Bikefunに「カワサキの快進撃の背景には上手なビジネスがある」という記事を書いた、アサオカミツヒサと申します。
この記事で、カワサキが量産車メーカーとして世界で初めて水素バイクを公の場所で走らせたことや、マーケティングが極めて特徴的であることを紹介しました。
なお、この記事の全責任は私にあります。
私が、この記事をカワサキの担当者に読んでもらいたくて、カワサキに「こんな記事を書いてみました。感想をお聞かせください」とメールを送ったところ、「事実と異なるところがあるので訂正を」と指摘されました。
カワサキが指摘する内容を報告し訂正いたします。お詫び申し上げます。
注意書き
お詫びする相手に対して「カワサキ」と呼び捨てにしないほうがよい、とも考えたのですが、相手があまりに巨大で、当方があまりに小さい存在なので、「カワサキ様」とすることがはばかられました。それで「カワサキ」と表記しています。
私の記事に指摘していただいたのはカワサキモータース株式会社(以下、川崎重工も含めてカワサキと表記)です。
訂正1「水素バイク公開は抜け駆けではない」
私は記事のなかで、カワサキが量産バイクメーカーとして世界で初めて、公の場で水素エンジン・バイクを走らせたことを紹介しました。さらにカワサキが、ホンダ、ヤマハ、スズキとともに水素研究組織、HySEを立ち上げたことも紹介しています。
この水素バイクが世界初ということは当然、HySEのなかでも初ということなので、私は記事のなかで「カワサキが抜け駆けをした」と表現しました。
この表現についてカワサキから次のように指摘されました。
■カワサキの指摘 |
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弊社の水素バイクは、他のHySEの組合員企業の了解の下、世に出したものであり、エンジンにはHySEの研究成果の一部をフィードバックしております。それ故にHySEのデカールを貼付しております。 つまり決して抜け駆けのようなことは致しておりません。(そもそも、そのようなことが許されるはずがありません。) |
そこで以下のように訂正させていただきます。
■私からの訂正のご報告とお詫び |
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カワサキはHySEのなかで「抜け駆け」などせず、水素研究の仲間であるホンダ、ヤマハ、スズキの了解の下、この水素バイクを発表しました。 訂正してお詫び申し上げます。申し訳ありませんでした。 |
カワサキの水素は熱い
カワサキからは、上記の訂正指示のあとに、追記的に以下のような報告をいただきました。ダカールラリーについては私は記事で触れていませんので、わざわざ教えていただいた形になります。ありがたいです。
■カワサキからの追記 |
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また、HySEとしても、今年1月にはダカール2024(旧パリ−ダカールラリー)のカーボンニュートラル車両だけが参加できるMission1000カテゴリーに水素バイクと同様、H2のスーパーチャージャー付エンジンを改造して搭載したHySE-X1という四輪バギー車で参加・出走しております。 |
(上下の写真の説明:2024年のダカールラリーに出場した水素バギーHySE-X1。これも水素バイク同様、カワサキH2のエンジンを使っているが、ダカールラリーにはHySEとして参加しているので車体には4社のメーカーロゴが入っている。トヨタもHySEのメンバー。
カワサキも公道走行できないオフ4輪はつくっているが、トヨタ、ホンダ、スズキ、ヤマハは自動車をつくっている。それでもカワサキの水素エンジンがHySE-X1に使われたのは快挙といってよいのではないか。写真はカワサキとトヨタの公式サイトから)
カワサキがわざわざ私にこのような報告をしてくれたのは、それだけ水素開発に力を入れているからではないでしょうか。「抜け駆け」はしてないものの、カワサキの水素バイクの開発が、ホンダ、ヤマハ、スズキより先行しているのは偶然ではないようです。
そこで、お詫びといってはなんですが、カワサキのPRになればと考え、同社の水素事業を紹介させていただきます。
「水素社会の未来を切り拓く」と宣言
水素事業というと、ガスメーカーの岩谷産業や水素自動車のトヨタが真っ先に思い浮かぶかもしれませんが、カワサキも「水素会社」のひとつです。公式サイトで「水素社会の未来を切り拓く」とまで宣言しているくらいです。さらに有価証券報告書のなかでは「世界に先駆けて水素サプライチェーンを構築する」とまで述べています。カワサキは水素事業を収益の柱にしたい考えです。
カワサキは液体水素事業を担う日本水素エネルギー株式会社という会社を、岩谷産業と一緒につくりました。出資比率(株式保有率)は川崎重工66.6%、岩谷産業33.4%。
株式保有率が50%を連結子会社になるので、同社はカワサキの子会社で、同社の代表取締役の原田英一氏は、川崎重工で常務執行役員(水素戦略本部長)を歴任しています。
さらに日本水素エネルギーは2024年7月、鉄鋼大手JFEの工場の土地を借りて、「液化水素サプライチェーンの商用化実証」という事業に着手することを決めました。JFEも水素事業を手がけているので、協業が進むことが期待されます。
なおJFEは、川崎重工から分離独立した川崎製鉄と、日本鋼管が合併してできた会社です。
水素+再生可能エネルギーは最強・最適クラスのエネルギーになる
少しカワサキから話がそれますが、なぜ今、水素が注目されているか紹介します。
水素は空気中に0.00005%含まれ、水(H2O)の構成要素の1つです。ちなみに海水には、146,500,000,000,000,000,000トンの水素が含まれていると推定できます。したがって水素は「条件が整えば」世界中のすべての人が無尽蔵かつ無料で手に入れることができます。
このようなことから、もし水素を石油の代わりにバイクや自動車のエンジンや発電所などの燃料として使えるようになれば、戦争が減るかもしれません。多くの戦争が、エネルギーの奪い合いで起きているからです。
しかし空気中や水から水素だけを抜き出すには高度な技術と大量の電気が必要で、なおかつ水素は非常に軽くて漏れやすく、高圧で保管する必要がある、取り扱いが難しい物質です。そのため人類は今のところ、水素をメインのエネルギーにすることに難航しています。
そこで活躍するのが太陽光発電や風力発電、水力発電などの再生可能エネルギーでつくった電気です。この電気で水素をつくることができたら、化石燃料を使わずに水素をつくったことになります。
そして、電気は現状では大規模な蓄電が難しいのですが、水素は貯めることができます。再生可能エネルギーでつくった電気で水素をつくれば、実質的に再生可能エネルギーがつくったエネルギーを貯めたことになります。
したがって、水素と再生可能エネルギーの組み合わせは最強・最適クラスのエネルギーといえ、日本政府も水素社会推進法をつくるなどして水素事業を後押ししています。
水素バイクは絶好の水素PRになる
話をカワサキに戻します。
カワサキの水素への熱意と水素の無限の可能性を考え合わせると、カワサキが水素バイクをどのバイクメーカーより早く公表したことは意義深いといえるでしょう。
第1の意義は、カワサキの熱意を世間にPRできることです。先ほど「水素といえば岩谷とトヨタというイメージが世間にある」と紹介しましたが、水素バイクによって「水素といえば岩谷とトヨタとカワサキ」となるかもしれません。
第2の意義は、世間に水素社会への理解が浸透することです。カワサキの水素バイクは多くのマスコミが取り上げました。これにより世間の人は「水素はバイクも動かすのか」と認知します。つまり人々にとって水素が身近な存在になるわけです。
水素社会の実現が人類の希望ということは、水素バイクは希望に近づく一歩になるでしょう。
参照
https://answers.khi.co.jp/ja/mobility/240329j-02
https://toyotatimes.jp/spotlights/1052.html
https://www.khi.co.jp/ir/pdf/etc_230629-2j.pdf
https://www.japansuisoenergy.com
https://www.tokyo-h2-navi.metro.tokyo.lg.jp/assets/pdf/torikumi/tokyogreensuiso/6_JFE.pdf
https://www.khi.co.jp/ir/private/about/know.html
https://www.enecho.meti.go.jp/about/special/johoteikyo/suiso_tukurikata.html
https://www.enecho.meti.go.jp/about/special/johoteikyo/suisohou_02.html
訂正2「分社化してできた」
私の記事への、カワサキからのもう一つの訂正指示はこちらです。
■カワサキの指摘 |
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記事に「カワサキのバイクはかつては、川崎重工グループの本体である川崎重工株式会社がつくっていたが、2021年にバイク製造事業を、川崎重工の100%子会社のカワサキモータース株式会社に移管している。」とありましたが、正しくは「川崎重工株式会社の一部門であったモーターサイクル&エンジンカンパニーを分社化して、カワサキモータース株式会社が誕生した。」です |
つまり私は、川崎重工がカワサキモータースをつくり、そこにバイク製造事業を移した、と理解していたのですが、事実は、川崎重工内のバイク部門が分社化してカワサキモータースができた、わけです。
訂正してお詫び申し上げます。
記事全体の感想は「なし」
なお、私は、水素バイクとカワサキモータース以外のことも書いたのですが、記事全体の感想については、正式な取材を受けたわけではないので差し控える、との回答をいただいております。
申し訳ないのですが、感謝でいっぱい
事実を書けなかったことにつきましては、カワサキに対してだけでなく、Bikefun読者に対しても申し訳なく感じております。あらためてお詫び申し上げます。申し訳ありませんでした。
そのうえで、なのですが、カワサキから丁寧な返信をいただけたことは感謝の気持ちでいっぱいです。
私は、今回のカワサキの記事だけでなく、企業や人についての記事を書いたら、その企業や人の公式サイトに「ご意見」のページがあれば、記事を書いたことを報告しています。
しかしカワサキのように、これだけ丁寧な返信をいただけることは稀です。大抵は無反応で、返信があっても「ご意見として承りました」という定型文が送られてくるだけです。
訂正の指示という内容ではありますが、バイク乗りの憧れのメーカーであるカワサキとコミュニケーションが取ることができたことは、――不謹慎であることを承知のうえでいわせていただきますと――実はちょっと嬉しく思ったりしております。
「カワサキはバイク乗りに近いメーカーだ」という印象は、バイクに乗っている限り忘れないでしょう。ありがとうございました。