2月某日。「明日は季節外れの暖かさがやってきます。」とニュースの天気予報を聞いて、バイクに乗ることを考えずにはいられなかった。そうだ、淡路島を走ってみよう。走るなら明日だ。せっかく走るなら島を行ける所まで、時間の許す限りで1周してみよう。ふと思い立った私は翌日の朝8時過ぎに自宅を発ち、愛車・CL250で淡路島へと向かった。
明石海峡大橋を渡って淡路サービスエリアで休憩!
私の家から淡路島へ向かう最短ルートは中国自動車道宝塚ICから阪神高速7号北神戸線を経由して、神戸淡路鳴門自動車道に入るルート。朝早い時間帯、六甲山の北側を通って海側へと抜けるルートとあってかとても寒い。またこのルートは上り坂が多く、250㏄のCL250は精一杯エンジンを回して走っているという印象だった。しかし渋滞は少なく、スムーズに40~50分ほどで明石海峡大橋を渡って淡路島に到着できた。
と言っても、さすがに1時間弱バイクに乗りっぱなしだったので疲れた。明石海峡大橋を渡ってすぐの淡路SAで少し長めの休憩をとることに。早速バイク駐輪場からは明石海峡大橋が一望できる絶景。バイク越しに写真を思わず撮ってしまった。
明石海峡と空の鮮やかな青さが印象的な眺めだ。向かいには本州側の垂水・舞子、明石の街並みが見える。また、大阪湾の方向に目をやると須磨の山や神戸の市街地がうっすらと見え、グッと都会を離れて遠くまで来たなと感じる。しばらくボーっと眺めて、写真を何枚か撮った。
写真を撮った後、冷えた身体を温めたいと思ったのでSAにあったスターバックスコーヒーに立ち寄ることに。ブレンドコーヒーを一杯、明石海峡大橋とともに。関西で一番眺めの良いコーヒーブレイクが出来るスタバだと思った。
国道28号線で伊弉諾(いざなぎ)神宮へ
淡路SAで休憩を済ませ、いよいよここから淡路島を一周していく。淡路ICで高速を降り、下道へ。淡路島を東周りで一周することは計画していたため、ICから東海岸沿いに続いている国道28号線に入ってまずは洲本方面へ南下することに。国営明石海峡公園を横目に東浦の港町を抜ける。道路は淡路市街の中心部に入る前に海岸線近くを通るため、潮風を肌で感じながらバイクを走らせていた。海が太陽に照らされていて美しい。停まることの出来る場所があったのでここでもまた写真を一枚。水平線と太陽とバイク、良い一枚だ。
再びバイクを走らせて淡路市の中心部に程近い志筑(しづき)までやってきた。すると右手の山側に向けて『伊弉諾(いざなぎ)神宮7km』の看板が見えた。少し寄り道にはなるがこれからの旅の無事を祈りたいと思い、伊弉諾神宮へ立ち寄ることに。
志筑から約20分で伊弉諾神宮に到着した。伊弉諾神宮は『古事記』・『日本書紀』の冒頭「国生み神話」に登場する国生みの大業を果たされた伊弉諾尊(イザナギノミコト)と伊弉冉尊(イザナミノミコト)の二柱をお祀りする神社である。なんと『古事記』・『日本書紀』に記載がある中では全国で最も古い神社であるらしい。白い鳥居がお出迎えしてくれた。
そこから延びる参道を進み、その先にある本殿で参拝させていただいた。
すると参拝途中、急に陽射しがそれまでより強くなったように感じた。背中にあたるそれで体がカッと熱くなり、力がみなぎってきたような気がしたのである。気のせいかもしれないが、さすが由緒ある神社、パワースポットである。このパワーに思わず感動した私は、絵馬も奉納させていただいた。どんな願いを込めて奉納したのかは皆さんのご想像にお任せ。最後におみくじも引き、結果は中吉。客観的にはなんとも中途半端な結果だが、内容はとてもためになり、自らを律してくれる素敵な言葉がたくさん記されていた。個人的にはとても良い結果だったと思う。
伊弉諾神宮での参拝を終えて、再び志筑から国道28号線に戻った。志筑を過ぎると淡路市と洲本市の市境が近づく。この市境の区間も海沿いを走るため、海岸線まで迫る山の緑と真横に広がる青い海のコントラストが美しい。この区間にもバイクを停められる場所があったため、またもや写真を撮影。
ここには海を眺められるベンチもあったので、少し小休憩。洲本の街はもうすぐである。
海あり山あり絶景あり!出会いと冒険の南淡路水仙ライン
洲本の街までやってきた。淡路島の東海岸もここまでで約半分である。全体で見れば、まだ4分の1ほどではなかろうか。この先国道28号線は南あわじ市方面へ向けて、内陸部の三原平野を進んでいく。そのためここからは国道28号線とお別れし、東海岸を引き続き進む南淡路水仙ラインという道を走っていった。
南淡路水仙ラインに入るとすぐに洲本港に到着する。港が近いこともあってか、商業施設が多く、ここまでで一番の都会だなと感じた。港を通り抜けて進んでいくと広い松林とその奥に砂浜が見える。ここは大浜海水浴場というらしい。立ち寄ってみることにし、バイクを停めて砂浜に向かう。すでに向かっている段階から白砂青松の美しさが感じ取れるのが印象的だった。
松林の中には石碑が建っており、『洲本大浜 名勝千本黒松』の文字が見えた。
松林を抜けると穏やかな波の音。エメラルドブルーの海。白い砂浜に振り返ると青々とした松並木。さらにその奥には三熊山が見える。「そりゃあ名勝になるわな~」と心の声が漏れてしまった。平日のお昼過ぎという時間帯もあってか人通りも少なく、本当に波の音だけがBGMだった。
このまま洲本大浜で波の音を聞きながらずっと佇んでいたい…という気持ちも山々だったのだが、どうやらこの先に生石岬という場所があるらしいので直近の目的地をそこにして向かうことにした。
大浜の海水浴場を過ぎると洲本の市街地からは離れ、リゾートホテルが立ち並ぶエリアに入った。1泊2日でツーリングとかもしてみたいなとふと考えていた。
そのエリアも過ぎると今度は由良という地域に入る。由良はどちらかというと漁港の町という印象を受けた。このあたりから南淡路水仙ラインは地元住民の方々の生活道路という側面が強くなっていく。とは言え、のどかでどこかノスタルジックな雰囲気漂う由良の町をのんびりバイクで走るのは普段ではできない新鮮な経験だった。
由良の町を過ぎると道幅がグッと狭くなり、道は海沿いから山の中へと入っていく。
『← 生石公園』の看板が見えた。分岐を矢印の方向へ曲がり、急な坂道を登っていく。さすがはオンオフ問わないスクランブラーのCL250。ヘアピンカーブからの急坂を駆け上がる時のエンジンの粘り強さが素晴らしい。坂道を上った先には生石公園があり、その中に生石岬の展望台がある。
生石岬は地理的に大阪湾の入り口である紀淡海峡を望む位置にあるため、展望台に向かうまでには旧日本陸軍の要塞跡も見ることが出来る。このような軍事拠点としての歴史が今も残っているのは興味深かった。
展望台に到着すると、目の前には紀淡海峡といくつかの島が見える大パノラマ。その中で最も大きく見える島は和歌山県の友ヶ島である。友ヶ島から右側、南側の海の向こうには街が見える。案内板によると和歌山市街とのことだった。淡路島と和歌山が海峡に面して隣り合っているというのはちょっと意外だった。ここにも橋を架けたら、和歌山まですぐなのに…と想像を膨らませる。
生石岬の絶景をバイクとともに写真に収めていると、私のバイクの横に車を停めていた一人のご年配のお父さんが僕にお声をかけてくださった。私のバイクに興味を持ってくださり、自分のバイクについて色々とお話しさせていただいた。そのお父さんは地元の方で、この生石岬には時間があるとよく自分の好きな船を見に来ることやお父さん自身、若い頃にバイクに興味があったものの周囲に反対されてバイクに乗ることは叶わなかったことを話してくださった。
「なんでも若いうちやで。」
バイクの話をお互いにした最後にお父さんがかけてくださった一言である。とても含蓄のある深い一言に感じた。自分はバイクに乗ることがなかなか叶わなかった人達の思いも一緒に乗せて走っていこう、バイクを大切にしていこう、経験や自分の気持ちを大切にしていこうと思った。
またお父さんの話によれば、生石岬を通る船はすべて関門海峡や瀬戸内海を通って大阪湾に入ることが困難な大型の貨物船やタンカーであるらしい。この話を聞いていたまさにその時、目の前の海を大阪湾の方向に一隻のタンカーが横切っていった。お父さんはそれを手に持っていた大きな双眼鏡で眺め、それから私の存在を忘れたかのように通りすぎる他の船もずっと眺め続けていた。
好きなものを何歳になっても夢中で追いかけられる人は格好良い。船を眺めるお父さんの姿を見て、心からそう思った。初対面の私に優しく話しかけてくださったお父さんに改めて最後に感謝の言葉を伝えさせていただき、岬を後にした。今回の旅で一番の素敵な出会いだった。お父さん、本当にありがとうございました。
生石岬を後にして、再び南淡路水仙ラインに戻った。道はさらに山深くなり、峠道のアップダウンとワインディング連発の区間に突入だ。さっきまで景色の良い海沿いを走っていたが、急に運転に緊張感が増した。たまに対向車もやってくるので、ここを通る方は安全運転第一で。
そんな区間を抜けると、再び海沿いを走る。山とその切り立った崖が海岸線まで張り出しており、道は海とその崖の間の防波堤の真横を通っていく。こんなのが南あわじの市街地手前にあるゆるやかな勾配の峠道まで続く。水仙ラインというよりはアドベンチャーラインだった。
道の駅福良で昼休憩
ようやく南あわじの市街地に入った。国道28号線と再び合流する地点で南淡路水仙ラインは終了。そこからは淡路サンセットラインに入るのだが、すでにお昼をまわっていてお腹はペコペコである。国道28号線の淡路島南端にある福良港、そこにある道の駅福良へ昼休憩を兼ねた寄り道をすることにした。道の駅福良は隣接する福良港から鳴門海峡の渦潮を見学できる『うずしおクルーズ』なる観光船が出ている。
そのためか私のようなバイカーや観光客の人で賑わっていた。近くに足湯があったので入ってみた。温かいお湯がここまでバイクに乗りっぱなしで疲れた私の足を癒してくれ、最高の気分だった。お昼ご飯は道の駅の隣にあった海鮮丼のお店で1500円のとろサーモン丼を美味しくいただいた。
お店を出て、空を見上げると陽がゆっくり西に傾いてきていた。ここから淡路島西海岸、後半戦突入だ。
淡路島後半戦!淡路サンセットラインで夕陽を追いかける
福良の港を後にして、今回のツーリングも折り返し。いよいよここから淡路島西海岸を走る淡路サンセットラインで明石海峡大橋方面へ戻っていく。西側の海沿いに出るまでは南あわじ市平野部の田園地帯をひた走る。名産の玉ねぎ畑が広がっている所もあり、淡路島らしさを全身で感じながら走った。
田園地帯を抜けると海岸線に出た。しばらく走っていると、再び大きな松並木が海の方面に見えた。調べてみると慶野松原という場所らしい。海水浴場で海も見ることが出来そうだったので行ってみた。バイクが停められる駐車場は目の前が砂浜と海。また傾き始めた陽の光に反射する水面と広がる松林、水平線が美しく調和していた。
そんな場所でバイクとともに写真を一枚。
ここでもバイクにまたがって、ぼんやりと目の前に広がる景色を眺めていたら本格的に日が傾いて夕日になってきた。日没までには淡路島をほぼ一周したいため、ゆっくりしたい気持ちをおさえて先に進む。
淡路サンセットラインは慶野松原を抜け、海岸線近くをずっと走る。国道28号線や南淡路水仙ラインに比べて、市街地や山あいに入る区間が少ないのが特徴的だった。バイクのミラーに水平線と夕日を感じて、心地よい海風を浴びながら走るのがとても楽しい道だった。対向車線からは反対方向へ行くバイクと何台もすれ違い、そのすれ違いざまに手を振り合ったりした。一期一会で一瞬なコミュニケーションもバイクに乗る醍醐味の一つだ。
途中小休憩を挟みつつ、淡路サンセットラインをひたすら北上。洲本を越えて淡路市まで戻ってきた。ここまでくると明石海峡大橋や高速道路も近いせいか、おしゃれなテラスのあるオープンカフェが軒を連ねるようになってきた。一つのカフェが駐車場とお店で道をまたいでいることもあるので、急な歩行者の飛び出しには十分気を付けなければならないエリアである。
そのうち進行方向に広がる海の向こうに街が見えた。本州の明石や神戸の街並みだ。程なくして右カーブを抜けると朝、渡ってきた明石海峡大橋が目の前に見えた。淡路市の北端、岩屋の港町に入ったのである。ついにここまで戻ってきたのである。
ほぼアワイチ達成!
岩屋の町は明石海峡大橋のたもとである。感覚的には見上げると明石海峡大橋という感じだ。夕日は80%ぐらい水平線の向こうに沈み、空はワインレッドのような夕焼け。淡路島ほぼ一周にまる1日かかったのだと実感した。
この岩屋の町を過ぎれば朝降りた淡路ICなのだが、夕方で冷え込んできていたせいか、高速道路に入る前に少しトイレ休憩をとりたいと思い、明石海峡大橋の真下にある道の駅あわじに寄った。残念ながら道の駅自体は営業時間を過ぎていたので営業していなかったが、隣接する明石海峡大橋をそのたもとから望む公園には行くことが出来たので、トイレを済ませたあとに休憩がてら行くことにした。
改めて近くで見る明石海峡大橋は大きい。対岸の垂水や明石の街明かりが見えた。去年の10月に行ったツーリングでは対岸の舞子公園から明石海峡大橋を眺めていたから、今回のツーリングで明石海峡の両岸は制覇である。
道の駅を出発し、淡路ICから高速に乗った。出口と入口が同じところにあるため、朝高速を降りて最初の交差点を左手に曲がった私が、夕方にはその交差点を右方向から高速に乗っているのが少し面白かった。本当に淡路島をまわってきたのだなと実感した。そのタイミングでピッタリ日没を迎えた。さよなら淡路島。また来ます。