ではなくバイクの力である、と思っている。

これがバイクに対して謙虚になることである。

だから私はバイクがいうことをよく聞くようにしている。バイクが走りたくないといえばスピードを緩め、止まりたがったら止まり、曲がりたくないといえば徐行してコーナリングする。まれにバイクが「うおお、走りてえ」と叫ぶときがあるから、そのときだけアクセルを開ける。

その逆のことはしない。すなわちバイクに馬乗りになって押さえつけるようなことはしない。「このバイクを自分の手足のように操ってやる」とは決して考えない。それは分をわきまえていないし、謙虚さが足りない考え方だ。

本気で大谷翔平になろうとする草野球おじさんはいない

「弱気であれ」「バイクに対して謙虚になれ」というアドバイスは、私のような非プロのツーリング・ライダーに対してのものだ。決してプロのレーシング・ライダーにいっているわけではない。

なぜ非プロ・ライダーは弱気になるべきであり、プロ・ライダーはそうしなくてよいのか。それは練習量と、バイクに乗る目的が違うからだ。非プロ・ライダーのほとんどは練習なんてしない。ところがプロ・ライダーはコンマ1秒を削るために命を削って練習している。

それなのになぜか、このバイク界では、非プロがプロの真似事をする。

もちろん、プロでもサーキット走行で苦労する超ハイスペックSSを、非プロが保有して公道を走ることはまったく問題ない。しかし非プロがSSに乗って公道で「プロよろしく」走ったら、そりゃあ事故る。

草野球をやっている中年太りのおじさんは、大谷翔平レプリカのバットを使っても、決して大谷になろうなんて思わない。このおじさんの弱気と謙虚さこそ、市民ライダーの手本である。

まとめに代えて~【対策6】これで事故ったらシャレにならない

私は、ここまで事故らないための対策を書いたら絶対に事故れないな、と思っている。もし私が明日事故ったら、これを読んだ人から「お前、あれだけ大きなことをいっておいて転んでんのかよ」と思われるからだ。

だからここで紹介した事故らない対策をあらためて読み返してからバイクに乗ろうと思っている。

ただ最後にこういっておきたい。

これだけ事故リスクがあってもバイクは面白い。

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この記事を書いた人

●著者紹介:アサオカミツヒサ。バイクを駆って取材をするフリーライター、つまりライダーライター。office Howardsend代表。1970年、神奈川で生まれて今はツーリング天国の北海道にいる。
●イラストレーター紹介:POROporoporoさん。アサオカの親友。

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