【実態解明】北海道のバイク乗りは冬に何をしているのか

私は昔、関東にいて、今は北海道にいる。だから断言できる、北海道こそ日本一のバイクの聖地であると。

しかしほとんどすべての道民ライダーは、郵便局員と一部の強者(つわもの)を除くと、冬にバイクに乗らない。雪が降るし、寒いし、路面が凍結してまともに走れないからだ。

では北海道のバイク乗りは、冬に何をしているのか。

このほど、その生態をとらえることに成功したので報告したい。

目次

11月から翌年4月まで預ける

アサオカミツヒサ

走れないことも寂しいのだが、近くにバイクがないことも喪失感を強める。バイクは眺めるだけでも結構楽しいものだが、冬の道民ライダーはそれもできないのだ。

普通の年収の道民ライダーは自宅にガレージなど持てないから、バイクは冬期間、バイク屋に預ける。冬期預かりの期間は、大体11月から翌年の4月まで。雪が降り始めるちょっと前から、雪が完全に溶けきるまでというイメージだ。

だから道民ライダーは、冬期間は完全にバイクを断つ――わけではないのだ、これが。

バイク店の展示をみに行く

冬にバイク仲間とよくやる遊びは、バイク店巡り。誰かの車に乗り、バイク店をはしごする。

バイク店巡りは、やっぱりレッドバロンが便利だ。駐車場はそこそこ広いし、店員さんに「今日はみるだけなんですけど、いいですか」と声をかければ、放置してくれる。

そして私は54歳(2024年現在)だから昔のバイクをみたいので、中古バイクを多く扱うレッドバロンはちょっとしたバイク博物館である。

品評会

バイク仲間と昔のバイクの批評をするのが楽しい。

「これ10代のころ乗っていた」とか「友達がこれで事故った」とか「これの前の型が格好良いんだよね」とか。すでにツーリング中に聞いた話や、しゃべった話も含まれるのだが、繰り返しても楽しい。

ちょっとしたマナー

私はバイク店巡りのちょっとしたマナーとして、展示しているバイクにまたがらないようにしている。無断でまたがらないだけでなく、店員さんに「またがってみてくださいよ」と言われても、1回言われたくらいでは「いえいえ大丈夫です」と遠慮する。店員さんがそれでも「ぜひぜひ」と言われたらまたがらせてもらうが。

またがらないどころか、バイクには触れないようにしている。

ファミレス・ミーティング

バイク乗りは「孤独を求める」とか言いながらすぐにツルムことで知られている。そのためバイク店巡りを済ませても、そのまま解散するのが寂しい。そこでみんなでファミレスに行く。

ファミレスを選ぶのは座席がゆったりしていて、フリードリンクがあるから。バイク仲間が4人集まれば、1人30分以上はしゃべるから最低2時間は必要で、そんなときにコーヒーやジュースをいくらでも飲めるのはすごくありがたい。

ここでもちょっとしたマナーを

私は自営業なので平日に休みが取れる。バイク仲間のある人は介護の仕事をしているので、介護は土日に出勤することがあるので、代休を平日に取れる。別のバイク仲間はなぜか仕事をしないのに収入を得ているから、やはり平日に遊ぶことができる。

私たちはファミレスに、平日の午後3時ごろに行くようにしている。店が暇だからだ。きちんとご飯を頼み、それをいただいてから、フリードリンクで2時間以上いる。もちろん夕方の客が来店し始めたら我々は帰る。

それにしてもバイク乗りはよくしゃべるなあ。

バイク仲間のガレージにお邪魔する

ガレージを持っているバイク仲間の家に集まるのも冬の風物詩になった。その人はガレージにストーブとキャンプ用の椅子を置いてくれる。

その代わりというわけでもないのだが、私たち客人はスナック菓子とか飲み物を持参する。

その人の家はJR駅からも地下鉄駅からも遠いので、かといってバスだと少し面倒なので、客人は冬は自家用車で行く。北海道は青空天然無料駐車場がたくさんあるからマイカー移動にほとんどお金がかからない。

自家用車で友人宅に集まる唯一の欠点はアルコールを飲めないこと。「こんな格好良いガレージでバイク酒を飲みたいな」といつも思う。

物欲散財まつり

冬の道民ライダーの一大イベントは物欲を全開マックスにすること。ジャンパー、手袋、ブーツ、改造用の部品、ときにヘルメットを買うのは大体冬だ。

「こんなの買ったよ」という連絡がくると、ファミレス・ミーティングを開いてバイク用品をみせあう。

ヤフオクやメルカリで格安の部品を買った者は、自宅でそれをスマホで撮影してファミレス・ミーティングの場で披露する。

メルカリで安く買って、メルカリで高く売る猛者も

自宅の不用品をヤフオクやメルカリで売るのも、冬にちょうどよい仕事だ。

バイク仲間にこの道の達人がいて、この人はバイク用の衣料やバッグや部品をメルカリで安く買って、飽きるとメルカリで売るのだが、8割以上の確率で買った値段より高く売っている。

達人は商品の価値がわかるので、本当はもっと高くても売れるのに安く出品しているモノをみつけて買って、売るときは価値に見合った価格をつけるのだ。

バイクを買い替える

北海道の中古バイク界には、初冬に売って真冬に買うべし、という格言がある。

保有しているバイクに飽きたら、冬期預かりに出す前に売ってしまい、次の中古バイクを探すわけだ。

この冬期買い替えは、バイク店の店員が強烈にすすめる。

初冬に売って真冬に買うのが合理的な理由

冬期預かりは2万円ぐらいかかるので、もし翌年の春に乗らない可能性があれば、預ける前に売ってしまったほうがよい。こんな心理に陥る人が多いので、北海道の中古バイク市場はタマがそろいやすい。

中古バイクが増えることは、中古バイクを買う側としては選択肢が増えるので良い買い物ができる。

Win=Win

もちろん冬期買い替えはバイク店にとってもよいことだ。北海道のバイク店はやはり冬は暇だ。つまり仕事が少ないから、買えるバイクはどんどん買って、売れるバイクは冬に売ってしまいたい。

バイクの選考や価格交渉、諸手続きなど、納車までには結構手間がかかるので、それを暇な冬に済ませられるのはバイク店としても合理的だ。

バイク店は春から夏にかけて整備だ、販売だ、ツーリング支援だと忙しくなるので、冬に1台でも多く売りたい。だから冬に買えば割り引いてくれる可能性もなきにしもあらず。

中古バイクを冬に売買することはバイク店にも客にもよいのだ。

ほかのことをする

さて、ここまで紹介してきたことを道民ライダーが実施したとしても、北海道の冬はとても長いので時間が余ってしまう。

ではどうすればよいのか。ほかのことをすればよいのだ。

あるツーリング・ミーティングで話をしたハーレー乗りは、バイクとスノボの両方を100%味わい尽くしたくて本州から北海道に移住してきたといっていた。春夏秋はバイク、冬はスキー場ととても合理的だ。

なお私は山を少しやるので、冬は近所の山に登る。雪山はとても楽しい。

仕事をする

それでも時間が余ったら、私は仕事をする。私は自営業なので仕事の納期を少しだけ調整することができる。

夏に遊ぶときは、クラアントに「この案件の納期を2、3日延ばすことは可能ですか」と尋ねて、「全然いいですよ」と言われたら延期させてもらう。複数のクライアントにこれが成功すると、長い休みが取れるのだ。

ただ自営業者は基本給がなく、働いた分しか収入にならないから遊べば収入が減る。

そのため夏の減収分を冬に取り返すのだ。納期を2、3日早めて納品すると、クライアントによっては「じゃあ追加で依頼してもいいですか」と言ってくれる。

注意

もし「私は自営業者だから納期も休みも収入も自由に調整できる」と聞こえていたら、それは誤解であり訂正させていただく。私は弱小自営業者なので、納期・休み・収入を調整できる範囲はごくわずかである。

夏でも納期を短縮して納品して稼ぐこともザラにあるし、休みを確保したと思っても、クライアントから「緊急でお願いできますか」と言ってもらったら、「ありがとうございます」とお礼を言って、ツーリングの計画を破棄して仕事をする。

自営業は不自由業だ。

「納期も休みも収入も自由に調整できる」のは、うまくいけば、という条件がつく。年間休日日数は会社員正社員より少ないはずだ。

春一番ツーリングの計画

2024年は異常気象で、札幌でも2月にプラスの気温になることが頻発したが、それでもすぐに大雪が降る。

そして3月の後半になるといよいよ本格的にプラス気温が増えてくる。そうなるとバイク仲間とファミレスに集まって、春一番ツーリングの計画をする。

まとめに代えて~冬フラストが強いほど春にファン

(「Bikefunのバイクイラストギャラリー」は、Bikefunに登場したバイクをPOROporoporoさんのイラストで紹介する企画。初回(vol.1)はISOSHU編集長のCBR954RR)

バイク乗りが、バイクに乗れない時期を肯定することなどできない。どれほどお楽しみをみつけても、バイクで走ることより楽しくなることはない。だから冬の北海道は、バイク乗りには地獄だ。

だからといって生活基盤が出来上がってしまった以上、おいそれと北海道を出るわけにもいかず、だからなんとか「これでいいんだ」と思えるものを探したくなる。それをツラツラと紹介したわけだが、最後にもう一つ北海道のバイク乗りの冬のすごし方を紹介する。

冬のバイク・フラストレーションが強まれば強まるほど、春の走行が楽しくなる。しかも私たちを待っているのは、世界一バイク・ツーリングに向いているといわれている北海道の道路なのだ。

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この記事を書いた人

●著者紹介:アサオカミツヒサ。バイクを駆って取材をするフリーライター、つまりライダーライター。office Howardsend代表。1970年、神奈川で生まれて今はツーリング天国の北海道にいる。
●イラストレーター紹介:POROporoporoさん。アサオカの親友。

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