衝撃のマルボロXSR900はヤマハの迷走ではないのか

50代以上のライダーは、ヤマハが2023年10月に発表した、XSR900のマイナーチェンジのニュースに驚いたはずだ。

XSR900GPである。

なんと1980年代のGP500レーサー、YZR500を彩ったマルボロ・カラーをおごってしまったのである。だから私はこれをマルボロXSR900と呼ぶ。

中学・高校時代にケニー・ロバーツやエディ・ローソンに興奮させられた私は、令和のマルボロに興奮した。

しかしひととおり盛り上がったあとに冷静になると、ヤマハが迷走しているように思えてきた。

目次

整合性は取れているといえば取れている

アサオカミツヒサ

マルボロXSR900に衝撃を受けたものの、欲しいとは思えなかったから。この複雑な感情を説明してみたかった。

「ヤマハの迷走」といってしまったが、XSR900GPのコンセプトには一定の整合性があることは認める。

ネオクラシックだから80年代のオマージュは正解

これは2代目XSR900(2023年時点の現行車)の宣材写真である。青をイメージカラーとしたようだ。これは「GP」がつかないノーマルのXSR900である。

(ヤマハ公式サイトから引用)

XSR900に施された青地に水色のストロボと黄色いラインを入れるカラーリングは、やはり1980年代に活躍したYZR500のゴロワーズ・カラーを模している。XSR900のうしろに置かれたレーサーがそれ。

つまりヤマハは、今回のマルボロXSR900(=XSR900GP)の前に、すでにゴロワーズXSR900をつくっていたことになる。したがってマルボロXSR900は、1980年代GP500オマージュ企画第2弾というわけだ。

XSRシリーズはネオクラシックなので、つまり、古いものをベースにして新しい解釈を加えていくコンセプトでつくられているので、古きよきものである1980年代GP500を引用することはむしろ正解である。

レーシー・シリーズの位置づけが謎

XSR900GPの成り立ちに整合性があるなら、どこが迷走しているのか。それはヤマハのレーシー・シリーズにおけるXSR900GPの位置づけである。

なお「レーシー」とは私の造語で「レーサーレプリカ・チックな」という意味である。かつてレーサーレプリカというジャンルがあったが、この概念は現行車には適用されていない。それで現行車のフルカウルのレーサーっぽいバイクをレーシーと呼ぶことにしたのである。

YZF-Rシリーズとの整合性が取れない

(ヤマハ公式サイトから引用。YZF-Rシリーズ)

ヤマハは自社の複数のレーシー・バイク群を、YZF-Rシリーズと呼んでいる。YZF-R1を筆頭にYZF-R7、YZF-R3、YZF-R25が存在し、近くYZF-R125が登場する。

XSR900GPはレーシー・バイクだが、このYZF-Rシリーズにそれが入らないことは誰もが「当然だ」と思うだろう。XSRシリーズとYZF-Rシリーズでは毛色が違いすぎる。

しかし私はその当然なことに違和感を覚えるのである。

レーシーが2系統あると考えてもよいのだが

YZF-Rシリーズは、サーキットで勝てるバイクとして開発されたYZF-R1を筆頭にしていることからレーシーだ。

そしてXSR900GPも、1980年代のレース・シーンをオマージュしているのでレーシーである。

レーシーが2系統あることが私の違和感である。私はバイクをビジネス上の商材としてみる癖があるのだが、マーケティングの観点からすると、現在のバイク市場の状況からしてヤマハぐらいの企業規模のバイクメーカーが一つのジャンルに2系統も持つのは無理がある。

だからYZF-Rシリーズにマルボロ・カラーを施すのなら違和感はない。なぜXSR900をYZR500レプリカに仕立てたのか。

では百歩譲って、YZF-Rシリーズは本格派レーシー系統、XSR900GPはネオクラシック・レーシー系統であるとしよう。これならレーシーが2系統ある説明になる。

しかしそうなるとYZF-R7の存在が微妙になる。

実はR1以外、それほどレーシーではない

YZF-R7のエンジンはXSR700やMT-07と同じである。3台とも並列2気筒、688㏄、内径80mm×行程68.5mm、73PS/8,750r/min、67N・m/6,500 r/minである。

つまりYZF-R7は本格派レーシー・バイクではなく、MT-07をベースにレーシーな感じにしたバイクなのだ。

この「実はそれほどレーシーではない」コンセプトはYZF-R3やYZF-R25にもいえて、フルカウルを備えているのでそれっぽくみえるが、初心者向きのマイルドなバイクに仕上がっている。

つまりYZF-R1だけがボーン・イン・ザ・サーキットであって、そのほかのYZF-Rシリーズは、言葉が悪いが、なんちゃってレーシーなのである。

ネーミングと実態のズレ

(ヤマハ公式ユーチューブ番組から引用。XSR900GPのプロモーション・ビデオの撮影は峠道で行われている)

R1以外のYZF-Rシリーズが持つ「なんちゃってレーシー」という性質は、XSR900GPと同じである。

ヤマハはXSR900GPのコンセプトを次のように説明している。

■XSR900GPのコンセプト
ヤマハレース・ヒストリーの体現者をコンセプトに開発しました。XSR900をベースに、ワインディングロードを心地よく駆け抜けることができる性能と、スポーティなハンドリングが堪能できるつくり込みを行っています。

ヤマハが想定するXSR900GPの舞台はワインディングロードであり、サーキットではないことがわかる。だからこの「GP」は、現役バリバリのMotoGPのGPではなく、昔懐かしのGP500のGPなのだ。

以上の考察からわかるとおり、私が指摘するヤマハの迷走とは、ネーミングによる区分けと実態に即した区分けが異なることである。

■ネーミングにおける区分け
・本格派レーシー系統:YZF-Rシリーズ(YZF-R1、YZF-R7、YZF-R3、YZF-R25、YZF-R125)
・ネオクラシック・レーシー系統:XSR900GP

■実態に即した区分け
・本格派レーシー系統:YZF-R1
・なんちゃってレーシー系統:YZF-R7、YZF-R3、YZF-R25、YZF-R125、XSR900GP

6台のレーシー・バイクをネーミングで区分けすると、YZF-RシリーズとXSR900GPにわかれるが、実態に即して区分けすると、本格派レーシーはYZF-R1だけで、そのほかの5台はなんちゃってレーシーになる。

ケニーじゃないんだ

ヤマハはXSR900GPのプロモーション・ビデオをつくりユーチューブで公開している。GP500マシンYZR500をフィーチャーしていて、かなりよくできていて見応えがある。

ただこれを視聴したときも違和感を持った。私は「ケニーでもローソンでもないのか」と思った。

ヤマハがXSR900GPのプロモーション・ビデオで起用したのはウェイン・レイニーだった。

(ヤマハ公式ユーチューブ番組から)

レイニー本人まで登場させて「XSR900GPはレイニー・レプリカである」といわんばかりの内容である。

レイニーもマルボロYZR500に乗ってチャンピオンになっているのでこれでもよいのだが、しかしマルボロYZR500に最初に乗ったのはケニー・ロバーツであり、それを継いだのがエディ・ローソン。レイニーはその次なので、いわば三男坊だ。

ちなみにGP500チャンピオンは、ケニーもローソンもレイニーも3回獲っている。

なぜマルボロXSR900のPRにレイニーを起用したのか、その理由は定かではないが、推測できるのは年齢だ。

レイニーは1960年生まれで、2023年に63歳になる。1951年生まれのケニーは72歳、1958年生まれのローソンは65歳である。

いくらネオクラシックに「クラシック」が含まれているとはいえ、XSR900GPを買う人は若い人だから、最も若いレイニーが採用されたのではないか。

70代のおじいちゃんに「XSR900GPっていいでしょ」といわせるわけにはいかないと。また、ローソンはその後ホンダに移籍しているので、ヤマハとしては広告に使いづらい。

ただ、それでも私には「マルボロといえばやっぱりケニーだ」という想いがあるので、冒頭のイラストにはケニーのYZR500を載せた。

まとめに代えて~ロスマンズならやばいかも

私はSR400を駆るヤマハ・ファンだが、フレディ・スペンサーのレプリカ・ヘルメットを被っているくらいなので1980年代のGP500ではホンダ・ファンだった。

ただ敵ながら、ケニーとローソンが駆るYZR500のマルボロ・カラーは魅力的だった。赤と白を直線で区切っているだけの色配置はシンプルの極みでシャープ。その後GP500に興味がなくなってしまい、レイニーの活躍はあまりよく知らない。

XSR900GPは、そんな私にはドハマリのコンセプトだし、50代以上でこれにやられない人なんていないだろう。

ただそれだけに、ヤマハの狙いが露骨すぎて引いてしまう。

しかし、である。

同じことをホンダにやられたら抗(あらが)えないかもしれない。レーシーなバイクにロスマンズ・カラーを入れられたら「ほれてまうやろ」になってしまうだろう。

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この記事を書いた人

●著者紹介:アサオカミツヒサ。バイクを駆って取材をするフリーライター、つまりライダーライター。office Howardsend代表。1970年、神奈川で生まれて今はツーリング天国の北海道にいる。
●イラストレーター紹介:POROporoporoさん。アサオカの親友。

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