ブレーキを知ればバイクの運転が上手くなる

前回の投稿で「タイヤを知ればバイクがもっと楽しくなる」ということで、タイヤについて様々な角度から説明させて頂きました。一見すると地味な黒い前後2本のタイヤですが、バイクとライダーを様々な面から支える最重要パーツであることがよく分かったのではないでしょうか。

そして今回取り上げたいのは、「ブレーキ」です。タイヤがバイクを進めるパーツであるなら、ブレーキはバイクを止める重要なパーツです。しかしブレーキはバイクを止める為だけにあらず、様々な角度から我々ライダーをサポートしてくれています。そして「ブレーキを上手く扱うことができればバイクの運転が上達する」と言われています。

バイクにおけるブレーキとは、大きく分けて3種類あります。それではまず1つ目のエンジンブレーキから順番に見ていきましょう。

目次

1.エンジンブレーキとは

・エンジンブレーキとシフトダウン

エンジンブレーキとは、エンジンが高回転時にスロットルを閉じた(アクセルを戻した)時、ガソリンと空気が最低限しか供給されないため、低回転域に戻ろうとする際に生じる抵抗を制動効果として利用することです。

もう少し簡単に言うと、アクセルを戻すとエンジンの回転数が下がり、減速します。しかしながら速度域にシフトが合ってないとエンストするので、スロットルを少し煽りながらタイミングよく、シフトダウンする必要があります。

・エンジンブレーキの使い方 

下り坂はエンブレを意識して、バイクを走らせます

このエンジンブレーキ(以下エンブレ)は、コーナーに差し掛かる前に効果的に減速して、曲がりやすい速度域でコーナーに進入していくのに非常に有効です。フロントブレーキだけでブレーキングするとノーズダイブ(フロントフォークの沈み込み)で前につんのめってしまう可能性があるので、エンブレとフロント・リアブレーキを上手く組み合わせると良いコーナリングができます。

他には、見通しの良い交差点など明らかに止まることが予測できる場合に、エンブレであらかじめ速度を落としておきます。するとフロントブレーキだけで停まるより、スムーズにバイクを停車することができます。

・ベーパロック現象を起こさないように

下り坂が続く道などでフロント・リアブレーキを多用しすぎると、その摩擦熱がブレーキフルード(ブレーキ液)に伝わって、ブレーキフルードが沸騰し、気泡が発生します。気泡が発生すると、ブレーキペダルによって発生した油圧がブレーキフルードに伝わらず、ブレーキが効かなくなってしまうのです。これをベーパーロック現象と言って非常に危険な状態です。

適度にエンブレを使って減速しながら坂道を下ると、こういった危険も回避できて、ブレーキパッドの消耗も軽減することができます。しかしエンブレを多用しすぎると、今度はチェーンやスプロケットに負担がかかるので、何事も適度に使用することが大事になります。

2. フロントブレーキについて

ブレンボのブレーキマスターシリンダー(ブレンボHPより引用)

・フロントブレーキの仕組み

バイク教習でブレーキは「フロント7割リア3割」で使った方が良いと教えてもらったように、一番使用頻度が高いのがフロントブレーキになります。一昔前はドラムブレーキ(正直あまり効かない)が主流だったのですが、現代のバイクのフロントにはディスクブレーキ&ブレーキキャリーパーがついています。まずフロントブレーキの仕組みについて説明していきます。 

  1. フロントブレーキを握ることによって、マスシリンダーがフルード液を押します
  2. ホースを伝ってキャリパー内のピストンを油圧で押し出します
  3. ピストンがブレーキパッドをローターに押し付けます
  4. 摩擦によりブレーキがかかります

・パスカルの定理

ブレーキの仕組み

簡単に表すと上記写真のような感じになるのですが、右手のフロントブレーキを引くだけで170~200キロもあるバイクが短い制動距離で止まるとは、昨今のディスクブレーキ技術には恐れ入ります。

もう少し詳細を述べると、フロントブレーキ近くにある小型ピストン(面積は小さい)に圧力を加えると、キャリパー内の大型ピストンに圧力が伝わります。大型ピストンの面積が大きいため、「パスカルの定理」により小型ピストンの何倍もの力に変わって、ローターを押しブレーキがかかるというわけです。

・フロントブレーキの上手なかけ方

フロントブレーキを掛けすぎて、前につんのめったり、バランスを崩したりしたことはないでしょうか?

フロントブレーキを強く握ると、キャリパーに大きな圧力がかかりディスクがロックされる為、フロント荷重になります。その時、フロントサスが沈み込み過ぎるので、非常に危険です。この現象をノーズダイブと言います。程度が分かっている熟練ライダーさんは問題ないと思いますが、初心者ライダーはおそらくブレーキを強く握り込んでしまってそういった現象が起こることがあります。

そこで握り込んでしまわない為のテクニックがあります。ブレーキをかける指を手前に引くのではなく、親指を視点にして指を奥へスルッと回す感覚でブレーキをかけてみましょう。するとブレーキレバーを握らなくても、ちょうど良い感じでブレーキがかかるようになります。先ほど述べた「パスカルの原理」により、ブレーキレバーからの少ない力で、ローターには何倍もの力がかかるので、バイクはしっかり止まってくれます。 

RIDE HIのHPより引用

*番外編;ブレンボのブレーキキャリパー

モータースポーツの世界で一番有名なブレーキ・パーツメーカーをご存知でしょうか?

それは圧倒的な世界シェアを誇る、1961年設立のイタリアンメーカーBrembo(ブレンボ)です。今ではモータースポーツのみならず、市販車の自動車やバイクにもたくさんブレンボのブレーキ製品が使われています。

そんなブレンボ製品の中でも特に有名なのが、油圧式ブレーキキャリパーです。そしてこの10年でこのブレーキキャリパーは目覚ましい進歩を遂げています。

・2ピース・ブレーキキャリパー

2ピース・ブレーキキャリパー(ブレンボHPより引用)

従来型のブレーキキャリパーですが、写真のように一般的なブレーキキャリパーには分割線があり、左右のパーツを合わせてボルトで締めつけた、いわゆる2ピースと呼ばれています。1970年代に開発され、今でも多くのバイクに使われています。 

・モノブロック・ブレーキキャリパー

モノブロック・ブレーキキャリパー(ブレンボHPより引用)

そしてこの10年で開発された、オートバイの上位車種に採用されているのが「モノブロック・ブレーキキャリーパー」です。従来型のような分割線がなく、継ぎ目がない一塊の部品として作られています。製造・加工そしてセッテイングが難しいので、価格は従来型より高くなります。

しかしながらモノブロックブレーキキャリパーは、非常に剛性が高く、ハードブレーキングしてもキャリーパーが広からずに、変形しないという利点があります。そしてより繊細なブレーキタッチで、バイクを操ることを可能にします。今ではモータースポーツの世界だけでなく、一般車両にも多く使われるようになりました。このようなブレーキの革新が、我々ライダーを助けてくれている事を忘れてはなりません。

3. リアブレーキについて

フロントブレーキに比べて、リアブレーキは地味な存在です。フロントブレーキが強力に効くから、リアブレーキは使わないというライダーは意外と多いようです。

確かに一昔前のバイクは、リアブレーキを使うと後輪がロックしてしまう現象が起こりました。しかしながらこの10年でリリースされた大半のバイクには、ABSが搭載されている為、後輪がロックされることはほとんどありません。

リアブレーキがついている以上、使った方がより効果的にバイクを操ることができます。実際筆者も、リアブレーキをほとんど使わない派だったのですが、昨年受講したオートポリスでの初心者ライディングスクールでリアブレーキの使い方を教わって、だいぶ考え方が変わりました。

ライスクの先生曰く、リアブレーキは主に速度調整の為に使うとのことでした。8の字やスラローム走行において、アクセルをパーシャル(一定に)で開けながらリアブレーキで速度調整するとコーナや回転がスムーズになったのは目から鱗でした。

・リアブレーキの仕組みと上手なかけ方

フロントブレーキが右手でレバー握るところから始まるのに対して、リアブレーキは右足先で踏むことでブレーキングします。後輪ディスク車の場合は、先ほど説明したフロントブレーキと仕組みは同様です。

リアブレーキのかけ方には、少しコツが入ります。土踏まずにステップバーを載せて、つま先を円運動させます。するとステップバーが支点となり、踵が浮くことなく指先で踏むべダルの踏み加減がコントロールしやすくなります。

ステップバーを支点にしてブレーキをコントロール

・フロントとリアブレーキの併用の仕方

バイクを止める場合、リアとフロントどちらからブレーキをかければ良いのでしょうか。

正解は、同時もしくは心持ちリアを先にかけて下さい。フロントが先だとフロントサスが伸びて前につんのめってしまうのに対し、リアを先に使う方がリアサスが伸びるのを抑制し、車体全体が地面に押し付けられバイク全体が安定するからです。

4. ブレーキの3要素

これまでは、エンジン・フロント・リアブレーキの機構や使い方について言及してきました。次に実際ブレーキを使ってバイクをどのように扱うのか、ブレーキの3要素にフォーカスしながら説明していこうと思います。

A. バイクを止める

これに関してはもう説明不要ですね。とは言っても速度域が速いと、狙った所に止めるのは意外に難しかったりします。つまり教習所の座学で勉強したように、スピードが出ていると制動距離が伸びるのですぐに止まれません。これに関しては、1~3のブレーキングを駆使して、スピードが出ていてもピタッと止まれる訓練をすることです。

B. 速度を調整する

速度調整は、バイク運転においてブレーキの重要な役割になります。特にコーナに侵入する時、速度調整ができていないと危険です。

サーキットでの転倒は、ほとんどコーナーで起こりますが、1番の理由が曲がりきれないスピードでコーナーに突っ込んでいるからです。言い換えると、ブレーキを使って速度調整が上手くできていないという事です。

C. 重心を移動させる(荷重移動)

ブレーキをかけることによって減速Gを発生させることができます。減速Gの大きさは速度やブレーキの大きさによって変わってきますが、コーナーにおける減速Gコントロールの上手さがライダーの技量だったりします。

そしてブレーキの減速Gを加えながら荷重をかけ、フロントタイヤをグリップさせながらコーナリングします。

*減速Gとは:減速時に発生する慣性力が重力(1G)に対して何倍かを表す値 

コーナーにおけるブレーキングは重要です

5. まとめ

前章のタイヤに続き、今回はバイクの最重要パーツであるブレーキについて説明させて頂きました。

調べれば調べるほどブレーキは奥が深く、「ブレーキを制すればバイクの運転を制する」のは事実だと思いました。

延々と真っ直ぐな道が続くハーレーの国アメリカと比べて、日本は道が狭く・渋滞が多く・カーブや交差点が多い道路事情です。つまり公道においてはストップ&ゴーとコーナリングばかりしなければならないということですね。またサーキットでタイムを縮めたければ、「ブレーキングを磨くこと」だとよく耳します。

今後、ブレーキング技術を磨きながらバイクライフを楽しんでいきたいと思います。またブレーキ関係のメンテナンス(ブレーキパッド・フルード・ローターなど)にも、近い将来自分で挑戦してみようと考えています。

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この記事を書いた人

Yone Log for Motorcycleの運営者。コロナ禍を機に大型二輪免許を取り、バイクに乗り始める。商社マンからフリーランスに転身し、関西からツーリング天国の熊本へ移住。カフェレーサー&スーパースポーツ好きで、サーキット初心者。愛車はドゥカティ848EVOコルセSEとBMW・R100RTカフェ仕様(1981年式)。

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