ついに1,000万円のZI登場、カワサキ空冷大排気量の価格に思うこと

カワサキの空冷の大排気量、Zの価格高騰が止まらない。とうとう中古バイク紹介サイトに990万円の1972年型Z1が登場した。

本稿の執筆時が2023年なので、この個体は51年が経過している。Z1の希少性と価値がわからない人には、半世紀前の200kgの金属の塊に、新築マンションの頭金ほどのカネを支払う心理を理解できないだろう。

しかしバイクファンである私も、これはちょっと異常なのではないかと感じている。

そこで、経済的な視点から可能な限り客観的にカワサキ空冷大排気量Zの価格について考察してみることにした。

目次

私見~最高の状態でも500万円が妥当では

アサオカミツヒサ

私は中免ライダーであり、カワサキ空冷大排気量Zの体験は、知人のZ1Rにまたがらせてもらっただけ。そこで乗り味以外の観点でZ論を展開する。

カワサキはZという名称を、今でも現役の水冷バイクに使っているが、本稿ではこれ以降、カワサキ空冷大排気量ZのことをZと呼ぶ。

バイク関係者のなかからも「今のZの相場は異常」という声が聞こえてきて、そこに批判的なニュアンスが含まれることもある。

その一方で、ものがなんであろうと趣味にいくら注ぎ込もうが批判される筋合いはない、という意見もあるだろう。

では私の意見はどうかというと、異常、である。

私の経済の知識から算出すると、最も良い状態のZ1でも500万円が妥当である。そして、経年劣化が顕著ながらレストアによってなんとか快適に乗れる状態のZIなら、つまり普通の中古Z1なら300万円ぐらいがちょうどよいのではないか。

その理由を説明していく。

Zの歴史(軽く振り返る)

Zの歴史を知りたい人はZ好きであり、そしてZ好きはほぼ必ずZの歴史を知っているので、ここでZを詳しく紹介する必要はないだろう。

ただ、Zの相場を分析するのに最低限の情報が必要なので「軽く」振り返ってみる。

参考:https://bike-lineage.org/kawasaki/z1000/z1.html

CB750FOURが誕生した3年後にZ1が爆誕した

世界初の市販の直列4気筒4ストローク大排気量バイクは、実質的に、1969年デビューのホンダ・CB750FOURである。「実質的に」というのはその前にMVアグスタなどが直列4気筒4ストローク大排気量バイクを市販しているが、それらはいわゆる希少種であり、普通のバイク乗りが買うことができるものはCB750FOURが世界初だった。

これに世界一驚いたのはカワサキのビッグバイク開発チームだったろう。実はカワサキも似たコンセプトのバイクを開発していたのである。そのまま開発を続けてもCB750FOURの「後輩」になるだけなので、カワサキは計画を練り直してさらにすごいバイクをつくることにした。

そしてカワサキは1972年、900Super4、通称Z1を世に出したのである。CB750FOURが736㏄、SOHC、67psなのに対し、Z1は903㏄、DOHC、82psと格の違いをみせつけた。

現代のバイクであれば、167㏄(=903㏄-736㏄)の差ぐらい簡単に縮めることができるが、当時はそうはいかなかった。エンジンの馬力やトルクを上げると、タイヤやチェーンといったそのほかの部品が簡単に壊れてしまい、とても市販バイクに使えなかったからだ。

したがってZ1は、絶対的な力で王者ホンダを打ち負かした神バイクなのである。

しかもZ1はスタイルがものすごく良い。CB750FOURファンには申し訳ないが、こちらは少しボテッとしている(それがデザイン上の味になっているのだが)。しかしZ1は尖っていながらラインに破綻がなく、丸みを帯びているから威圧感がないのに風格がある。

Zシリーズとは

ここまでZの代表選手としてZ1のみを紹介してきたが、価格が高騰しているZはほかにもある。

■Zの年表

名称特徴
1972年★Z1王者ホンダを力で圧倒
1976年Z1000丸形Zの正統後継者
1977年★Z1Rカフェ風
1981年Z1000J正当進化
★Z1000Rローソン・レプリカでおなじみ
Z1100GPついに1,100㏄に
1983年GPZ1100最後の空冷大排気量Z。大型カウル付き

Z1は1972年から1976年まで生産され、同年にZ1000にバトンタッチされる。Z1000は排気量が1,016㏄に増え、馬力は1psアップの83ps。

1977年にはZ1000をカフェレーサー風にアレンジしたZ1000H、通称Z1Rが発売される。Z1とZ1000は丸みを帯びたデザインだったが、Z1Rは急に直線を基調にしたカクカクしたデザインになった。

さらに1981年にはZ1000J、ローソン・レプリカでおなじみのZ1000R、そしてZ1100GPが一気にデビューした。

そして実質的に空冷大排気量Zの最終版となるのが、1983年のGPZ1100だ。バイクの黄金期の幕開けに相応しく、大型カウルを装着していて世代が1つ進んだ印象がある。

このあとは水冷化してしまう。

Zの相場と「価値あるZ」

Zの相場を確認してみよう。なおここで紹介する価格は、2023年8月現在の、グーバイクのものである。

名称2023年8月現在のグーバイクの最高値 (大規模カスタム車は除く)
★Z1990万円
Z1000385万円
★Z1R658万円
Z1000J320万円
★Z1000R1,000万円
Z1100GP258万円
GPZ1100209万円

いずれも驚く価格ではあるが異常性を感じさせるZは、Z1とZ1RとZ1000Rの3台である。そのほかのZも確かに状態の良いものは高価格で販売されているが、それでも異常というほどではない。

Z1とZ1000RとZ1Rを除くと、次に高額なのは385万円のZ1000である。Z1000もデビューは1976年なので385万円は驚くほど高いが、しかしこれは最高値なのでもう少し程度が低い個体を探せば100万円ぐらいはコストダウンできる。

また385万円であれば、例えば自家用車を買い替えるときに新車のクラウンではなく中古の軽自動車にすれば捻出できそうだ。

そしてZ1100GPとGPZ1100については100万円台の個体でもそれほど悪くない。

参考:グーバイク

本当に異常といえるのか

それでは最良のZ1でも1,000万円は異常であると感じる理由を説明する。

最高500万円が妥当とする根拠

私は冒頭、最も状態の良いZ1でも500万円が妥当である、との見解を述べた。それは、先ほどのグーバイクの最高値表が根拠になっている。

グーバイクの最高値表から、異常に高い3台(Z1、Z1000R、Z1R)を除くとこうなる。

名称2023年8月現在のグーバイクの最高値 (大規模カスタム車は除く)
Z10001976年385万円
Z1000J1981年320万円
Z1100GP1981年258万円
GPZ11001983年209万円

見事に古いバイクが高く、新しいバイクが安いという順番になっている。骨董品などの長い歴史を持つ価値ある品物は古いほど高額になるが、Zもその傾向を持っているのだ。

そして上記の表が示唆することは、Z1の990万円とZ1Rの658万円とZ1000Rの1,000万円が突然変異的に高額であるということである。つまり異常である。

1976年発売のZ1000が約400万円なら、1972年デビューのZ1なら、Z1000に100万円を上乗せした500万円が妥当だろう。+100万円も多いような気がするが、そこは神バイクへの敬意を払いたい。

新車NRが520万円、新車RC213V-2が2,190万円

世界的な名車であり、驚くほど格好良く、息を飲むほど美しく、歴史性と希少性も申し分なければ「1,000万円ぐらいして当然」と考えても良さそうな気がするかもしれない。

しかしバイクは工業製品であり美術品ではなく、Zは希少とはいえ大量生産されている。またバイクは自動車ほど複雑な機構を持っていないし、自動車ほど資産価値があるわけではない。

1,000万円出せば、そこそこ程度の良い走行距離3万kmの中古のフェラーリ360モデナを買うことができる。

ただ中古フェラーリとZを比較すると「自動車に価値を見出す人もいれば、バイクに価値を見出す人もいる」と反論されるかもしれない。

では以下の2台のホンダのバイクの新車価格と比較するとどうだろうか。

ホンダの高額市販バイクの新車価格
●NR、1992年発売、520万円(最高級中古Z1の約半額)
●RC213V-S、2015年発売、2,190万円(最高級中古Z1の約2倍)

NRは楕円ピストン、チタンコンロッド、GPマシンのNR500レプリカというプレミアムがつく。RC213V-SはMotoGPレーサーに保安部品をつけただけという異常なバイクである。

したがって「Z1の1,000万円が妥当であると仮定すれば」、新車のNRの価格がZ1の約半額であることは、異常に安いといえる。新車のRC213V-Sの価格がZ1の約2倍であることも異常に安い。

しかしNRとRC213V-Sの新車価格は、ホンダがコストと利益を考えて出した額なので、この価格が適正と考えるべきだろう。そうなると1,000万円のZ1は異常に高いという答えになる。

ちなみにグーバイクによると、中古のNRの最高価格は1,500万円だった。この評価は別の考察が必要になるだろう。そしてRC213V-Sは中古が出ていなかった。

参照:

https://www.carsensor.net/usedcar/detail/VU7442711963/index.html?TRCD=200002&RESTID=CS210610&LOAN=ZNK

https://www.honda.co.jp/news/1992/2920406.html

https://www.honda.co.jp/news/2015/2150611-rc213v-s.html

まとめ~待ちたい

バイクファンとして、また、生活者的経済ウォッチャーとして、最高の状態にある超希少なZ1であっても1,000万円は異常な価格だと感じる。

私が異常さを警戒するのは、経済合理性がない高騰は必ず破綻するからだ。バブル経済がその好例である。

今日本には、久しぶりにバイクブームが到来している。そのお陰で中古バイクが随分高くなった。ただここまでは良い現象である。

なぜなら2010年ごろまでバイクが全然売れず、販売店もメーカーも随分苦労していたからだ。販売店とメーカーに適正に儲かれば、良いサービスを提供してもらえるし、良いバイクをつくってもらえる。

しかし異常な価格になると投機目的のカネが入ってきてしまう。転売目的で購入する者が中古バイク市場に入ってくる事態が想定される。転売ヤーが社会問題になっているのは御存じのとおり。

私はZ1は偉大なバイクである確信している。ノーマルであれだけ格好良いのに、カスタムをするともっと格好良くなるバイクは、そうはない。

もちろんZ1を1,000万円で売ることは法律上まったく問題ない。中古販売店にしても、顧客から「1,000万円出すから極上Z1を仕入れて」と言われたら、その願いをかなえるのは正当なビジネスである。

しかしそれでも私は、多くのバイクファンが適正であると感じられる価格で売買される日が戻ってくることを願うのである。

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この記事を書いた人

●著者紹介:アサオカミツヒサ。バイクを駆って取材をするフリーライター、つまりライダーライター。office Howardsend代表。1970年、神奈川で生まれて今はツーリング天国の北海道にいる。
●イラストレーター紹介:POROporoporoさん。アサオカの親友。

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