2024年9月24日、バイク業界に激震が走った。レッドバロンが、アメリカの投資ファンド、ベインキャピタルに買収されることが決まった。
投資ファンドに買われる企業には、良いことも悪いことも起こりうるが、これだけはいえる。経営にまったく問題がない企業が身売りすることはない、と。
だからこそレッドバロン買収のニュースは、関係者を心配させているのだ。レッドバロンの日本バイク界への影響力は大きく、筆者の概算だが、日本の道路を走るバイクの5台に1台はレッドバロンが売っている。
そこで経済ライターの私が、レッドバロン買収の概要を紹介したうえで、この出来事がバイク業界に与える影響を考察する。
私は、新生レッドバロンは、日本バイク界を良くする力を持ちうると考えている。
報道を聴いて感じたこと
私はフリーライターで、主にビジネスやマーケティングについて調査したり、解説記事を書いたりしている。私が書いた記事は以下のとおり。
■office Howardsend(アサオカミツヒサ)が書いた経済記事
https://note.com/officehowardsend/n/ndd59b10dc9ba?magazine_key=maa6cadc99de2
https://note.com/officehowardsend/n/nb00a7ce4f4bb?magazine_key=maa6cadc99de2
https://ekuippmagazine.com/business
私はバイク乗りであり、レッドバロンの客でもあるが、本稿はバイク関係者としてではなく、経済ウォッチャーとして書いている。
レッドバロン買収に対する私の第一印象は「来るべきときが来た」であった。
「来るべきときが来た」の「来るべきとき」とは
経済マスコミはレッドバロン買収について、創業者が2023年に亡くなり事業承継が経営課題となっていた、と報じたが、それよりも問題なのはこの会社に謎が多いことだ。
レッドバロンは日本のバイク・インフラを担う企業に成長したが、非上場のため経営の状態がわからない。例えば上場企業のホンダやヤマハなら、公式サイトに公開されている有価証券報告書を読み込めばかなり詳細に経営状態がわかるが、非上場企業にはその公開の義務がない。
そのためレッドバロンの企業規模、社会的地位、バイク関係者の期待を考慮すると、レッドバロンの上場は当然のこと、といっても言い過ぎていない。
すなわち「来るべきときが来た」の「来るべきとき」とは、上場するときのことだ。
だから投資ファンドがレッドバロンを買収して上場したとしても、なんら不思議はない。上場が視野に入っている、との報道もあるくらいだ。
1)マスコミ報道、2)レッドバロンの報告、3)ベインキャピタルの報告の紹介
少し長くなるが、レッドバロン買収に関する1)マスコミ報道と、2)レッドバロンの報告と、3)ベインキャピタルの報告の全文を紹介する。ベインキャピタルは、レッドバロンを買収するアメリカの投資ファンドである。
いずれも2024年9月24日付けである。
■共同通信の報道 |
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レッドバロン、米べインが買収へ 中古バイク販売最大手、上場視野 米投資ファンドのベインキャピタルは24日、中古バイク販売最大手のレッドバロン(愛知県岡崎市)を買収すると発表。レッドバロンは非上場で、親会社「レッドバロンプロパティーズ」の株式の過半数を創業家などから年内に取得する。営業戦略の強化やデジタル化を支援し、中長期的な成長を促す。将来的な上場を視野に入れる。 レッドバロンは創業者の杉浦斉氏が昨年8月に死去し、事業承継が課題の一つとなっていた。創業家は引き続き一部出資を続け、現在の経営陣も続投する見通し。ベインは買収総額を明らかにしていない。 レッドバロンは1972年に「ヤマハオートセンター」として創業し、国内に305店の直営店を持つ。 |
■日本経済新聞の報道 |
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中古バイク販売レッドバロン、米ベインが買収 DX促進 米投資ファンドのベインキャピタルが、中古バイク販売最大手のレッドバロン(愛知県岡崎市)を買収することが23日、分かった。レッドバロンは非上場だが国内に300店舗以上を抱え、年間売上高は900億円近い。2023年に創業者が亡くなり事業承継が大きな経営課題となっていた。ベインは創業家と協力してデジタルトランスフォーメーション(DX)投資などを進め、成長を促す。 |
■レッドバロンの報告 |
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主要株主変更のお知らせ 株式会社レッドバロン 株式会社レッドバロンプロパティーズ この度、私どもレッドバロングループの親会社である株式会社レッドバロンプロパティーズは、ベインキャピタル(Bain Capital Private Equity, LP)に株式の過半数を譲渡する契約を締結したことをお知らせいたします。この契約に基づき、レッドバロングループは2024年12月末日までに、株式の過半数をベインキャピタルに譲渡する予定です。なお、レッドバロングループの創業家である杉浦家も引き続き、レッドバロングループの株式を保有し、当社の株主として残る予定です。 レッドバロングループでは、創業から続く「お客様第一主義」を継承し、ライダーの未来を創造し、今と未来の冒険を共に楽しむ企業に成長するために経営基盤強化を検討した結果、レッドバロングループの企業理念や経営方針と合致するベインキャピタルとの契約締結に至りました。 ベインキャピタルは、経営のパートナーとして事業の成長支援に注力する世界最大級の投資会社であり、総額約1,850億ドルのファンドを運用しております。幅広い業界における投資経験を有し、投資先の成長を支援してきたベインキャピタルの知見を活かすことで、レッドバロングループでは今後、事業基盤のさらなる強化、ならびに革新を続ける事でライダーの皆様の未来を創造していくための成長投資を行って参ります。 これからもレッドバロングループのサービスを末永くご愛顧をいただけますよう、引き続き宜しくお願いいたします。 |
■ベインキャピタルの報告 |
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ベインキャピタル、レッドバロングループへの出資に合意 Bain Capital Private Equity, LPは株式会社レッドバロンプロパティーズ(そのグループを含む。以下レッドバロングループ)との間で、レッドバロングループの株式の過半数を取得する最終契約を締結したことをお知らせします。 レッドバロングループは創業以来、「お客様第一主義」を経営理念に掲げ、全国300店舗以上似て国内外の新車・中古車の豊富な在庫を有し、アフターサービス付きの販売に欠かせない整備工場を備えるなど、ライダーが安心・安全にオートバイライフを楽しめるよう、創業から二輪業界における業態の変革を求めてきた同業界のリーディングカンパニーです。 ベインキャピタルは、創業家および経営陣とのパートナーシップのもと、ベインキャピタルが有する日本国内並びに全世界の1,400社以上への投資経験に基づく経営ノウハウや知見を活用し、より一層成長を加速するため、同社の事業・経営基盤のさらなる強化、ならびに中長期的な事業成長の実現と企業価値の最大化を支援して参ります。 |
この4つの公式発表だけでも、今回の買収の内容がかなりわかる。
参照
https://www.47news.jp/11529991.html
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUC231D60T20C24A9000000
https://www.redbaron.co.jp/news_information/53771.html
https://www.baincapital.co.jp/news/heinkiyahitaruretsutoharonkurufuhenochuziniheyi
気になるのは成長の強調
まず買収のきっかけが、創業者にしてカリスマ経営者である杉浦斉氏の死亡による事業承継であったことがわかる。そしてレッドバロンの株式は、これまではその多くを創業家が保有していたが、今回、ベインキャピタルは株の過半数を取得する。ただ、経営権はベインキャピタルが握ることになるが、創業家も現経営陣もレッドバロンに残る。
したがって、創業家にも現経営陣にも、経営上の重大な過失があったわけではなさそうだ。
気になるのは4つの公式発表に「成長」という文字が何度も出てくることだ。カリスマ経営者がいなくなって経営陣の求心力が失われ、独力での成長が難しくなったのだろうか。
あるいは、以前から独力成長は難しいと考えられていたが、創業者という重しが取れたことでようやく上場を目指せる状況になったのかもしれない。上場して株主が増えて経営に口出しされることを嫌う創業者は少なくない。
昔の革新は今の革新ではない
レッドバロンの報告では、課題として1)経営基盤の強化、2)革新、3)成長投資の3つが挙がっている。
実はバイク販売はとても難しくなっている。コロナ禍(2020~2022年)で密集を回避できる遊びとしてバイクが流行したが、最近は人気が一巡した印象がある。そのうえ、ホンダとカワサキは、一部の車種を自社系列の販売店でしか売らないようにしている。
したがって日本のバイク業界は今後、縮小する需要を、増えすぎた供給者が奪い合うことになる。このようなケースでは強者が著しく有利なので、レッドバロンが経営基盤を強化するのは至極まっとうな経営判断といえる。
次に革新性であるが、昔はレッドバロンこそが革新的であった。レッドバロンの前身であるヤマハオートセンターは1972年に設立された。当時は個人経営の小さなバイク店が多く、レッドバロンのような大型店舗や認証工場を併設しているバイク店はほとんどなかった。
しかく革新は陳腐化が早い。
レッドバロンは創業から半世紀以上がすぎたが、いまだにクレジットカードなどのキャッシュレスが使えず、アマゾンやセブンイレブンのような革新的な物の売り方ができているとは言い難い。レッドバロンが成長するには、大型投資をしてもう一度革新を起こす必要がある。それには上場して資金を確保することが近道だ。
レッドバロンの投資妙味
ただしレッドバロンは、これまで投資してこなかったわけではない。
レッドバロンは中古部品を大量に集めたり、修理・修復技術を磨いたり、自前でサーキットをつくったりして、バイク業界の発展に向けて尽力していて、そこには多額の資金を投じている。
そしてこの地道な取り組みこそ、ベインキャピタルにとっての投資妙味になったのではないか。ベインキャピタルの担当者が「骨太なバイク販売店だ。あとは現代的な経営手法を注入するだけだ」と思っても不思議はない。
レッドバロンの正体と謎
レッドバロンがどのような会社なのかみていこう。ただ、謎の多い会社なのでその情報は限られてしまうのだが。
杉浦斉氏は誰なのか(ネット上に略歴も顔写真もない)
私がリサーチした範囲では、創業者の杉浦斉氏(2023年8月1日没)の略歴も顔写真もインターネット上にない。
レッドバロンの元の会社名のヤマハオートセンター株式会社になぜ「ヤマハ」がついていたのかも、公式サイトで説明されていない。
それでもリサーチを続けると、杉浦斉氏についてようやく次のことがわかった。
●杉浦斉氏はかつてヤマハ発動機の社員だった。独立するときにヤマハ発動機側から「ヤマハ」の名称を譲り受けたが、両社に特約などの関係があったわけではない
●レッドバロン(ヤマハオートセンター)は創業当初からカワサキの特約店になるなど、カワサキとの関係が深い
●川崎重工(カワサキ)の企画室長だった古谷錬太郎氏によると、杉浦斉氏は無茶苦茶うるさくて、2人で10時間にわたって議論したこともあるそう
以下の写真はレッドバロン公式サイトの沿革を紹介するページの冒頭に掲載されているもの。このような重要な場所に置いてある写真なのでこの人が杉浦斉氏の確率は高いのだが、「この人がそうだ」との説明書きはない。
参照
https://www.jstage.jst.go.jp/article/marketing/25/1/25_2005.025/_pdf/-char/ja
https://bashi84.xsrv.jp/bus/wp/faculty02
https://blog.goo.ne.jp/rfuruya1/e/2ccd3d64c471fa1e52506a740556ddbc
https://blog.goo.ne.jp/rfuruya1/e/57ea157812e6d71564aacefb4ad99783
https://www.nirin.co.jp/_ct/17342019
https://www.redbaron.co.jp/company/history/
https://www.atpress.ne.jp/news/1129
h3 基本データ(1)親会社と子会社
レッドバロンに関する情報とデータを紹介する。なおデータは2024年10月時点のものである。
レッドバロングループは、経営主体の株式会社レッドバロンプロパティーズ(親会社)の下に、バイク店としてのレッドバロンを運営する事業会社の株式会社レッドバロン(子会社)がぶら下がっている構造になっている。親会社は創業家と同姓の人が代表権を持ち、子会社は別の姓の人が代表権を持っている。2社の会社概要は以下のとおり。
●経営主体(親会社):株式会社レッドバロンプロパティーズ
●経営陣:代表取締役社長・杉浦かおる(創業家)
●住所:愛知県岡崎市大平町字才勝8番地の1
●バイク店を運営する事業会社(子会社):株式会社レッドバロン
●経営陣:代表取締役社長・石岡直樹(創業家の杉浦孝子と杉浦かおるは取締役)
●住所:愛知県岡崎市藤川町字境松西1番地
●本部住所:レッドバロンプロパティーズと同じ
●資本金(グループ計):5,083,270,000円
●創立:1972年
●店舗数:国内306店、海外5事業所・店
●売上高(グループ計):889億円(2023年10月期:2022年11月~2023年10月の1年間)
●従業員数:2,482人
●事業内容:
バイク、パーツ、アクセサリー用品の販売と修理
直輸入バイク、パーツ、アクセサリー用品の卸しと販売
技術情報の紹介と物品販売
海外ディーラーへのバイク販売と技術指導
海外フランチャイズチェーン出店
現地企業との合弁事業の展開
国内外のバイクライダー専用レジャー施設(ホテル、サーキット)の開発および運営
基本データ(2)最初から全開
レッドバロン1号店は1972年、愛知県岡崎市大平町字才勝8番地の1(レッドバロンプロパティーズと同住所)で開業した。1号店の敷地面積は1,000坪(約3,306平方メートル)で、整備工場も併設していた。これは当時のバイク販売店としては異例の規模だった。
さらに驚くべきことに、アフターサービスの充実、国内4メーカーと海外メーカーの新車・中古車の販売、多店舗かつ全国展開、ロードサービスは創業当初から実施、または方針に掲げていた。
レッドバロンが創業当初から全開走行できたのは、1970年代が、空前のバイクブームの前夜にあったからだろう。成長産業の黎明期に大型投資をすると大成功を収めやすい。
レッドバロンの年間売上高は1977年には7億円だったが、1980年にはその5倍の35億円になる。なお2023年10月期の889億円は、35億円の25倍だ。
基本データ(3)5台に1台はレッドバロンのバイクという仮説
レッドバロンが最もバイクを売った年は1996年とされ、その台数は14万台。ただ最近はそこまで売れてなく、2024年ごろの年間販売台数は11万台ほどだ。
レッドバロンが売る年11万台は新車と中古車を合わせた数だ。レッドバロンはバイク・オーナーから毎年8万台買ってそれを自店で売っているので、年間販売台数11万台のうち8万台は中古車とみてよいだろう。したがってレッドバロンが1年間に売る新車は3万台(=11万台-8万台)と推測される。
なお、国内の原付(50㏄以下)を含む新車バイク販売台数は、2023年は41万台である。
以上のことからレッドバロンの日本バイク界への影響度はこのようになる。
他社販売の中古車についてはデータがなかったので、「仮にレッドバロン以外のすべての販売会社がレッドバロン並みに中古車を売っていたとしたら」と仮定して8万台としておいた。
したがって上記の数字は正確なものではないが、概算とはいえ日本のバイクの5台に1台が「レッドバロンもの」と算出できてしまうのは偉業といえる。
基本データ(4)バイク王、バイク館との比較
日本の3大中古バイク販売会社はレッドバロン、バイク王、バイク館だ。バイク王は株式会社バイク王&カンパニーが運営している。バイク館は、カー用品大手の株式会社イエローハットの100%子会社、株式会社バイク館イエローハットが運営している。
3社の主な数字は以下のとおり。
レッドバロン(再掲) | バイク王 | バイク館 | |
資本金 | 51億円 | 6億円 | 3,000万円 |
売上高 | 889億円(2023年10月期) | 331億円(2023年11月期) | 133億円(2024年3月期) |
店舗数 | 311店 | - | 70店 |
従業員数 | 2,482人 | 1,035人 | 385人 |
3大といっても企業規模ではレッドバロンがダントツで大きい。バイク王とバイク館を足して2倍にするとようやくレッドバロンを超える。
参照
https://www.bikekan.jp/about/company
https://www.yellowhat.jp/corp/about/profile.html
https://www.8190.co.jp/outline/profile.html
ビジネスモデル(1)フランチャイズから直営化
ここからはレッドバロンのビジネスモデルをみていく。
レッドバロンは1979年にフランチャイズ方式を導入するが、バブル崩壊とバイクブームの沈静化によりフランチャイズの店舗の維持が難しくなったり、サービスが低下するトラブルが発生したりした。それでフランチャイズ店を直営店に変えることにして、2002年に全店が直営になった。なお2002年時点の店舗数は224店で、直営によりサービスの全国均質化が図れるようになる。
レッドバロンの能力主義は徹底していて、入社2年で店長になる人がいるほどだ。営業担当者(店舗運営)と整備・修理担当者(工場運営)がわかれているところもレッドバロンの特徴の一つだ。整備・修理技術の向上には力を入れていて、社内に整備士教育機関を設けたり、二輪整備専門スクールを開いたりしている。
ビジネスモデル(2)業界最速のIT化
レッドバロン全店の在庫台数の総数は約52,000台で、これをどの店舗でも確認できる。それを可能にしているのはコンピュータ・システム「イントラネット検索システム」だ。
同システムの前身となる「コンピュータ在庫照会システム」は1985年に導入している。まだITという言葉が聞かれなかった時代に大規模IT化を進めていたのである。
ビジネスモデル(3)店頭買取・店頭販売が成功した秘密
レッドバロンの強さは中古車販売にある。
新車価格にはメーカーの利益がのっているため、販売店の利益率はそれほど高くない。しかし中古車なら、その販売価格に含まれる利益はすべて販売店が取ることができるのである。
レッドバロンの中古車ビジネスの特徴は、店頭買取と店頭販売だ。レッドバロンの店はバイク・オーナー一人ひとりからダイレクトに購入して、自店やレッドバロンの他店で売る。オークションなどを経由しないので中間マージンがかからない。
さらに店頭買取・店頭販売なら、バイクを売る人も買う人も客にできる。今所有しているバイクを売って次のバイクを買おうとしている人をつかまえれば、その人から2回、利益を取ることができるのだ。
店頭買取・店頭販売は単純なようにみえて、レッドバロン以外のバイク販売店がやろうとしても簡単には真似できないだろう。なぜならレッドバロンは、各店舗に整備工場を併設して、買い取った中古バイクを自分たちで整備・修理しているからだ。
さらに店舗併設工場で対応できない修理は本社工場が対応する。本社工場には3,700車種の部品76万点がストックされているという。
■レッドバロンの中古ビジネスのモデル
店頭買取 | → | 店舗併設工場での整備・修理と本社工場 | → | 店頭販売 |
店頭買取と店頭販売の間に、店舗併設工場の整備・修理と本社工場があるから、確かな中古バイクを販売できる。確かな中古バイクであれば客の満足度が上がり、クレームが減り、再修理リスクが減り、販売価格の値崩れが起きない。
レッドバロンは店舗併設工場と本社工場という多額のコストを支払って、もっと多くの利益を得ているのである。
参照
https://info.gbiz.go.jp/hojin/ichiran?hojinBango=4180301012490
https://www.redbaron.co.jp/news_information/32367.html
https://www.redbaron.co.jp/buy/
https://www.redbaron.co.jp/buy/
https://job.mynavi.jp/25/pc/search/corp112025/outline.html
https://for-r.jp/useful/49141.html
https://www.jama.or.jp/statistics/facts/two_wheeled/index.html
h2 ベインキャピタルとは
レッドバロンを買うベインキャピタルは、アメリカ・マサチューセッツ州に本社があり、全世界で1,850億ドル(1ドル150円で28兆円)の資金を運用している。
スノーピークも、すかいらーくも、ドミノピザもサポート
ベインキャピタルは投資ファンドというビジネスをしている。
投資ファンドはかつて「ハゲタカ」と呼ばれたこともあり、業績は良いが経営が不安定な会社を安く買い叩き、少し調整して高額で売り抜けて暴利をむさぼる、というネガティブなイメージがあった。しかし今は、窮地に落ちった企業を救済して再生させる良いイメージのほうが強いだろう。
ベインキャピタルは日本でこれまでに、ニチイ、スノーピーク、大江戸温泉物語、すかいらーく、雪国まいたけ、キオクシア、ドミノピザ・ジャパンなどの著名な企業に投資をしたり経営をサポートしたりしてきた。レッドバロンもこの被サポート企業群に加わるわけだ。
ベインキャピタルの戦略
ベインキャピタルは投資ファンドのうち、プライベート・エクイティ投資を中心とした投資活動を展開している。この手法は、未上場企業の株式を取得し、企業価値を向上させたあとに売却して利益を得る、というものだ。
レッドバロンの買収がプライベート・エクイティ投資であれば、ベインキャピタルが長期にわたってレッドバロンの経営に関わることはなく、いずれの時点で同社株を売却することになるだろう。売却方法としてはIPO(新規株式公開)が想定され、すなわち会社を上場させて株式を売却する形となる。
「いずれの時点」とは、レッドバロンの価値が高まった時点である。ではどのような状態になれば、レッドバロンの価値が高まったと評価できるのだろうか。
参照
https://www.baincapital.co.jp/portfolio?language_content_entity=ja
https://www.yomiuri.co.jp/economy/20240220-OYT1T50130
まとめに代えて~レッドバロンの価値を高めるためにベインに期待すること
ベインキャピタルもレッドバロンも、現時点では具体的な企業価値向上策を示していない。そこで本稿の最後に、一般的な企業再生の手法を紹介しつつ、私の推測も交えながら、新生レッドバロンの姿を想像してみたい。
すなわち私がベインキャピタルに期待することを述べていく。
やることは1)効率化、2)投資、3)経営の刷新の3つ
投資ファンドが企業を買収するのは、その企業に成長の潜在能力や改善余地があり、それがまだ十分に発揮されていないと判断したときだ。つまり、投資ファンドの重要な役割は、企業の成長を妨げている障害を取り除き、さらなる成長を促進することである。
その障害には、非効率、資本不足、経営能力の欠如などが挙げられる。したがって、ベインキャピタルも、1)効率化、2)十分な投資、3)経営の刷新のいずれか、もしくはこれらすべてに取り組むだろう。
客からみえる無駄と投資不足
レッドバロンから3台のバイクを購入した私ですら、レッドバロンの非効率さと投資の小ささを感じている。なおレッドバロンの経営能力については、私に知識や情報がない。
レッドバロンの店舗は無駄に広い。それなのに平日の昼間に店舗を訪れると、客が私1人しかいないことも珍しくない。
レッドバロンの1店のスタッフは、営業担当者数名と整備・修理担当者数名の計10人ほどで構成されている。これだけ小さな所帯なのに、原則、営業担当者は整備・修理にタッチせず、整備・修理担当者は営業にタッチしない。だから客は、購入や売却については営業担当者と話し、整備・修理については整備・修理担当者と話さなければならず手間がかかる。カーディーラーのように、営業担当者が整備・修理の手配をしてくれるわけではない。
まだある。
レッドバロンの店舗の建物の多くは古い。クレジットカードや電子マネーは使えず、現金商売を貫いている。
無駄と節約こそ魅力
ただし、レッドバロンの場合、無駄と節約こそ魅力になっているところが多い。
例えば広い店舗だから多くのバイクを置いておくことができる。客としては、特に中古車は、現物をみて、またがって、エンジンをかけてから購入したいが、レッドバロンならそれが可能だ。
営業担当者と整備・修理担当者がわかれていることで、それぞれが自分の仕事を深掘りすることができる。レッドバロンの営業担当者は、とにかくバイクに詳しい。もちろん知識量は人によるが、店長やベテラン店員なら国内4メーカーと外車のことをよく知っている。エンジンを分解して部品を交換して組み立てることができる整備・修理担当者もいる。
商談スペースは狭く、内装はチープだ。店舗スタッフの控室はみたことはないが、とても狭そうだ。こうしたケチケチ作戦は、無駄な経費を使っていないようだ、という好印象を生む。
小売店がクレジットカードや電子マネーを導入すると、売上の一部がクレジットカード会社や電子マネー会社に徴収されてしまう。したがって現金商売は利益率を高めることに貢献する。客はポイントを貯められないので残念だが、しかしそのお陰でバイクを安く買えるのであればそのほうがありがたい。
以上のことから、ベインキャピタルがもし、一般常識だけでレッドバロンの無駄と節約を排除してしまったら、レッドバロンの魅力が少なくなる可能性があるので注意してもらいたい。
その他事業について
レッドバロンはバイクの売買以外の事業も展開している。そのうちサーキットやライダー向け宿泊施設、ライディング教室、レース活動支援は本業との相乗効果やバイク業界への貢献度が高そうだが、不動産事業(ライダーズ・マンション)やリゾート施設、タイ料理レストランには疑問符がつく。
その他事業については、ベインキャピタルは「大ナタ」を振るうのではないだろうか。
参照
https://www.redbaron.co.jp/touring/
次の氷河期に備えよ
51㏄以上のバイクの国内新車出荷台数は1993年は1,254,254台あったが、2020年には328,346台にまで減った。実に27年間で4分の1に縮小したのである。
そして、コロナ禍のなかで密回避レジャーとしてバイクが注目され「バイクブームが再来した」と言われたが、それでも2021年は378,720台と、40万台に届いていない。最後の40万台は2014年(416,723台)である。
さらにいえば2022年は362,082台、2023年は376,720台と、すでに2021年を下回っているのだ。(いずれも51㏄以上)
国内バイク業界は1980、90年代に一大ブームを迎え、その後長い氷河期に入った。レッドバロンは極寒に耐え、国内バイク販売のトップランナーであり続けてきた。だからベインキャピタルの担当者には、(老婆心ながら)、まずはレッドバロンのこの底力の正体を解明することから始めてもらいたい。レッドバロン改革では、その恐るべき力を削ぎ落さないようにしなければならない。
そうしないと新生レッドバロンは、次の氷河期に耐えることはできない。
参照
https://jamaserv.jama.or.jp/newdb/sales2/sales2TsTpEntry.html
人材の定着が課題か
「どのバイク雑誌をみてもレッドバロンの求人広告が載っている」と感じているバイク乗りは多いのではないか。ところが同社の年収はというと、入社2年目23歳で404万円、店長31歳で538万円と決して悪くない。
またインターネット上には、レッドバロンがブラック企業であることを示唆する投稿が存在する。
インターネット上の企業の悪口には根拠がないものが多く、私はそれを信じるつもりはないが、給料が良いのに年中求人を出しているのは事実なので、人材の定着に課題があるのではないか。
求人活動にはコストがかかるし、社員が定着していないイメージは、たとえイメージだけでも企業の価値を下げてしまう。これもベインキャピタルの課題になるだろう。
参照
https://www.redbaron-recruit.com/guideline/guideline_cat/career
女性と若者の取り込みは急務だろう
日本人のバイク乗りの構成は以下のとおり。
乱暴な表現をすると、日本のバイク乗りのほとんどは中高年男性だ。したがって新生レッドバロンはすぐに、女性ライダーと若者ライダーを「つくる」ことに着手しないといけないだろう。
しかしこれはとても難しいプロジェクトだ。例えばバイクメーカーはほとんどテレビCMを出さない。出したとしてもイメージCMがほとんどで、特定の車種をPRするCMは皆無だ。バイクにはどうしても暴走行為や死亡事故といった強烈なネガティブなイメージがつきまとうので、バイク欲をあおるような宣伝がしづらいのだ。
したがってレッドバロンも、広告で女性や若者に「バイクに乗ろうぜ」と訴えることがしにくいのである。レッドバロンがPRに使っている媒体といえば、せいぜいバイク雑誌やユーチューブ動画、あるいはレッドバロンが独自に発行している紙媒体「レッドバロンマガジン・アール・ビー(R★B)」くらいだ。
女性ライダーと若者ライダーの育成は、いくら潤沢な資金を持つベインキャピタルでも、新生レッドバロンとだけでは限界がある。メーカーを巻き込んで取り組んでいってもらいたい。
参照