ディアベルとVMAXのマッスルというドーピング【デザインを考える】

1970年代生まれの悪い癖で、格好良いものをガンダムでたとえようとしてしまう。ドカティ・ディアベルのデザインに衝撃を受けたとき、ズゴックだ、と思った。両者は頭がとてつもなくでかくて、下にいくにつれ細くなる点が似ている。

(このイラストのバイクは正確にはXディアベルV4。ズゴックはシャー専用)

シリーズ「デザインを考える」ではバイクの外観を論じていて、今回のテーマはマッスルバイクだ。

マッスルバイクはメジャーなジャンルではない。そもそもそんなジャンルがあるのか、と思う人もいるだろう。

ただ、私の心をとらえて離さないディアベルとヤマハVMAXを考察するとき、どうしてもマッスルバイクという概念が必要なのである。

目次

マッスルバイクとしか呼べない

(筆者の知人のチャレンジャー。マッスルカーの1つ)

ディアベルとVMAXをみる前に、マッスルバイクの定義を考えてみる。というのも「マッスルバイク」でググっても、バイクの1つのジャンルを示す一般名詞は出てこない。つまりマッスルバイクというジャンルは存在しないか、あるいは極めて特殊である。

それでも私は、ディアベルとVMAXはマッスルバイクという言葉でしかくくれないと思っている。このマッスルは、自動車のマッスルカーから取っている。マッスルカーとは、チャレンジャーやカマロ、マスタングなどの大排気量、大馬力のアメ車のことである。その2輪版がマッスルバイクだ。

アメリカン・ドラッグとの違い

では既存の概念を用いると、ディアベルとVMAXはどのジャンルに属すのか。恐らくはアメリカンのなかのドラッグになるだろうか。アメリカンは最近、クルーザーと呼ばれることが多いようだが、1970年代生まれは頑固にアメリカンと呼ぶ。

アメリカンとは、ハーレーとインディアンを代表とする、悠々と、堂々と、ふてぶてしく乗る、大きなエンジンと長い車体のバイクである。一方ドラッグは、短距離の直線を速く走るドラッグ・レースのためのバイクである。ドラッグにはメガスポーツをベースにしたバイクもあるが、アメリカン・ベースのバイクもあり、これがマッスルバイクに近い。

「マッスルバイク」と「アメリカン・ドラッグ」との違いは、私は成り立ちであると考えている。

アメリカン・ドラッグは、アメリカンをドラッグ・レースに使うために改造したものである。ドラッグ・レースでは、真っ直ぐ速く走れればよいので、つまりコーナリング性能を捨てて直進安定性だけを追求できるので、バイクをより低く、より長くする必要がある。もちろん馬鹿みたいな馬力も欠かせない。

マッスルバイクは、アメリカン・ドラッグの格好良いイメージを借りてオリジナルの世界観をつくったもの、というのが私の理解である。つまり「アメリカン・ドラッグで合法的に公道を走りたい」という欲求を満たしたものがマッスルバイクである。

ドラッグのままではさすがに公道は走りづらいので、走行機能を追加する必要がある。また、レースに使うわけではないので、装飾を加えてさらに格好良くすることができる。

マッスルバイクと似たものに、ハマーH1がある。ハマーH1は、米軍が使っていた高機動多用途車両HMMWV(ハンビー)の公道バージョンである。かのシュワルツェネッガーが「HMMWVを公道で走らせたい」と訴えてできたのがハマーH1だ。

ハマーH1は軍のイメージを公道に持ち込み、マッスルバイクはドラッグのイメージを公道に持ち込んだのである。

(HMMWV。私は平和主義者だが、それでも軍用のものは格好良いと思ってしまう。Military.comから)

だからマッスルバイクは格好良い

マッスルバイクの成り立ちを考えると、格好良くなるのが当たり前であることがわかる。ドラッグから格好良い要素だけを抽出して公道走行バイクをつくっているからだ。マッスルバイクのデザイナーには「絶対にこの格好良い要素を損なってはいけない」という義務が課されているのである。

それではディアベルとVMAXを個別にみていこう。まずはディアベルから。

ディアベル~雑味のない美

ふう、さすがドカティ。マッスルなのに美しいとは。

この2枚の写真をみて、ため息が出ない人がいるだろうか。

(上が、ステップが車体中央下部にあるディアベルV4で、下が、ステップがハンドルの下にあるXディアベルV4。公式サイトから。ことわりなければ以下同)

これがディアベルだ。とにかく大きいエンジンと、それすら小さく感じさせるほど大きいタンク。ブルドッグのように顔を潰したヘッドライト。一気に細くなる下半身だが、後輪でまた太くなる。まるで大量のステロイドでドーピングして、ありえない筋肉をつくったボディビルダーのような出で立ちである。

だからディアベルのことを、きもい、と感じる人もいるだろう。しかしディアベルのデザイナーは、そんな声は完全に無視している。マッスル以外の雑味が一切ないバイク、つまりデザイン・ファーストのバイク、それがディアベルである。

「2気筒と4気筒」と「X付きとXなし」

デザインの詳細をみる前に、ディアベルの基礎知識を紹介しておく。

ディアベルは2011年に登場したときは2気筒だったが、今は4気筒エンジンがベースになり車名に「V4」がついた(本稿執筆は2025年6月)。

さらにX付きとXなしがある。「ディアベルV4」も「XディアベルV4」もベースは同じだが、両車はステップ位置が大きく異なる。ディアベルV4のステップは車体中央の下部にあり、XディアベルV4のステップはハンドルの下にある。つまりX付きのほうがよりアメリカン的で、おらおら感がある。

なお2気筒版の「Xディアベル」もドカティジャパン株式会社の公式サイトに掲載されているが、これからのメインはV4とみてよいだろう。

(名前にV4がつかないXディアベルは2気筒。V4と比べるとラインが整理されていてスッキリ感がある。トラスフレームがみえているのも好感)

極端な足し算と引き算が生み出す強いデザイン

以降、ディアベルV4とXディアベルV4をまとめて「(X)ディアベルV4」と記述する。

この2枚の写真は、(X)ディアベルV4を右前から撮影したもの。エンジンとタンクのマッチョさと後部のスリムさの両方が強調されるこの角度は、このバイクのベスト・アングルといえるだろう。

(上がディアベルV4でしたがXディアベルV4)

デザインを論ずる私はこの画を言葉で表現しなければならないのだが、私よりも上手に言い表したものがあるのでそちらを紹介する。

■ディアベルV4のデザインを表現した見事な文章

立体的な造形のスチール製燃料タンクと、スリムでシャープなリアエンド。エアインテークは、サイドビューの主要なエレメントとして、筋肉質な造形をさらに強調する。
引用元:https://www.ducati.com/jp/ja/bikes/diavel/diavel-v4

引用元からもわかるとおり、この文章はドカティ自身が書いたものだから当然であるが、デザイン・コンセプトを見事に表現している。ここから(X)ディアベルV4のデザインの重要な要素がタンク、リア、エアインテークであることがわかる。

なおこの文章はディアベルV4向けのものであるが、XディアブルV4にも通用するだろう。

出したい部分はわざとらしいくらい出して、へこませたい部分は可能な限り絞り込む。この極端な足し算と引き算が(X)ディアベルV4のデザインに力を与えている。

力のあるデザインは記憶への定着が容易だ。つまり、(X)ディアベルV4を知らない人が10秒もみれば、1カ月後でもこれを識別できるだろう。最近のSSやアドベンチャーは、間違い探しのレベルにまで似通っているが、それとは対極的な唯一無二な存在といえる。

マシンガンをつけてどうする

(XディアベルV4のマフラー。ここから出てくるものは銃弾か、ミサイルか。ディアベルV4も同じものを使っている)

世の中に4本出しマフラーは数あれど、この造形を思いついたデザイナーはいないだろう。「マシンガン」以外の比喩がみつからない。

4本の太い筒をまとめて置きたいが「田」の字に並べると横にはみ出てしまうので、内側2本を上にずらし、外側2本を下にずらして配置している。性能面を考えれば、4本を1本にまとめたほうが軽量で合理的だが、ドカティはそんなことはしない。その英断は成功した。このマフラーが気に入ったからこのバイクを買った、という人もいるだろう。

重くないことに驚く

最近のドカティは、デザインを最優先にしても、優先順位2位の性能に手を抜かない。重量級にみえる(X)ディアベルV4だが、実は重くない。ドカティはこう述べている。

■ディアベルV4の重量に関するドカティの説明

ディアベルV4は、アルミニウム製モノコックフレームと片持ち式スイングアームから構成されるシャシーを備え、軽量なV4グランツーリスモと相まって、燃料を含まない車両重量は223kgに抑えられています。これは、先代モデルのディアベル1260 Sと比較して13kg以上も軽量です。 引用元:https://www.ducati.com/jp/ja/bikes/diavel/diavel-v4

私はマッスルバイクは、「重くてもオーナーから文句をいわれないバイク」であると思っている。むしろ「重い」なんて言ったら「じゃあマッスルバイクに乗るな」と言われるくらいだ。

重いことが許されているバイクは、軽いバイクをつくるより簡単である。デザイナーも開発者も好きなだけ部品を盛ることができるし、好きな素材を使うことができる。重くて強い素材は、軽くて強い素材より安価だから、重量制限がないバイクはコスト安につくることができるのだ。

それなのにドカティは、重いことが許される(X)ディアベルV4ですら軽量化を目指した。これは、スポーツネイキッドとマッスルバイクという一見かけ離れた2つのカテゴリーを融合させる必要があったからだ。

(ドカティの最高峰、パニガーレV4)

(X)ディアベルV4の概要は以下のとおり。比較のために、ドカティの最高峰にして、世界のSSの頂点に立つパニガーレV4の概要を並べてみた。


ディアベルV4XディアベルV4パニガーレV4
排気量1,158㏄1,158㏄1,103㏄
最高出力168ps168ps216ps
最大トルク12.8kgm12.8kgm12.3kgm
装備重量(燃料除く)223kg229kg191kg
シート高790mm770mm850mm

重量を比べる前に、最高出力と最大トルクをみてみよう。(X)ディアベルV4とパニガーレV4は、最大トルクがさほど変わらないのに、(X)ディアベルV4の最高出力はパニガーレV4より48ps(=216ps-168ps)も低い。

出力とトルクは、片方を高めると他方が低くなる関係にあるので、(X)ディアベルV4のエンジンは出力を犠牲にしてトルクを稼いでいるのだ。(X)ディアベルV4がトルク・マシンであることがわかる。

そして装備重量であるが、重いほうのXディアベルV4でも、パニガーレV4より38kg(=229kg-191kg)しか重くない。「38kg差は小さくない」と反論されるかもしれないが、しかしここで比較しているのは軽量化命でつくられている世界最高のSSである。「重くても許されるバイク」と「軽くないといけないバイク」の重量差が38kgなのは、小さいとみてよい。

では、他社の「重いイメージ」があるバイクの重量はどうかというと、現代ヨーロピアン・アメリカンの代表格であるBMW・R18は345kgだし、メガスポーツのスズキ隼でも264kgである。ハーレーについては紹介するまでもないだろう。

ドカティは(X)ディアベルV4について「大幅な軽量化により、ハンドリングと俊敏性が大幅に向上した」と述べている。ドカティは「所詮、直線番長でしょ」と言われるのが嫌だったのだ。

(BMW・R18)
(スズキ隼)

VMAX~初めから最期まで最高

VMAXは1985年に初代が出て、2008年に2代目となり、2017年に生産終了となった。私は初代VMAXこそマッスルバイクの始祖であり、2代目VMAXこそマッスルバイクの最高傑作であると思っている。

なお、初代の正式名はVMAX12だったり、VMAX1200だったり、VMAXだったり、Vmaxだったりしている。ヤマハの公式サイトでもこれらが混在しており、最早正解がない状態だ。ただ2代目はVMAXで統一されている。

あえて紹介、初代の欠点

現代マッスルバイクの(X)ディアベルV4と比べると、初代VMAXはアメリカンに近く、もしかしたらドラッグの要素が薄いと感じるかもしれない。初代VMAXはエンジンが強調されすぎていて、しかもその上にダミーのエアインテークが鎮座しているので、タンクを模したカバーがとても薄い。そして本物のタンクはシート下に埋め込まれているので、車体中部もボリュームがある。サイドカバーがとても大きい。さらに後部もそれなりにボリュームがある。

(初代VMAX)

フロントフォークの細さも、マッスルのイメージから離れているかもしれない。これらのネガティブ要素は、40年という恐ろしく長い時間が生んだものだろう。

ただ、これらのネガティブ要素を軽く凌駕する魅力が、このバイクにはある。私は、初代VMAXは、誕生した瞬間に最高のデザインを手にしたと感じている。その根拠を探してみよう。

黄金比をつくった

初代VMAXの誕生前夜、ヤマハはアメリカでの販売に苦戦していた。それでヤマハは開発陣をアメリカに派遣した。彼らが「これぞアメリカ」と感じたものこそドラッグ・レースだったのである。

ヤマハはドラッグが持つ速さの要素をV型DOHC4気筒にエンジンに盛り込んだ。ヤマハは、ドカティが最近になってようやくつくったV4を40年も前に使っていたのだ。(X)ディアベルV4と比べると、ヤマハの狂気ぶりはさらに際立つ。


初代VMAXディアベルV4XディアベルV4
排気量1,197㏄1,158㏄1,158㏄
最高出力145ps168ps168ps
最大トルク12.4kgm12.8kgm12.8kgm
装備重量283kg223kg(燃料除く)229kg(燃料除く)
ホイールベース1,590mm1,593mm1,620mm
シート高765mm790mm770mm

初代VMAXが目立って劣るのは最高出力ぐらいで、最大トルクはほぼ互角。ホイールベースとシート高の値がそれほど変わらないのでロー&ロングの具合も同等といえる。

そう、(X)ディアベルV4は、初代VMAXをベンチマークにしてつくられたのではないか、と疑われるほど両車は酷似しているのだ。あるいはこういってもよい。

初代VMAXはマッスルバイクの黄金比を有していた、と。

だからこそ「VMAXは誕生した瞬間に最高のデザインを手にした」といえるのである。

参考:https://bike-lineage.org/yamaha/vmax/vmax12.html

妥協なき2代目

初代VMAXはデビューした瞬間に人気バイクになったわけだが、ヤマハはかたくなにフル・モデルチェンジを拒んできた。2代目の開発に実に23年(=2008年-1985年)もかけた。2代目の開発リーダーは3人も変わったそうだ。ヤマハはそれくらいVMAXを大事に育ててきた。

エンジンはなんと新設計。初代のVの挟み角は70度だったが2代目は65度である。「なんと」と驚いたのは、汎用性が相当低いうえに開発コストがかさむ巨大V4エンジンを1からつくったからである。例えばMT-07のエンジンはXSR700にもテネレ700にもYZF-R7にも流用しているが、VMAXのエンジンなんて簡単には使い回せない。

そして妥協のなさは天井知らずだ。開発陣が「これでいいだろう」と思ったところに、高性能のヒューエル・インジェクション(FI)が登場したので、これを搭載することになってつくり直した。それでも足りず「よし完成した」となっても、誰かが「もっとパワーが必要だろう」と言ったせいで、エンジンだけでなくフレームと足回りも見直すことになった。

(2代目VMAX)

性能面の紹介はこのへんにしておく。本稿の目的であるデザインについて細かくみていこう。

バラバラな個性をまとめてみせた

2代目VMAXのデザインを手がけたのは、初代に引き続きGKダイナミックス(以下GK)である。GKは独立した会社だが、ヤマハのバイク事業部のデザイン部門のような存在である。2代目のために描いたスケッチの枚数はGK史上最多だったという。それくらいヤマハ側はOKを出さなかったし、GK側も粘った。2代目はデザインでも天井知らずの妥協のなさだったのである。

GKで2代目を描いた一条厚氏はこう言っている。

「初代VMAXはアメリカン・スピリットがテーマだったが、新型VMAXは日本の造形美を意識した」

日本の造形美とは、具体的には金剛力士像だった。金剛力士は仏教の守護神で、口を開けた阿形(あぎょう)と口を結んだ吽形(うんぎょう)の2体で1対となっている。それを偶像化した金剛力士像は寺院の表門に配置されている。

(重要文化財、金峯山寺の金剛力士像。左が吽形で右が阿形。奈良国立博物館から)

金剛力士像と2代目VMAXの共通点は、力強く荒々しいのに、必ず丸みを帯びているところだ。2代目で本物になったエアインテークも、サイドカバーも、マフラー・エンドも、テールカウルも、もっこりとした筋肉質なのに柔らかそうなくらい丸い。

(2代目VMAXの各パーツ。必ずもっこりしていて丸い)

全体としてはきちんとバランスが取れているのだが、1つひとつのパーツが驚くほど独立している。つまりつながっていないのだ。小さい写真でXディアベルV4と並べてみると、2代目VMAXのその特徴がよくわかる。

XディアベルV4は、タンク形状もシート形状もシートカウル形状もマフラー形状も、長い線の上にのっていることがわかる。一方の2代目VMAXは、個別にデザインした部品を取って付けたように配置している。

ボディビルダーの体を観賞するときに、「まず胸の筋肉をみて、次に上腕の筋肉をチェックして、それから腹筋を堪能して、太腿の筋肉に目を移す」といったように1つひとつ確認するが、2代目VMAXでもそれが可能なのだ。

それなのに2代目VMAXは、全部の部品が合わさるときちんと1つの作品になり、しかも格好良い。こんなライン、よく出せたなと感心する。イメージとしては、XディアベルV4は「1人の天才デザイナーが5分で引いた」的なラインであり、2代目VMAXは「複数の秀才デザイナーが議論を戦わせて引いた」的なラインである。

参照:

https://global.yamaha-motor.com/jp/showroom/cp/collection/vmax1200

https://global.yamaha-motor.com/jp/showroom/cp/collection/vmax1200/img/1990_VMAX.pdf#view=FitH&page=1

https://news.yamaha-motor.co.jp/2011/001745.html

https://bike-lineage.org/yamaha/vmax/vmax.html

https://www.narahaku.go.jp/wordpress/wp-content/uploads/2021/03/20210222kinpusenji.pdf

https://response.jp/article/2009/03/16/121788.html

まとめに代えて~3代目VMAXビジネスモデル

2代目VMAXの概要を加えて表を完成させてみよう。


初代VMAX2代目VMAXディアベルV4XディアベルV4
排気量1,197㏄1,679㏄1,158㏄1,158㏄
最高出力145ps151ps168ps168ps
最大トルク12.4kgm15.1kgm12.8kgm12.8kgm
装備重量283kg311kg223kg(燃料除く)229kg(燃料除く)
ホイールベース1,590mm1,700mm1,593mm1,620mm
シート高765mm775mm790mm770mm

2代目VMAXが圧倒的であることがわかる。2代目VMAXの完璧なデザインは、これらの迫力ある数値からしか生まれえなかっただろう。

ではマッスルバイク対決はヤマハの勝ちなのか。そうではないだろう。なぜならヤマハはVMAXの生産をやめてしまったからだ。コーナリング性能がよいわけではなく、乗りやすいわけではなく、安価なわけでもなく、便利なわけではないマッスルバイクは要するに売れないバイクだ。ヤマハは至宝のごとくVMAXをつくってきたわけだが、売れなくなってつくるのをやめてしまったのである。

一方のドカティは、売れるようにディアベルをつくってきた。売れる商品をつくることは難しいが、売れ続ける商品をつくることはさらに難しい。ドカティはその難しいビジネスを、ブランディングによって成功させている。

初代VMAXは100万円を大きく切り、2代目でも200万円少々でしかない。安い。安すぎる。デイアベルV4は300万円を超え、XディアベルV4は330万円もする。つまりドカティのブランド力は300万円のバイクを世界中で売る力があるが、ヤマハ・ブランドにはそこまでの力がないのだ。

私は、ヤマハは、3代目VMAXをつくるべきだと思う。そして、そのときは1,000万円で売れるようにすべきだろう。1,000万円なら、年100台売れば年商10億円になるから、ヤマハほどの大企業でも十分ビジネスになる。

2代目は完全受注生産にしたが、3代目も踏襲するのだ。そのうえで、発注したオーナーをヤマハ本社に招き、全身を採寸してシート高やハンドル形状やステップ位置をセミオーダーできるようにする。さらに「20年間は転売しない」旨の誓約書を書かせるのだ。

VMAXという商品には、フェラーリのようなビジネスができるポテンシャルが備わっていると思うから、このような破天荒な提案をするのである。

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この記事を書いた人

●著者紹介:アサオカミツヒサ。バイクを駆って取材をするフリーライター、つまりライダーライター。office Howardsend代表。1970年、神奈川で生まれて今はツーリング天国の北海道にいる。
●イラストレーター紹介:POROporoporoさん。アサオカの親友。

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