Bikefunにはすでにカフェレーサーを解説する記事があったが、ISOSHU編集長に頼み込んで、私もカフェレーサーについて書かせてもらうことにした。
なぜなら私は、バイクで最も格好良い形はカフェレーサー・タイプだと思っているからで、「俺にもカフェを語らせてくれ」状態だった。
カフェレーサーには格好良い要素が複数個あり、さまざまな人たちがさまざまな角度から語っているが、私が考察するのはそのイギリス性である。
イギリスをキーワードにして、カフェレーサーの格好良さの秘密を探ってみたい。
レーサー・レプリカがカフェるとなぜ格好良くなる
「バイクは格好良い」という言葉と同じくらい「カフェレーサーは格好良い」という言葉は意味がない。なぜなら当たり前のことをいっているから。
カフェレーサーという言葉は、カフェとレーサーにわかれる。カフェの由来はもちろん、カフェレーサー発祥の地である、イギリスの首都ロンドンにあるエース・カフェ・ロンドンだ。そしてレーサーとはオンロード・レース用の競技バイクのことである。
したがってカフェレーサーが格好良いものだとしたら、それはカフェの部分とレーサーの部分が原因と考えてよさそうだ。
レーサーは格好良いに決まっている
先にレーサーの部分を考えていく。
カフェレーサーは広い意味でレーサー・レプリカといえる。カフェレーサーの条件に、低く設置したセパハン、バックステップ、シングルシート、コーナリング重視があるが、これはレーサーの条件と一致する。
レーサーは格好良いに決まっている。なぜならほぼすべてのライダーは、速いバイクを是と考えるからだ。したがってライダーは、速く走ることに貢献しているスタイルや部品を格好良く感じてしまう。
このセンスはライダーだけが持つ特殊現象である。例えば、バイクにまったく興味がないうちの相方(いわゆる妻)は、集合管の格好良さ理解せず、元々ついている金属の筒(ノーマルマフラーのこと)を外して、別の金属の筒(集合管のこと)をつけかえることに10万円以上も支払うことを異常行動とみなしている。
以上のことから、名称に「レーサー」が含まれるほどレーサーに寄せているカフェレーサーは、自動的に格好良いのである。
カフェでなかったら、と想像してみる
続いてカフェレーサーの「カフェ」の部分の格好良さを検証してみる。
カフェレーサーとは、イギリスのカフェにたむろしていたイギリス人ライダーたちのバイク・スタイルを指すわけだが、ここであえて日本人目線でみてみる。
もしイギリスでカフェレーサーが生まれてなく、日本の居酒屋にたむろしていた日本人ライダーたちが、カフェレーサーと同じスタイルのカスタム・バイクに乗っていたら格好良くなっていただろうか。そのカスタム・バイクは「白木屋レーサー」や「世界の山ちゃんレーサー」と呼ばれることになっていた。それはちょっと格好悪いのではないか。
カフェレーサーはカフェだから格好良いのだ。
「レースの要素+α」は格好良いバイクの黄金比である
このように考えてみると、カフェレーサーの格好良さは、ベースにレーサーの要素があり、その上にエース・カフェ・ロンドンの要素があって成立しているといえそうだ。
カフェの格好良さ | プラスアルファの格好良さ:エース・カフェ・ロンドンの要素 |
ベースの格好良さ:レーサーの要素 |
この「カフェレーサーの格好良さ2段階説」は説得力があると考える。なぜなら例えば80年代後半から90年代前半に日本のバイク界を席巻したNSR250RやTZR250Rなどの2ストクオーターの格好良さも、ベースの格好良さにレーサーの要素があり、プラスアルファの格好良さにフレディ・スペンサーや平忠彦らのGP500ライダーがいたからだ。
NSR250RとTZR250Rの格好良さ | プラスアルファの格好良さ:フレディ・スペンサーや平忠彦ら |
ベースの格好良さ:レーサーの要素 |
レーサーの要素にプラスアルファの要素が加わると、その格好良さは一時代を築くほどの力を持つ。
続いてカフェが有するイギリス性について考えていく。
イギリス好きの日本人はむしろマイナー?
白木屋や世界の山ちゃんの要素はバイクに格好良さを加えないのに、なぜエース・カフェ・ロンドンの要素(以下、カフェの要素)はバイクを格好良くするのか。
なぜこんな疑問が湧くのかというと、日本人はそれほどイギリスやロンドンに熱狂しているわけではないからである。
カフェの要素を考察する前に、日本人のイギリス観を確認しておく。
日本人はアメリカンが大好き
日本国内で今最も売れている新車の大型バイクはカワサキのZ900RSである。2021年度の401㏄以上バイクの車種別新車販売台数トップ10は以下のとおり。
■日本国内2021年度、401㏄以上バイクの新車販売台数
単位:台 | カフェ | アメリカン | |||
1位 | カワサキZ900RS/カフェ | 4,749 | 30% | 1,425 | |
2位 | ホンダ・レブル1100/DCT | 3,166 | 3,166 | ||
3位 | ハーレーFLHCS/FLFBS/FXBRS/FXFBS/FXLRS/FXBBS | 2,183 | 2,183 | ||
4位 | ホンダCB650R/CBR650R | 1,975 | |||
5位 | ハーレー1200カスタム/ロードスター/48 | 1,795 | 1,795 | ||
6位 | スズキSV650/X | 1,536 | 30% | 461 | |
7位 | スズキHAYABUSA | 1,174 | |||
8位 | ホンダCB1100/EX/RS | 1,020 | 30% | 306 | |
9位 | カワサキNinja1000SX | 1,014 | |||
10位 | カワサキW800/ストリート/カフェ/メグロK3 | 978 | 30% | 293 | |
合計 | 19,590 | 2,485 | 7,144 |
この表で注目したいのは、アメリカン・バイクだ。最近はアメリカンといわず、クルーザーと呼ばれることが多いが、ここではイギリスと比較するために国名を強調したいのでアメリカンと呼ぶ。
ザ・アメリカンであるハーレー・ダビッドソンは3位と5位にランクインしていて、さらにホンダ・レブル1100もアメリカンである。その合計は7,144台で、トップ10の合計が19,590台なので、実に新車大型バイクの36%(=7,144台÷19,590台×100)がアメリカンなのである。
日本人大型バイクライダーはアメリカンが大好きだ。
ではカフェレーサーはどうか。
「カフェ」を名乗っているのはZ900RSの別バージョンと、やはりカワサキのW800の別バージョンだけである。そしてスズキのSV650のうちXバージョンはカフェ要素が強い。また、ホンダのCB1100は厳密にはネイキッドだが、しかしカフェレーサー・カスタムのベースになることから、ここにもカフェの要素があるとする。
ただしZ900RSカフェもW800カフェもSV650XもCB1100も純粋なカフェレーサーではなく、一部バージョンがカフェであったり、雰囲気がカフェっぽかったりというだけなので、販売台数のうちカフェレーサーと認められるのは30%とする。そうなるとこの4車種の台数の合計の30%は2,485台となる。
カフェの2,485台は、アメリカンの7,144台の3分の1ほど。このように日本人大型バイクライダーはアメリカンほどには、カフェレーサー=イギリス性に熱狂しているわけではない。
この日本人の傾向は観光にも現れている。
参照:https://bike-lineage.org/etc/ranking/250over/2021_all_401.html
海外旅行もイギリス・ロンドンは人気がない
ある旅行サイトが日本人の人気の海外都市ランキングを発表していて、その順には以下のとおり。
■日本人の人気海外都市トップ10
- 1位、ソウル(韓国)
- 2位、バンコク(タイ)
- 3位、台北(台湾)
- 4位、パリ(フランス)
- 5位、シンガポール(シンガポール)
- 6位、ハワイ(アメリカ)
- 7位、釜山(韓国)
- 8位、ハノイ(ベトナム)
- 9位、ニューヨーク(アメリカ)
- 10位、クアラルンプール(マレーシア)
近隣のアジアが多いのは仕方がないとしても、イギリスは圏外である。
念のため、別のデータも確認しておく。ある旅行会社は、海外に行ったことがない日本人に初めての海外旅行で行きたい国・都市について尋ねた。そのトップ10は以下のとおり。
■日本人が初めて行きたい人気海外都市トップ10
- 1位、ハワイ(アメリカ)18%
- 2位、台湾16%
- 3位、韓国15%
- 4位、イタリア14%
- 5位、オーストラリア11%
- 6位、アメリカ本土10%
- 7位、北欧9%
- 8位、フランス8%
- 9位、ドイツ6%
- 10位、イギリス6%
この集計ではアメリカを「ハワイ18%」と「アメリカ本土10%」にわけている。これらを合算してアメリカ全土にすると28%(=18%+10%)となり断トツの人気ぶり。
一方のイギリスは、なんとか10位に食い込めただけである。イギリスはEUは離脱したが、それでもヨーロッパの一員である。しかしヨーロッパのなかでも、イタリア、北欧、フランスに負けている。
海外旅行に関心がある日本人にとってイギリスはマイナーとまではいわないが、決っしてメジャーではないのだ。
参照:
https://nlab.itmedia.co.jp/research/articles/1167547/5
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000470.000007099.html
イギリス性はこのように日本人を魅了する
上記で紹介したデータからわかることは、イギリス好きの日本人は意外に多くないということだった。またカフェレーサー人気も、アメリカン人気ほどには過熱していないことも確認できた。
この結果は私も予想していなかった。
ではなぜ、カフェレーサー人気はそれほど高まっていないのに、高まっているように感じるのか。それは2つの理由があると思う。
カフェレーサー人気が実際より高まっていると感じる理由
●カフェレーサー好きがカフェレーサーの素晴らしさを熱く語るから
●キャラクターが際立っているため目立つから
この2つの理由は、カフェレーサーが持つイギリス性と関係している。
イギリスはそもそも強くないのに際立っている
2つの理由を解説する前に、イギリスについて解説する。
イギリスの国内総生産(GDP)は世界6位である。トップ10は1位アメリカ、2位中国、3位日本、4位ドイツ、5位インド、6位イギリス、7位フランス、8位イタリア、9位カナダ、10位韓国となっている。
国連加盟国は約200国あるので、イギリスの世界6位はすごいと感じるかもしれないが、先進7カ国(G7)のなかでは4位なのでちょうど中間に位置する。つまりイギリスは、すごく強い国、ではないのである。
しかしイギリスは際立っている。
例えば世界最強国アメリカを生んだ国はイギリスだし、世界で最も有名なロックバンドであるビートルズを輩出している。テニスのグランドスラム(世界4大大会)のなかで最も権威があるのは、やはりウィンブルドンだろう。そして、男性に対する最上の褒め言葉である紳士は、イギリスに最も多くいるとされている。
イギリスのこの、最強ではないのに特徴が際立っている性質は日本も持っている。日本には世界の人々を魅了する漫画とアニメがあり、ワールド・ベースボール・クラシック(WBC)の最多優勝国であり、忍者と武士がいた。
イギリスと日本は、強さではアメリカや中国にかなわないが、「この1点」に絞るとしばしば世界最高になる。
イギリスと日本の強くないが際立つ性質は、カフェレーサーと酷似している。カフェレーサーはバイク界で最も人気のあるジャンルではないが「世界一格好良い」と信じているファンが多くいるからだ。
「そんなのカフェじゃない」という言葉に隠された意味
「それはカフェレーサーではない」
このセリフは、カフェレーサー好きなら一度は言ったり聞いたりしているはずである。例えば「トライアンフがベースでないならカフェレーサーではない」「セパハンとシングルシートがついているからってカフェレーサーになるわけではない」「水冷4発エンジンのカフェレーサーは邪道だ」といったように使う。
そして誰かが「そんなのカフェじゃない」といえば、必ず別の誰かが「自分なりのカフェレーザーがあっていい」とか「定義に縛られるのはそもそもカフェの精神に反する」と言い返す。
カフェレーサー好きほど、バイクのジャンルにこだわるライダーは珍しい。
もちろんほかのジャンルのバイクに乗っているライダーも、自分のバイクのジャンルにこだわっているだろう。しかしそのこだわりの対象は、馬力や排気量、デザインといったバイクそのものの属性であり、ジャンルの成り立ちやジャンルの定義にまでこだわる人は少ないのではないか。
ところがカフェレーサー好きは「エース・カフェ・ロンドンも知らずに『カフェは格好良い』って言っている人がいる」みたいなことをいう人がいる。そのような人はカフェ界では厄介な存在なのだが、しかしその言葉にはカフェレーサーの歴史と定義への強いこだわりが現れている。
つまりカフェレーサー好きは、カフェレーサーというバイクだけでなく、イギリス人たちが築き上げてきたカフェレーサーの歴史と定義も好きなのだ。
カフェレーサーの価値は、イギリスで育まれたカフェレーサーの歴史によって強まっているのである。
由緒正しく際立つキャラ
カフェレーサーを知っている人なら、街中でカフェレーサーにカスタムしたバイクをみただけで「カフェだ」とわかる。つまり、そのカスタム・カフェレーサーのベース車両がトライアンフなのかヤマハなのかドカティなのかわからなくても、カフェであることは瞬時に判明する。
カフェレーサーのキャラクターの際立ち具合は、最強キャラ・バイクのハーレーに勝るとも劣らない。
バイク乗りの多くは、自己顕示欲が強いか、プライドが高いか、ナルシストか、目立ちたがり屋のいずれかに属すると思う。したがってキャラクターが際立っているバイクは、バイク乗りたちに好まれやすい。
しかもカフェレーサーのキャラクターはレーサーが由来になっているので、由緒正しい目立ち方ができる。イギリスが持つ由緒正しさや品性が、カフェレーサーにも色濃く含まれているのである。
まとめ~格好悪いのはカフェなんかじゃない
私のSR400はカフェレーサー・カスタムのベースになりやすく、これもSRを選んだ複数の理由の1つになっている。
ただ今のところ、私はSRをほぼノーマルで乗っている。カフェ・カスタムを施したいという気持ちはあるのだが、SRカフェは出尽くした感があり、どの方向に進んでもどれかに似たバイクになってしまうような気がして決断できないのだ。
――というくらいカフェレーサーが好きだ。つまり格好悪いカフェレーサーに乗るくらいならノーマルのままでいい、と思うくらい好きだ。