まだ4月だというのに、天気の良い日は夏のような暑さである。バイクに乗る身としては、晴れている方が走りやすいし見える景色も美しいしと良いこと尽くしなのだが、やっぱり暑い。だから陽が落ち始めて、涼しくなる夕方からひとっ走りすることにした。
どこに行こうか。ひとっ走りとはいえ、夕方なので遠出はできない。日中の暑さで喉が渇いていた。ふとその喉の渇きから、大学生時代によく通っていた西宮・甲東園にある喫茶店を思い出した。「そうだ、久々に行ってみよう。」まずはその喫茶店を目的地にバイクを走らせた。
レトロな雰囲気漂う!西宮の「トップ珈琲 関学前店」
自宅からバイクを走らせて、20分。武庫川に架かる橋を渡り、阪神競馬場を通り過ぎて、阪急仁川駅から仁川沿いに甲山方面へ北上していくと「関学」の愛称で知られる関西学院大学の西宮上ヶ原キャンパスがある。この道のりも懐かしい。大学の講義に遅れまいと当時乗っていた50㏄の原付バイクを良く走らせたものである。
そんな上ヶ原キャンパスの正門の真正面にあるのが、私が大学生時代によく行っていた「トップ珈琲 関学前店」である。創業は1972年。店舗は建物の2階にあり、1階は部活や大学の講義帰りの学生がひっきりなしに出入りする油そばのお店が入っている。ちなみにこの油そばのお店も私の学生時代の行きつけだったお店である。
話をトップ珈琲に戻そう。1階にある入り口を入ると2階に続く階段が目の前にあるのだが、ここから雰囲気がもうレトロ。煙草の匂いがうっすら上から漂ってくるいわゆる昭和の純喫茶のそれなのである。階段の横の壁には関学のサークルや体育会の部活の部員募集やイベント案内のポスターがたくさん貼られていて、この喫茶店がいかに関学の学生さんたちから愛されているかが分かる。
階段を上って2階の店内に入る。手前側が喫煙可のテーブル席、店の奥側が禁煙席である。私は禁煙席エリアに入って、一番左手奥のテーブルが学生時代からのお気に入りの場所である。この席へと向かう感覚すら久々で、逆に新鮮だった。お気に入りの席に座り、アイスコーヒー(¥419+税)を注文した。5分もしないうちにアイスコーヒーがやってきた。口当たりは軽くまろやかだが、それでいてすっきりとした程よい苦味が飲んだ後に通り抜ける。日中の暑さなんて忘れてしまうほどの冷たさと美味しさである。途中からは一緒についてくるミルクやシロップをお好みでかけて味変しても良いだろう。
レトロな雰囲気のソファー席やテーブル席に窓から西日が射し込み、流行りの音楽が有線で流れて来る。大学生の時、私はこの席で様々なことを考えていたことを思い出した。当時入っていた演劇部でいただいた役のこと、就活のこと、卒論のこと、人間関係のこと…本当に色んなことを考えていたのである。そして考え疲れたら、流れてくる有線やスマホのアプリに入れた音楽をイヤホンで聴いてボーっとしていた。ボーっとしていても何の罪悪感もないぐらいに店内にはゆっくりとした空気が流れているのである。
と、いうような感じで懐かしさにふけっていると次の目的地をまだ決めていないことに気づいた。この辺りの近場で何か良い場所はないかなと調べていると、この前に観たテレビで西宮の今津港にある灯台が移設されて近くまで行けるようになったというニュースが流れていたのを思い出した。
海と港と灯台と夕日とバイク、なかなか絵になる景色が見られるのではないかと期待。それならばと次の目的地を西宮・今津港の灯台に定めて、トップ珈琲を後にした。アイスコーヒー美味しかった~!皆さんも是非行ってみてほしい!
今も港に明かりを灯す西宮・今津港の「今津灯台」
トップ珈琲から海沿いの今津港へ向けてバイクを走らせると景色は高台の閑静な街並みから、坂を下って国道・鉄道・高速道路が東西方向に騒がしく往来する市街地へ入っていく。
特に国道2号線から南側、阪急・阪神今津駅周辺は生活道路も多く通っており、慎重な運転を心がけることが求められる。
中心地を抜けて、国道43号線を越えるといよいよ新興住宅地や大型商業施設、工場が立ち並ぶベイエリアに入る。今津のこの辺りはかつての酒どころ「灘五郷」のうちの一つ、「今津郷」があった場所。今も大関株式会社の酒蔵が存在し、「酒蔵通り」なる道が通っている。その酒蔵通りを越えてさらに海沿いへ南下すると今津港、そしてその港の入り口にあるのが「今津灯台」である。
今津灯台は令和5(2023)年までは現在ある場所の対岸にあったのだが、今津港に流れる新川と東川という2つの川の統合排水機場の整備、つまり津波対策などの治水事業を進めていくのに伴って現在の場所に移設された。
今津灯台の歴史は古く、その起源は文化7(1810)年、当時の今津の酒造家「大関」醸造元によって今津で作られた酒を江戸へ運ぶために港に出入りする樽廻船や漁船の安全を願って建てられた灯明台にまでさかのぼる。
そしてこの今津灯台の最大の特徴は「現役最古の木造灯台」であるということである。つまり今津灯台は歴史的遺構などではなく、木造でありながら今も現役で灯台として今津港の入り口の目印を海上の船舶に知らせる役目を担っているのである。実際、私が灯台の前に到着してバイクを停めた時には灯台の上部に赤色のランプが光っていた。
これは後で調べて分かったのだが、赤色のランプは海上の船舶から見て「灯台が港の入り口の右側にある」ということを示しているのだそう。しっかり仕事しているのである。是非今津灯台の近くを通る際はこのランプの色に注目してみてほしい。
灯台の向こうには海と港を往来する船舶や防波堤が見え、さらにその向こうには六甲山とそこに沈む夕日が見えた。ここもまた、トップ珈琲と同じくらいかそれ以上のノスタルジックな雰囲気が溢れていた。バイクとともに写真を1枚。こういうのをいわゆる「エモい」というのだろうか。写真を撮った後、ここでもまたしばらくボーっと海と夕日を眺めていた。
おわりに
今回は愛車のHONDA CL250を走らせて、昼下がりから夕方の西宮を巡った。前回が九州縦断ツーリングとかなり遠出した分、久々の近場でのソロのショートツーリングで新鮮だった。学生時代、行きつけだった喫茶店と日本最古の現役木造灯台を巡った。
ずっと通っていたからこそ分かる魅力と初めて行ってみたからこそ分かる歴史やそこから醸し出される魅力を同時に感じることができたツーリングだった。