中免マンが大型免許を取った想い~憧れとオトシマエか

私は、Bikefunに2023年10月に投稿した記事「大型二輪免許をまだ取らない理由」で、大型免許は来年も取らないだろうと予測していた。ところが2024年4月に取ってしまった。シタノネノカワカヌウチとはまさにこのことであるが、これには深い想いがある。

当方54歳。もし似た年齢の人が大型免許を取ろうかどうか迷っていたら、私の想いが決断の参考になるかもしれないので紹介しようと思う。

大型バイクへの憧れも動機の一つだが、それよりもオトシマエをつける目的のほうが強い。

なお、大型免許の教習の様子は記事「おっさんの大型免許取り」に記したので、こちらもあわせて読んで欲しい。

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目次

まずは言い訳から~中型で十分だと思っていた

バイク乗りで、心の底から大型免許を要らないという人はいないだろう。中型免許や小型免許があればいいやと思っている人は、本音は大型免許を欲しつつも何か事情を抱えているはずだ。

私が「中免マンのままでいいや」と思っていた事情は次のとおり。

事情1:中型バイク(400㏄まで)で十分だと思っていた
事情2:技術も体力も足りず、大型バイクは持て余すと思っていた
事情3:資金が豊富なわけではなかった
事情4:大型バイク・コンプレックスが強かった

中型バイクで十分だったし、技術も体力も低レベル

私は、今保有しているスズキ隼(初代)の前はヤマハSR400に乗っていて、かつてはカワサキGPZ400Rを持っていた。この経験から中型バイクでも十分に私にバイクの喜びを与えると知っていた。

そして中型バイクで十分と感じたもう一つの理由は、私の技術と体力が高くないことだ。私は身長173cm、体重90kgと体格は申し分ないのだが、いかんせん運動神経がない。バイク走行はスポーツの要素が多く含まれているので、運痴が大馬力バイクに乗るのは危険だ。さらに体力レベルが低いから大型バイクの取り回しに苦労することは明らかだった。取り回しが面倒だとバイクに乗る機会が減ると思った。

資金の不安

資金面の不安も大型バイクに二の足を踏ませた。乗り出し価格70万円くらいのSR400ならなんとか新車を購入できたが、100万円を軽く超えて、ちょっといいなと思うと簡単に200万円に到達する大型バイクは新車で持てない。

せっかく大型バイクを保有できてもボロボロでは寂しい。それなら見栄を張らずに中型ライダーでいたほうが潔いというものだ。

コンプレックスによるいじけ

高校生のころ、私の年代のバイク乗りのバイブルといる「バリバリ伝説」を、私も読んでいた。とても面白い漫画なのだが、ひとつ引っかかっていたことがあった。

「主人公の巨摩郡って、高校生で大型免許を持っているんだよなあ」と。

漫画の登場人物に嫉妬することほど馬鹿げたこともない。しかし当時は試験場一発時代だったのでリアル世界でも若い大型免許ホルダーは神的な存在だった。私のなかに大型免許ホルダーへのコンプレックスがあった。

私は中免マンのまま10代を終え、20代30代40代も終わり、50代に入っていた。ものすごく強く「今さら大型免許を取ってもな」と思ってしまっていた。なんてことはない、いじけていたから大型免許に挑戦しなかったのである。

大型取得理由①Bikefunでバイク記事を書く以上は

中免マンでいることに満足していた私が、大型免許を取らねばと思った要因はいくつかある。

その一つが、このBikefunへのバイク記事の投稿である。

当初は中免マンでも支障はなかったが

私は当初、中免マンだからこそみえるバイクの世界というものがあると思っていた。そして世の中に中免ホルダーは一定数いるので、中免マンが書いたバイク記事はBikefunでニーズがあると思っていた。

そして実際に、中型バイクに関して書くべきことは多く存在したし、バイク情報さえ集めていれば保有免許の種類は執筆内容に影響しなかった。中免マンのまま大型バイクに関する記事を何本か書かせていただいき、支障はなかった。

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考察するには大型免許が必要だった

ところがさらにバイクと向き合う機会が増えると気持ちが変わってきた。

例えば、バイク記事を書いていないときは「バイクっていいな」と思っているだけでよかったが、執筆したバイク記事の本数が増えるにつれて「バイクの何がいいのか」を検討しなければならないと思うようになったのだ。

バイクについて考察するとき、手持ちの札は多いほうが有利だ。したがって大型免許という札もなく、大型バイクに乗った経験という札もない私は「バイクを考察するのに不利だ」と感じるようになっていたのである。支障を感じ始めたといってよい。

バイクに真剣に向き合っている人に距離を感じた

Bikefunに記事を投稿させてもらうようになってから、バイクに真剣に向き合っている人と出会う機会が増えた。

「バイクと真剣に向き合う」なんて、いかにも昭和ロマンぷんぷんな恥かしい言葉であると、令和ライダーは思うかもしれない。しかし犬が犬好きの人をみわけるように、私がバイクにのめりこめばのめりこむほど、私よりはるかに真剣にバイクのことを考えている人と知り合えるようになった。

ところがそのような人たちのバイク観はとても深く広く、話が理解できないことがあった。このとき「こういう人たちとバイクについて語り合いたい。それには最低でも大型免許は必要だな」と思えたのである。

大型取得理由②中型バイクの貧弱なラインナップ

2021年、ヤマハがSR400の生産を終わらせた。私はその3年前の2019年にSRを買っていたのだが、このバイクを選んだのは中型バイクの新車でこれしか欲しいものがなかったからである。したがってSRがなくなったことで、私が求める中型バイクが新車市場から消え去ったのである。

ホンダもCB400SFの生産を終わらせ、4気筒の中型バイクをつくらなくなった。

カワサキは中型バイクに力を入れている唯一のメーカーといえ、クルーザーのエリミネーターや4気筒のZX-4Rを新規に投入してきた。それでも私には、これらのバイクが、カワサキの本気とは思えなかった。

私にはバイクメーカー各社が「中型バイクならこれくらいでいいでしょ」と言っているように聞こえてしまうのだ。そんなバイクに乗りたくない。中型バイクの貧弱なラインナップに強い不満を抱くようになっていた。

80年代のNSRは本気の中型バイクだった

私に限らず、1980年代に最強中型バイクを経験しているバイク乗りなら、現行の中型バイクのラインナップに貧弱さを感じているのではないか。だからこそ私は、2015年に20年ぶりにリターンしたとき、新車ではなく1989年製のド中古のNSR250Rを買ったのである。

そしてこのNSRに乗ってみてあらためて1980年代の中型バイクのすごさを知った。その目で現行の中型バイクをみると「このなかに俺のバイクはない」と思えてしまうのだった。

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もう中型バイク市場にいたくなかった

バイクメーカーが中型バイクづくりに本気を出さないのは当然だ。新型バイクをつくるコストは、大型バイクも中型バイクも変わらない。しかし中型バイクの値段を100万円にすると「高すぎる」と批判されるのに、大型バイクに200万円の値札をつけても「これだけの性能とクオリティなら仕方がない」と言ってもらえる。

こんな市場環境で、バイクメーカーが、中型バイクをつくるモチベーションを持てるはずがない。それは理解できるが、しかしそれはバイクメーカーの都合であって私の都合ではない。顧客である私は、バイクメーカーの力が入らず魅力が低下した中型バイク市場から出ていくことにしたのである。

大型取得理由③最後のバイク探し

最近は70代の現役ライダーも珍しくなくなった。しかしバイクはやはり体力と感覚で乗るものだから、加齢は操縦には不利になる。したがって50代に入ると最後のバイクを検討したくなるものなのである。

「SRでいいや」が「やっぱりSRで終わりたくない」に

大型免許を取る直前までSRに乗っていて、これが最後のバイクになってもいいと思っていた。それくらい奥深く良いバイクだった、SRは。

ところが満足しながらも、装備重量わずか175kg、最高出力わずか24馬力のバイクを「完全に制御できている」という印象もあった。つまりSRに乗り続けても、私のバイクスキルは成長しない、と思い始めたのである。

「バイクに乗ることができるのは長くてあと20年か。でもガンガンに乗れるのは10年そこそこか。だったら…」と思わないわけにはいかなかった。

ただ、もしかしたら15年後に中古のSRを買うかもしれない。それくらいSRは良いバイクだった――ということは強調しておきたい。

大型取得理由④とにかく安い2000年前後の大型バイク

ここまで紹介してきた3つの理由で大型免許を取るベースができていたので、次に紹介する4つ目の理由で決定打になった。

2000年前後に発売された中古大型バイクが今、大バーゲンセールにある。

私が2024年1月に購入した2001年型のスズキ隼(初代)は、走行距離9,000kmで車両本体価格わずか55万円(税込、以下同)。ネットオークションより割高な、中古販売店で買ってもこの値段だ。

私の初代隼はさすが23年モノでカウルに穴が空いているが、それでもバイクの価値を考えると相当安い。「大型バイクを保有できてもボロボロでは寂しい。それなら見栄を張らずに中型ライダーでいたほうが潔い」という考えが吹き飛んだ。

スペシャルなバイクが50万円

昔のバイクの価格が高騰していると思われがちだが、それは空冷Zや2スト・クオーターのような特殊なバイクだけ。不人気車種はもちろんのこと、発売当時は人気があったがとうとうレジェンドになれなかった中古バイクは驚くほど安い。

2000年前後の中古大型バイクの価格は今、以下のようになっている。

・CB1300SF、2001年型、走行31,000km、55万円
・XJR1300、2000年型、走行24,052km、49万円
・ZZ-R1400、2006年型、走行38,125km、53万円

(大手中古バイク紹介サイトから引用して一部修正)

大型バイクは馬力があるから頑丈につくられている。そのため10万kmは簡単に走る。したがって2万~4万km走行車はまだまだ現役だ。

上記の価格は車両価格なので、これにさらに諸費用が5万円くらいかかるし、中免ライダーが大型免許を取るには10万円の自動車学校代がかかる。それでも総額70万円で済み、20年前のものとはいえこれだけスペシャルなバイクが手に入るのである。

私は、私が買うことになる初代隼の値札をみたとき、「ああ、これでもう大型バイクを買わない理由も、大型免許を取らない理由もなくなった」と覚悟した。

まとめ~取らなくてもよいが取ればもっとよい

大型免許を取ると決断したときに決めたことが一つある。それは排気量マウントを取らないこと。排気量マウントとは、大型バイク乗りが原付・小型・中型バイク乗りを見下す態度のことだ。

しかし大型免許を取得できて大型バイクにまたがった瞬間に、排気量マウントを取らないことは無理だと悟った。私は一瞬で、大型バイクは、中型以下のバイクとは別物であると悟ったのである。

40年近く中免マンをやってきた私だからいえる。バイクが好きな人が、大型免許を取れない事情がなくなったら、大型免許を取ったほうがよい、と。

中型バイク・ライフでも十分楽しい。しかし大型免許を取ればもっと素晴らしいバイクの世界がみえるはずだ。

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この記事を書いた人

●著者紹介:アサオカミツヒサ。バイクを駆って取材をするフリーライター、つまりライダーライター。office Howardsend代表。1970年、神奈川で生まれて今はツーリング天国の北海道にいる。
●イラストレーター紹介:POROporoporoさん。アサオカの親友。

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