ヤマハSR400はカスタムのベースになりやすいバイクだ。構造が単純で改造しやすいし、単調なデザインは「変えたい」欲を強めるのだろう。
しかし私は、2019年の購入以降ノーマルでSRに乗っている。バイク仲間からカスタムすればいいのにといわれるが頑(かたく)なに原形を貫いている。その理由を説明したい。
SRがカスタムの餌食になりやすい理由
「SRが好きだ」と言う人は、SRそのものが好きな人と、カスタムの素材として好きな人にわかれるようだ。私は前者であり、後者でもある。
ノーマルで乗られることが多いバイクのオーナーは、わざわざ「ノーマルで乗っている」とは言わないだろう。私がわざわざ「ノーマルSRに乗っている」と言うのは、それくらいSRのカスタムが頻繁に行われているからである。
SRミーティングでも、カスタムばかりが並ぶ。私はバイク仲間から、SRなのになぜカスタムしないのか、といわれる。
そこで、私がノーマルSRに乗る理由を紹介する前に、SRがカスタムの餌食になりやすい理由を考えてみたい。
構造が単純で改造しやすい
「餌食」という言葉は乱暴に聞こえるかもしれないが、バイク・メーカーからすると、故障していないのに部品を変更されてしまうことは、否定にほかならない。SRはチョッパー、ボバー、モトクロス、スクランブラーなどに変えられ、原形をとどめないものが多く、つまり大否定されている。これくらいやられていると、餌食になっているといえよう。
SRの構造の単純さは、バイクいじりのスキルが低い人にも「自分でもできそうだ」と思わせる。SRはみるからに部品の取り外しが簡単だ。
そしてSRは単気筒だから、エンジンの調整は1回で済むし、調律も要らない。例えば4気筒なら調整は4回必要だし、すべての気筒が調和していないとならないので調律が難しくなる。したがってSRが単気筒であることも「改造してしまえ」という気持ちを誘発させる。
単調なデザインで「変えたい」と思わせる
SRほど単調なデザインを持つバイクはない。これは私のノーマルSRであるが、これを説明するのに「タイヤが2個あって、その間にエンジンがあって、その上にタンクとシートがのっている」で済んでしまう。
単調さは自己主張しないから、オーナーは自身のオリジナリティを求めたくなる。
そして単調な部品は得てして格好悪い。SRのウインカーレンズは丸くて大きい。みていると「ボテッ」と聞こえてくるほどだ。
そしてリアフェンダーの大きさ。しかも鉄製だ。クラシカルやレトロを売りにしないバイクで、こんなリアフェンダーをつけているものはない。
安い
SRの安さも、カスタム意欲を高めてしまう。高額バイクだといじって失敗したときのダメージが大きいからカスタムがためらわれてしまうが、低額バイクなら「失敗してもいいな」と思わせる。SRをカスタムの練習台にしている人もいる。
SRは新車でも60万円程度だったし、中古は少し前は30万円くらいで買うことができた。今は生産中止となって中古にもプレミアム価格がつけられているが、それでも原価の安さは相当なものだからSRブームが沈静化すれば価格はこなれてくるだろう。新車SRは増えなくても、カスタムSRは増えていくのではないか。
カスタムが多すぎるからノーマルが貴重
さて本題に入ろう。なぜ私がSRをノーマルで乗るのか。
第1の理由はカスタムSRが多すぎてノーマル状態が貴重だからである。
つまり私の感覚では、ノーマルSRの価値はかなり高い。
ノーマルこそラジカルだ
なぜ人々はカスタムを施すのか。それは自分だけの1台が欲しいからではないか。自己表現をしたいからではないのか。
ところがSRには定番のカスタムが存在する。
前後のフェンダーを短くして、マフラーをうるさいものに変えて、小さいウインカーに替える。大体これが初期のSRカスタムである。
これに飽きてくると、次はバックステップをつけて、セパハンにして、シートを替える。これが中期のSRカスタムである。
このようなルートにのったカスタムが、定番カスタムだ。
しかし「定番」や「ルート」は、「自分だけの1台」や「自己表現」から最も遠い概念なのではないか。つまり「定番カスタム」という言葉は矛盾している。
SRカスタムが定番化、ルート化してしまった今、ノーマルであることがむしろラジカルである。
と思うのである。
こだわらないようにみせてこだわる
私がSRをノーマル状態で乗り続ける第2の理由は、ノーマル部品の質の高さである。
カスタムをするということは、ヤマハが丹精込めてつくったハイクオリティ部品を捨てることになり、私にはできない。
中古バイクを知り尽くしたプロも「SRは質が高い」と絶賛
先日、中古バイク販売の全国チェーン店の店員と雑談していたとき、「SRはとにかく質が高い」と言われた。彼らは毎月100台以上洗車をするので、バイクをみて触って評価している。また彼らが扱うのは中古バイクなので、経年劣化の具合がわかる。
SRの部品は、素材も、精巧度も、塗装も上質で劣化しづらいという。
ノーマル・マフラーの見事なアール
冒頭のイラストは、SRのノーマル・マフラーを描いたものだが、単なる金属の筒なのに、とても良くできているのである。エンジンに接続されているエキゾーストパイプ部分は、フレームとエンジンに密接させるように曲げられている。
そしてエキゾーストパイプからつながるマフラー部分は、エンジン側からエンド側へと緩やかに広がるメガホン形状になっている。さらにエンド部分の終盤が、キュッと細まっているのが実にいとおしい。
この見事な形を超える後付けマフラーを私は知らない。
告白すると3つだけやってる
ノーマル状態をこよなく愛する私であるが、3つだけ「やってる」。
メーターバイザーとステッカー、バッグサポート
メーターバイザーと、ステッカーとバッグサポートである。
メーターバイザーをつけると、メーターの間に空間ができるので手袋をはさむことができる。積載効果を狙ってつけた。ちなみに防風効果はゼロ。
ステッカーは、この記事のイラストを描いているPOROporoporoさんにつくってもらったもので、アルコールのロゴ。LAGAVULINとLAPHROAIGとCUTTY SARKはウイスキー、ABSOLUT VODKAはウォッカ。
バッグサポートは、サイドバッグのタイヤへの巻き込み防止用であり、必要にかられて取りつけた。
3つとも簡単に取り外すことができることを申し添えておく。
下取り期待の下心もゼロではないのだが
もちろん、ノーマルのほうが下取りに有利、という知識が私にないわけではない。
このSRは新車で買ったので、せっかくなら自分の手で乗り潰したいという気持ちはある。しかし今後「最後」に相応しいバイクと出会ったら、SRを手離して軍資金にしてそれを購入する、という選択肢を持っておきたい。
だから取り外したあとに痕跡が残らないものしかつけていない。
ただし言い換えると「痕跡が残るカスタム・パーツにそれほどの魅力を感じない」ともいえる。
まとめに代えて~カスタムするならショップに任せたい
私はカスタム・バイクが好きだ。バイク・シーンのレベルを上げているカスタム・ビルダーやカスタム・ショップをリスペクトしている。
これはSRについてもいえて、カスタムSRをみるのは大好きだ。
それでも自分のSRではノーマルにこだわるのは、このバイクに込められたヤマハの想いが重すぎて、下手にいじれないから。自分にヤマハを超える力量がないなら、そのままでいよう、ということである。
もしSRをカスタムするのであれば、カスタム・ショップに任せたい。プロがつくるカスタムSRは「定番」からも「ルート」からも外れていて、ヤマハのデザイン力を凌駕しているものが少なくないからだ。