今や50代に突入してしまったこんな私にも、実は若い頃があったのです(当たり前か)。
私が若者として社会に出たのはバブル景気の崩壊後。
陥った不景気によって企業の採用人数は一気に絞り込まれ、空前の買い手市場となり、就職活動でも大学生が中小企業にも溢れかえる中、内定などそう簡単に貰えなくなりました。
そんな頃、不安で眠れない夜を幾つも共に過ごし、夜の国道を私の気が済むまで一緒に走ってくれたのが二台目の相棒CB400SFでした。
私はこの頃にバイクが傍らにある生活を過ごせて、本当に助かったと思っています。
今回はかつての私のように生き方や人生に迷う若い世代の人たちにバイクを勧めたい理由について、私なりの考えをお話していきます。
若い世代の人たちが人生に迷う理由
まず、若い頃、多くの人が人生について迷い、不安になるであろう理由をまとめてみました。
迫りくる将来への不安定さ
学生の頃、また社会人経験が浅い若い頃というのは職業の選択や自分がしたいことに向き合う時間が少なく、人生の方向性はこれで良いのか?といった迷いや焦りが生まれがちです。
人生なんて好きなことばかりで生きられるほど甘くないぞ!と仰る諸先輩方やご年配の方の意見があるのはよく解りますが、いわゆる昔気質の根性論は自分の得意な分野を生かそうと考える今の「Z世代」の思考とは全くマッチしません。
企業や店舗では求人があるのに仕事に就けない人が増えている、その一因です。
レーサーレプリカの加速感を求めている若い世代に対して、走れば何でもいいんだと非力なバイクを押し付ける様なものです。器用な人なら乗りこなすでしょうし、必要なら我慢してでも乗るでしょうが、大抵の若い人たちは自分の思いに嘘はつけずにすぐ乗り換えてしまうでしょう。
若さゆえに抱きがちな苛立ちや不安
♬盗んだバイクで走り出す、行く先も解らぬまま…なんて迷惑この上ない(あくまで盗難された経験から)歌もありましたよね。
若い世代の人たちが抱いている苛立ちや不安を暗喩的に表した秀逸な歌詞です。しかし今は文化の多様化やコンプライアンスを重要視する社会への変化に伴って、そういった歌も聞かれなくなりました。
しかしながら若い世代の人たちの焦りや不安は、時代が変わった今でも燻り続けています。さらに窮屈になった世の中で着火した向けどころのない負の感情が制御できなくなるほど憎悪してしまうと、時に社会へと向けられ破滅的な事件の引き金になることさえあります。
結果優先と自己肯定感の低さ
同じ学校の友達は、ご近所さんは、同年代の親戚縁者は進学や就職に成果を出せたのに、自分だけは思うように成果が出ない、またその成果に納得できない…と周囲から感じるプレッシャーにも悩むものです。
特に今の時代は表に見えるパフォーマンスや結果ばかりが評価される反面、その陰で何倍もの時間や労力を重ねる努力や辛抱は全くと言っていいほど関心をもたれません。
経済的な不安
今の給料ではバイクも買えない、結婚も難しいし将来のことなんて考えたくもない、どうせ税金で持ってかれるから働くだけ無駄、年金もらえないから納めても無駄…そういった経済的な不安は人生でも一番の心配事といっても過言ではないでしょう。若さゆえの無知や誤った認識から来る絶望感も背景にあります。
お金の心配は現代社会に生きる全人類共通です。生きていくためにはお金を稼ぐことが不可欠です。しかしお金を稼ぎ続けることはそう簡単なことではありません。
若い時や仕事を始めて間もない時は総じて給料は低いもの。このまま経済的に厳しい生活が続き、一生このまま過ごすのかと不安を抱く若者も少なくありません。
対人関係の問題
ここ何年かで最も大きく変化したものといえば、希薄になった対人関係ではないでしょうか。特に上司と部下、教師と子ども、教える側と教わる側といった主従の関係が希薄になりました。私たちが若かった頃ほど、また私たちが思っているほど、今の若い人たちは私たち年長者を信用していないのです。
また友達関係においても「気の合う人が1人いればいい」といった考え方が浸透しており、積極的に他者と関わることがないことから、他の同世代の人が始めた新しい行動や知り得た考え方に触れる機会が減ります。
バイクを勧めたい私なりの理由
先に述べたように、吐き出したい不安や不満を大きい器で受け止め、生き方や生き様を背中で学べる年長者が今の若い人たちの身近にはいないのです。
不安にまみれる若い人たちは言うなれば、まるで月明り程度で周囲がうっすらとしか見えない夜道をヘッドライトがないまま走らざるを得ないバイクみたいなもの。
思ったよりもできないことの多さを痛感し、自信を無くしたまま窮屈で寂しい生活を送る若い世代の人は増えています。また経験の少なさから、行動に移すことをただ怖がっている人も多くいます。
そんな彼らになぜ私がバイクを勧めたいのか、これからお話していきます。
自分は自分であればいい~個性の表現
バイクは自動車よりも各自の個性を表現しやすい乗り物です。
バイクの形式だけ見てもネイキッドやレーサーレプリカ、アメリカンといった多様さがあり、エンジンも排気量や気筒数で用途や味わいが変わります。また様々なカスタムパーツを用いて飾り付け、タンクやカウルにオリジナルの塗色を施すことなどで自らの信条を表現し、個性を際立たせることもできます。
特にアメリカンのカスタムは本当にライダーの個性や好みがそれぞれ表れていて、そんなバイクを眺めているだけでも楽しいですよね。
法に反しない限り、破廉恥でない限り、自分はありのままでいいじゃないか…そんな自己表現ができる手段のひとつがバイクなのです。
コミュニティーで様々な人たちと関わることができる
そんな自己表現を互いに認め合うことから、自己肯定感や人間関係が生まれます。
人との関わりは最初こそ踏み出す勇気が必要ですが、バイクという共通の趣味があることで不安がることはないでしょう。
ビジネスで築く利害関係が先立つ人脈とは違い、趣味でつながった人間関係は役職や立場に縛られず、様々な世代や経歴をもつ人々とフラットに関わることができます。
人間関係ができあがれば話題も増えていきます。そして関係が深まり、思い切って悩みを打ち明けることができるようになれば、その相手の経験や考えを話してくれるかも知れません。その経験談にはきっと自分の悩みを突破するヒントがあるはずです。
意外とそんなところから、逆にビジネスの話に繋がったりすることも珍しく無いので、SNSなどを活用して色んな人たちとツーリングに行ってみてはどうでしょうか。
経済的な負担が少ない移動手段
エンジンの排気量による違いはありますが、バイクは総じて自動車よりも税金やガソリン代、維持費が安く済み、金銭的に厳しい生活を送る人にも優しい乗り物です。
いわゆる125㏄までの原付バイクの場合は軽自動車税は年額2,000~2,400円、自動車重量税は課されず、車検を受ける義務もありません。あとは自賠責保険に加入による保険料となります。
250㏄までなら自動車重量税が新車購入時に4,900円掛かりますが、その後の重量税や車検代は掛かりません。ガソリンの消費量も自動車に比べて少ないので燃料代もそう多くは掛かりません。
金銭的に余裕のない生活を強いられる若い世代の人たちにとっても、バイクは行動範囲を広げられる最適のパートナーになることができるのです。
風に撫でられる癒しの乗り物
ジャケットやヘルメットの上からではありますが、バイク走行中に浴びる風が全身を伝うことで癒しの効能が期待できます。
実は「水」にも似たような効果があると言われています。シャワーや風呂、水泳時にプールの中で肌を伝っていく水流にはその人の精神を落ち着かせ、癒す効果があると言われています。まだ言葉で不安を言い表せない幼児でも、頭を撫でたりハグすることで安心し、落ち着きを取り戻すのと同じ効能です。
動物は本能的にスキンシップによって不安やストレスが軽減されることを知っています。人間も動物です。風に撫でられることで心が癒され、落ち着いてくるのでしょう。
走るバイクで受ける向かい風に心地よく癒されていたなんて、気付いていましたか?
自然との関わりがもちやすい
山、川、海、草原、花、森林など、自然の織り成す光景を自動車のように遮られた空間からではなく、間近に見られるのもバイクの魅力です。
熱い日差し、猛暑の熱風、夕立の後の涼風、冬の突き刺すような冷気など、バイクでしか体感できない外気の変化を感じ、壮大な光景を見ていると、小さな悩みくらいなら吹き飛んでしまうほど心が洗われます。
こうして得られた色々な経験が、バイクが趣味の仲間と出逢った際の会話のネタとなるのです。
自由に行動できるパフォーマンスや性能
ギアを落としてアクセルを開ければ力強い加速感を味わえるのがバイクです。自動車よりも取り回しやすく、駐車場の心配もさほどないので自由気ままに行動しやすいのがバイクの強みです。
クラッチやアクセルワークを駆使して、バイクと会話しながら走る爽快さは格別です。そうした操作がまたストレスの発散につながります。自動車や自転車では味わえないバイク独特の加速感やハンドリングは楽しいですよね。一度ライダーの身に染みると、この感覚はクセになりますよ。
人生に迷いを感じたらバイクに乗ればいい
こうして書いているうちに気付いてきました。
不安ばかりだった若い頃の私はきっとCB400SFと共に走ることで心が癒され、出逢えた仲間に勇気づけられていたのでしょうね。
若い世代の人たちが抱く人生への迷いの多くは、抜け出せない現状がこのまま続くと思い込んでしまうこと、そして先が見通せなくなる不安ではないでしょうか。
その不安を打ち破るには、まず自分は自分で良いのだと自信をもつこと。そして先輩方が乗り越えてきた経験や知恵を参考にしてみると良いかもしれません。
先にこの世に生まれ、生きている人たちは大抵の不安や心配を若い頃に経験しています。どう考え、どう行動してどう乗り切ったのか。そんな話を聞くだけでこの先の見通しが明るくなり、次に行動を起こす勇気が出ればラッキーではないですか。
つまり、月明りの夜道を走るバイクに明るいヘッドライトが得られる訳です。
そんな年長者たちとどうやって仲良くなればいいのかって?
まだ気付いていませんか?
傍らにいるじゃないですか、あなたのバイクが。
趣味から知り合ったなら相手の職業や経歴、年齢を越えて関わることができます。そして新たに仲間となり、更にその輪は広がっていくのです。
大好きなバイクがきっかけとなって、つながっていく仲間。これほどまでに素敵な人間関係があるでしょうか。
人生の不安というのはまだ起こっていないことが大多数だと言われます。先に心配ばかりしていることに、実は大きな意味はありません。
不安なことは信頼できそうな「仲間」に話してみれば良いのです。案外参考になる経験談が聞けるかもしれません。
交通ルールを遵守し、周囲へのマナーやモラルを大切にして安全な走行を心掛ければ、自ら起こす事故や失敗はほぼなくなります。
バイクの運転も、人生の歩み方も同じなのではないでしょうか。
それでは、これからもよいバイクの旅を。